長~い しっぽの キツネ

のの花

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長~い しっぽの キツネ

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むかしむかしのことです。
北の寒い地方に住むキツネの “キィータ” には、こんな切ない物語がありました。

この地方に住むたくさんのキツネたちは、それぞれの家族ごとにほら穴に住んでいました。

村の人々は、そこを “キツネの里” と呼び、作物を荒らし、大切にしているニワトリなどを奪い取っていくキツネたちにいつも頭を悩ませていました。
村の人たちにとってはやっかいな敵にしか見えないのです。

そんなほら穴のひとつで赤ちゃんキツネが産まれました。
「ほ~ら、こんなにかわいい赤ちゃんが・・
えっ!?」

お母さんキツネが目をまんまるくして驚いています。

「ほんとだな!お母さんに似て・・えぇっ!」

と言いかけたお父さんキツネも、ひどく驚きました。

「これは、いったい・・・!?
この子のしっぽ、こんなに長い!
この前となりのほら穴で産まれた赤ちゃんキツネのしっぽよりずっと長いぞ・・
それに、この色・・
金色に光ってるじゃないか・・・」

そうなのです。
産まれた赤ちゃんキツネのしっぽは信じられないほど長く、しかも金色に光っていたのです。

それでも、親キツネはそんなわが子を “キィータ” と名付け、とても大切に愛情をもって育てていきました。

ところが、キィータは大きくなるにつれていたずらが何よりも大好きになり、村の人々からは嫌われるようになってしまったのです。

キツネの里にはたくさんのキツネがいましたが、キィータのしっぽの長さと色が特徴的で、キィータのいたずらはすぐにバレてしまうのです。

しかも、村を荒らす動物はイノシシなどもいましたが、なんでもかんでもキィータのしわざにされてしまうのです。

そのためキィータは村の子ども達からも嫌われ、見つけられると石を投げつけられたり、ワナを仕掛けられてケガをしたりと毎日さんざんな目にあっています。

そのキィータの長いしっぽは、身体の成長と共にますます長くなっていきます。

「このしっぽ、ほんっとに邪魔だ~!なんとかならんもんか!」

そう言ったところで、しっぽは身体の一部 どうこうできるものではありません。

しかし、長すぎてあちこちの岩にぶつけたり木にひっかけたりと常に生傷も絶えないのも事実です。

思い余ったキィータは、仲間のキツネに頼んでみました。

「頼むから、このしっぽ半分切り落としてくれよ!」

「いやだよぉ!そんなことオレには出来ないよ!」

「そんなこと言わないで、たのむよ!一生に一度のお願いだから!」

「いいや!ムリムリ!」

こんな調子で、どのキツネに頼んでも “ウン!” とは言ってくれません。

仕方なく、キィータはその長いしっぽを首に巻いて生活するようになっていきました。

実はそのおかげで、良いこともありました。
寒い地方で暮らすため、冬は首がポカポカしてとても暖かいのです。
良いことと言ったら、そのぐらいのものでした。

ただ、しっぽは長くなり続けるので首に巻くしっぽは二重巻き、三重巻きとキィータの首はしっぽでしだいにグルグル巻きになっていきました。


その頃には、キィータの親もすでに亡くなっていて兄弟もいないキィータはひとりぼっちでほら穴に住んでいました。

勝手気ままに生きていたキィータは
「どれ!たまにはうまい食いもんでも探しに行くとするか!
山には、いっぱいいるからな。」
キィータは山の中での狩りがとても楽しみになっていたのです。
村で逃げ回りながら食べ物を得るのは、もうこりごりだったからです。

山の中で自由に狩りを楽しんでいると、何やら近くを流れる川から叫び声が聞こえてきます。

「だれかぁ~!!たすけてぇ~~!だれかぁ~!!」

その声にキィータは、川をチラッと覗いてみました。
すると、村の子どもの太郎吉が川で溺れかかっていました。
必死に川岸の木の根っこにしがみついていますが、流れも速く今にも流されてしまいそうです。

キィータは「ふん!おまえは、いっつもオレに石を投げつけてきたヤツじゃねぇか!
おい!オレのことを忘れたのか!?こんな時ばっかり助けを求めてくるんじゃねぇよ・・」と内心では “ざまぁみろ・・” と舌を出していました。

でも、連日上流ではひどい雨が続いたため川の水が上昇し、どんどんどんどん水が押し寄せてきています。

キィータの耳には、ゴォ~~~!!と一気に水が迫ってくる音が聞こえてきます。
野生で生きているキィータには、その音が何を意味しているのか十分過ぎるほど分かっています。

「へっへっ!残念だなぁ!オレにはどうすることも出来ねぇよ!
これからますます水が増えてくるってぇのに、こりゃおしめぇだな!!
今までさんざんオレのことをいたぶってきたくせに、こうなりゃあわれなもんだぜ!
どれ、見物でもするか・・・」

キィータは太郎吉を高いところから見下ろしながらも、心の中では “まっ!自分でなんとかするだろう・・” と思っていました。

それほど今までやられてきたことに対して、うっ憤がたまっていたのです。

その間も太郎吉の震えるような大きな叫び声は、耳をつんざくほどでした。

「お願いだ!たすけて~!周りには誰もいないんだよ!
オレ、病気の母ちゃんに美味しい魚を食べさせてあげたいと思って、ひとりでここまで来たんだよ!
ゴボッ!ウッ!ゴボッ!
驚かせたくて・・父ちゃんにも母ちゃんにも黙って・・
だけど、ゴボッ!こんなことになってしまって!
母ちゃん・・母ちゃん・・ごめんよぉ!
ゴボッ!ゴボッ!」

