普通に生きられなかった私への鎮魂歌

植田伊織

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「休息をとりつつも、前を向くことを諦めないで欲しい」

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 いつかのエッセイに書いた、精神障碍に関する公募(今確認してみたら〝寄稿〟と書いてあったので、厳密には公募では無かったかもしれない)に応募した作品を、ラグーナ出版様から発刊されている『シナプスの笑い』という雑誌に掲載していただく事になった。

(6月20日に発売いたします。
 母が統合失調症と診断されるまでの経緯を体験談としてまとめたもの。
 『命、短し』という題で掲載されます。
 よろしくお願いいたします)

 掲載のご連絡を頂いた際に、「同じ病気の人に対してのメッセージをお願いします」と言われて、私は「休息をしながらも前向きに頑張って欲しい」と言ってしまった。

 とんだ失言だったと思っている。

 前向きになれない方も多いであろう当事者の方々にとって、残酷な事を言ってしまったものだと、比喩でもなんでもなく、頭を抱えて後悔した。

 言い訳をさせていただけるのなら、私はご連絡をいただくまで具合が悪くて眠っていた。よって、頭が全く回っていなかったという事情がある。
 また、掲載作品に選んでいただけるとはちっとも思っていなかったので、突然の事に頭が真っ白になり、気の利いた事が一切言えなかった。
 さらに、ご連絡が苦手な電話だったというのもあって、とりあえず頭に浮かんだ言葉を伝えたという感じだったのだ。

 精神に病を持つ方に「前向きに頑張れ」と言う事が、どれほど残酷か。知らなかったはずは無い。

 頑張っても頑張っても及第点に届かず、努力が全て裏目に出てしまった経験。次第に目の前が真っ暗になってゆき、願望に手を伸ばす事すら苦痛になってゆく、あの感覚。
 明るい未来など考えられない時に、どうすればポジティブになれると言うのだ。

 しかし、だ。
 前をむく事を諦めた時、人はどうなるだろう。

 端的に言って、それは病状によると言っていいと思う。

 なんだかんだ、なんとかなってしまう人も居るし、心に苦しい思いを抱えたまま時間を過ごす人も居る。
 辛い事があった〝その時〟で時間が止まってしまう人もいる。
 病状を改善するだけのエネルギーを得られず、症状を悪化させてしまう人も居る。――私の母のように。
 
 〝頑張ることを諦めた〟ように思える、母の病状悪化の様子を見て、私は、心の闇を安寧の地にしてほしく無いと、強く願ったのだ。

 
 私は編集の方にメールをし、恐縮ながらもメッセージを変更していただいた。

「休息をとりつつも、前を向くことを諦めないで欲しい」と。
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