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人生の秋
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陽光に照らされ、さながら照明かのように煌めく、透き通った鱗雲が美しかった。
大好きな夏が過ぎ去り、肌寒くなってしまった毎日に一抹の寂しさを覚えながら、息子と共に暁を眺める。
心が動揺する出来事が多くて文章を書く気にならず、最後の更新からあっという間に2か月も経ってしまった。
小説に関しては四か月ほど更新していない。
その間、冬に締め切りの公募作品の改稿をしたり、短編の公募用作品を無理矢理ひり出したり、昔書いた漫画作品を小説化してみようと試みたりしていたが、どれも没頭出来ないでいた。
代わりに無心になれる編み物制作の方に力を入れてしまい、なんとなく文章を書く事が怖くなってしまった。
私は文章を書く事よりも、手を動かす方が好きなのではないか……?
三枚目のカーディガンを編みきった時、常日頃から脳裏をちらついていたその考えに向き合う事にした。しかし、それを受容するほど諦めの良くない私は、とりあえず短編を公募に出した。
まだまだ、書く事に対して可能性を捨ててしまいたくはない。
前回の日記以降、とんとん拍子に進んだ出来事と言えば、母の施設への転居である。
まだお見舞いにも挨拶にも行っていない親不孝な私であるが、もう少し間を置いてから顔を見たい。
とりあえず、施設や父から何の連絡も無いのだから、母はなんとか新生活を送っているのだろう(そう思いたい)
母の転居した施設は終末期を穏やかに過ごす場所というよりは、リハビリに力を入れている場所で、何人もの利用者さんが歩けるようになったり生きる気力を取り戻したりと、実績もしっかりしている所だそうだ。
しかし、母にはリハビリを行う気力は全くないらしく、毎日眠ってすごしたいのだそう。
今後、施設側と過ごし方の方針などで、もめなければいいと思う。
病気が発症する前の母はやる気に満ち溢れ、趣味だったドールハウスづくりの教室を開いたり、ミニチュアの制作やトールペイント、パッチワーク、編み物など、とても多趣味な人だった。
私は母から手芸の楽しさを教えて貰い、一緒に制作もしていた。
また、歴史が好きで経営学の勉強もし、ヒューマンドラマに溢れたTVドラマや映画、小説が好きだった。
週末には家族三人で映画を見て、考察や感想を語り合いながらファミレスで食事をする習慣もあった。
それが、体を起こす事すら億劫な人に変貌してしまって、正直当惑している。
というのも、私の叔母も若い頃に統合失調症を発症したのだが、陰性症状時にも、母ほどひどくふさぎ込んではいなかったからだ。
統合失調症には、まるで鬱病のようにやる気がすべてなくなってしまう「陰性症状」というものがある。
もちろん叔母も、その症状のせいで一日中横になっていた事もあったし、何日もお風呂に入れなかった事もあった。
しかし母のように、トイレのような日常動作すらおぼつかなくなってしまう程、動けなくなってしまう訳ではなかった。
母と叔母、発症した年齢も違えば性格も正反対の為、一概には言えないとは思うけれど、母の変貌ぶりを見るのは正直しんどい。
退職をして、人生を謳歌している父を見る程、母との落差に複雑な想いが心を蝕む。
そもそも、父が母と精神的に向き合えるような関係性を築けたなら、もっと違った未来があったんじゃないかと叫びだしたくなる。
しかし、父と決別しない選択をしたのもまた母だ。
住む場所もあり、経済的にも自立していたにもかかわらず、「一人は嫌なのよ」と離婚の提案を退けた母の事を、この頃よく思い出す。
こどもである私が、母の人生をより良く導けるわけでもないのに。
人は、己が手札で生き抜いてゆくしかない。
しかしその手札すら、ある日突然とりあげられてしまう事もある。
いつだか私が知ったように書いた一文の重みを、改めて噛み締めている。
大好きな夏が過ぎ去り、肌寒くなってしまった毎日に一抹の寂しさを覚えながら、息子と共に暁を眺める。
心が動揺する出来事が多くて文章を書く気にならず、最後の更新からあっという間に2か月も経ってしまった。
小説に関しては四か月ほど更新していない。
その間、冬に締め切りの公募作品の改稿をしたり、短編の公募用作品を無理矢理ひり出したり、昔書いた漫画作品を小説化してみようと試みたりしていたが、どれも没頭出来ないでいた。
代わりに無心になれる編み物制作の方に力を入れてしまい、なんとなく文章を書く事が怖くなってしまった。
私は文章を書く事よりも、手を動かす方が好きなのではないか……?
三枚目のカーディガンを編みきった時、常日頃から脳裏をちらついていたその考えに向き合う事にした。しかし、それを受容するほど諦めの良くない私は、とりあえず短編を公募に出した。
まだまだ、書く事に対して可能性を捨ててしまいたくはない。
前回の日記以降、とんとん拍子に進んだ出来事と言えば、母の施設への転居である。
まだお見舞いにも挨拶にも行っていない親不孝な私であるが、もう少し間を置いてから顔を見たい。
とりあえず、施設や父から何の連絡も無いのだから、母はなんとか新生活を送っているのだろう(そう思いたい)
母の転居した施設は終末期を穏やかに過ごす場所というよりは、リハビリに力を入れている場所で、何人もの利用者さんが歩けるようになったり生きる気力を取り戻したりと、実績もしっかりしている所だそうだ。
しかし、母にはリハビリを行う気力は全くないらしく、毎日眠ってすごしたいのだそう。
今後、施設側と過ごし方の方針などで、もめなければいいと思う。
病気が発症する前の母はやる気に満ち溢れ、趣味だったドールハウスづくりの教室を開いたり、ミニチュアの制作やトールペイント、パッチワーク、編み物など、とても多趣味な人だった。
私は母から手芸の楽しさを教えて貰い、一緒に制作もしていた。
また、歴史が好きで経営学の勉強もし、ヒューマンドラマに溢れたTVドラマや映画、小説が好きだった。
週末には家族三人で映画を見て、考察や感想を語り合いながらファミレスで食事をする習慣もあった。
それが、体を起こす事すら億劫な人に変貌してしまって、正直当惑している。
というのも、私の叔母も若い頃に統合失調症を発症したのだが、陰性症状時にも、母ほどひどくふさぎ込んではいなかったからだ。
統合失調症には、まるで鬱病のようにやる気がすべてなくなってしまう「陰性症状」というものがある。
もちろん叔母も、その症状のせいで一日中横になっていた事もあったし、何日もお風呂に入れなかった事もあった。
しかし母のように、トイレのような日常動作すらおぼつかなくなってしまう程、動けなくなってしまう訳ではなかった。
母と叔母、発症した年齢も違えば性格も正反対の為、一概には言えないとは思うけれど、母の変貌ぶりを見るのは正直しんどい。
退職をして、人生を謳歌している父を見る程、母との落差に複雑な想いが心を蝕む。
そもそも、父が母と精神的に向き合えるような関係性を築けたなら、もっと違った未来があったんじゃないかと叫びだしたくなる。
しかし、父と決別しない選択をしたのもまた母だ。
住む場所もあり、経済的にも自立していたにもかかわらず、「一人は嫌なのよ」と離婚の提案を退けた母の事を、この頃よく思い出す。
こどもである私が、母の人生をより良く導けるわけでもないのに。
人は、己が手札で生き抜いてゆくしかない。
しかしその手札すら、ある日突然とりあげられてしまう事もある。
いつだか私が知ったように書いた一文の重みを、改めて噛み締めている。
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