そう言う太郎吉の声は、水を何度もかぶるせいかだんだんと小さくなっていき 息をするのも苦しそうです。

もう、溺れてしまうのは明らかです。

こんなことを聞かされたキィータは、ここで見ているのはやるせなくなり帰ろうと思いましたが、さすがに太郎吉をこのまま見捨てることが出来ず、考え抜いたあげく意を決して

「しょうがねぇなぁ!!ほ~らよ!これにつかまれ!!」と自分の長いしっぽを首からほどき、太郎吉めがけて投げかけました。

突然、キツネのしっぽが目の前に現れ、太郎吉はわらをもすがる思いで力を振り絞り、キィータのしっぽに必死にしがみつきました。

「しっかりつかんで離すなよ!離したら終わりだからな!」
とキィータは言って、
「え~い!え~い!どっこいしょ!
え~い!これでもかぁ¬!」と太郎吉を力の限り引っ張ります。
が、流れが強すぎて何度引っ張っても太郎吉を引き上げることが出来ません。
キィータも、しっぽが引きちぎられるのではないかと思うほどの痛さに悲鳴を上げます。

「お~い!やっぱり離せぇ~!痛すぎる!もう無理だぁ!」
「いやだぁ~!絶対離さない・・!ゴボッ!」
「うるさい!離せったら離せ!」
「やだやだ!ゴボゴボッ!離すもんかぁ!オレは母ちゃんのところに帰るんだ!ゴボゴボッゴッ!」

こんなやり取りを繰り返す中、キィータは濁流の音ですぐそこまで危機が迫っているのを感じ取りました。

“このままでは、オレまでまきぞえをくっちまう・・”

そう思ったキィータは、近くの木にしがみつくと渾身の力をしっぽに集中させ
「どぉりゃぁ~~~~!」と今までに出したことのないような奇声を発しながら長いしっぽを思いっきり振り上げました。

すると、振り上げられたしっぽにつかまっていた太郎吉が宙を舞い、川から離れたところにドスッ!と落ちてきました。

「いってぇ~~!」と声をあげたのはキィータです。
「いてッ!いてッ!いってぇ~~!」
おしりをさすりながら、ピョンピョン飛び跳ねながら悲鳴をあげています。
「ケツが!ケツが!いってぇ~~!
イテェ!イッテェよお!イッ!イッテェ~!」

「?????」

「あっ?あっ?あれ!?あれ!?
ない!ない!オレのオレの・・
オレのしっぽが、ねぇぇぇぇ~~~~~~~~~!!」

キィータの大絶叫がこだまします。

あまりの川の流れの強さに逆らって、太郎吉を引っ張り上げたことでキィータのしっぽが根元から引きちぎられてしまったのです。
キィータは腰を抜かすほどびっくりして、おしりをおさえながら一目散にキツネの里に逃げてしまいました。

一方の太郎吉は、キィータに助けられ 川から救い出されたことはわかったものの、自分の腕の中にキィータの長くて光るしっぽだけが残っていることにひどく驚き、
「ひゃぁ~~!」と叫び、しっぽを放り捨てると村に向かって逃げ帰ってしまいました。

そこには、キィータの長くて光るしっぽだけがポツンと取り残されてしまいました。

その話を太郎吉から聞いた村人たちとキィータから聞いたキツネたちは、なんだか気味悪がってそれ以来誰もその場所に行くことはありませんでした。

それからというもの、傷が癒えたキィータが村に行ってもキィータをひどい目にあわせる人は誰もいなくなりました。

そして、キィータのしっぽは根元から引きちぎられてしまったので、再びしっぽが伸びてくることはありませんでした。
あんなにも、しっぽが邪魔だったのに無くなってしまったらそれはそれで何か物足りなく悲しいキィータです。

年月が経つと、もう誰もその時のことを思い出すことはありませんでしたが、キィータだけは自分の分身でもあった長いしっぽのことを忘れることが出来ずにいました。

月日が流れれば流れるほど、恋しい気持ちが募ってくるのです。

それから、さらに10年ほどが経ちキィータもすっかり年をとってしまいました。
もう、若い時のように走り回ることは出来ません。

ある春の終わりごろに、キィータはふと投げ捨てられた自分の長いしっぽが、あれからどうなったのか気になって気になって居ても立ってもいられなくなりました。
こんな気持ちになったのは、あれから初めてのことです。

「オレのあのしっぽはどうなったんだろう!!
だれかに、食われちまったかもしれん!」

そう思うとなんだか急にしっぽが哀れに思い、キィータは、思い切ってあの場所に行ってみることしました。

“たしか、このあたりじゃなかったろうか?”

あたりは、すっかり変わっていました。
それもそのはずです。
誰も行くことがなくなったその場所は、木々が生い茂り草や花も辺り一面に咲きほこって、さすがのキィータも、すぐにはあの時のあの場所だとはわからないほどだったのです。

でも、長年住み慣れた山です。
野生のキィータには、まちがいない!ここだ!と、はっきりわかったのです。

そして、そこには特別大きな木が育っていました。

桜の木です。

春も終わりだというのにまだ花が咲いていました。
桜の花の色は黄金色です。

なぜか心惹かれたキィータは、その木に近づきそっと手を添えた瞬間、サァ~~!と、あたたかい風が吹き桜の花が吹雪のようにひらひらと舞い始めたのです。

その花吹雪は太陽の光を浴びて、キラキラと黄金色に輝いています。
まるで、あの時のキィータのしっぽが桜の花びらになってキィータを迎えてくれているようです。

「そうか・・オレを待っていてくれたのか・・
遅くなってしまって、すまん!!」

キィータは、そんな花吹雪の中に身をゆだねると過去を懐かしむように一筋の涙を流し永遠の眠りにつきました。
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