じっちゃんとネコのミャア

のの花

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じっちゃんとネコのミャア

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むかしむかし海辺にある古い家にじっちゃんとばっちゃんが住んでいました。
でも、ばっちゃんは身体が弱く もう起きるあがることも出来ませんでした。
それでも、じっちゃんは一生懸命ばっちゃんを看病し励まし続けていました。

「ばっさま、少しでもかゆを食べんかね・・
な~んも飲まず食わずでおっては、身体によくねぇ・・」

「じっさま・・悪いのぅ。
じゃけんど、もうなぁんも喉を通らんで・・」

そう言ったわずか数日後には帰らぬ人になってしまいました。

じっちゃんは、もともと漁師でした。
でも、たいそうな年になっていたので ばっちゃんと一緒に
余生をのんびり過ごしていました。

ばっちゃんを亡くしたじっちゃんは、それはそれは力を落とし生きる気力も無くなっていきました。

「ばっさまぁ!わしを一人残して先に逝きよるなんて
これからわしゃぁどうすりゃいいんじゃ・・」

じっちゃんは毎日このようなことばかりを考えていて、砂浜へ行っては海を見つめ涙を流していました。

そんなある日のこと、どこからか
「ミャァ~~! ミャァ~~!」と、かわいい声が聞こえてきました。
見ると、そこには小さなネコがぽつんと座っていました。

「どうしたんじゃ?おまえもひとりぼっちなんか?」
「ミャァ~~!」
「母さまはおらんのか?」
「ミャァ~~!」

子ネコは近づいても逃げる様子はありません。
周りを見渡しても、親ネコがいる様子もありません。

じっちゃんは、子ネコを抱き上げると
「わしんとこに来るか?」
「ミャァ~~!」

じっちゃんは、子ネコを自分の家に連れていきました。
そうして、一緒の生活を始めたのです。

「お前の名前はなんというんじゃ?」
「ミャァ~~!」

子ネコは何を聞いても、ミャァ~~!としか答えません。

「そうか・・そうか・・
それではのぅ。お前のことはこれから “ミャア” と呼ぶことにするかのう」

「ニャン!」

子ネコの鳴き声が変わりました。
“いいよ!” と言っているようです。

じっちゃんは新たな家族が出来て、それはそれは嬉しそうでした。

それからというもの、じっちゃんは “ミャア” が生きがいとなっていきました。

貧乏なじっちゃんは、おなべでおかゆを作るとまず最初に“ミャア” に十分食べさせます。
お鍋に残ったわずかなおかゆをじっちゃんが食べるという毎日です。
「ミャアよ!わしももう年で足も腰も痛うて働けんし、お前に存分食わせてやれんですまんのう!」
こう言って、じっちゃんは自分で腰をトントンと叩いています。

じっちゃんはおかゆだけでは “ミャア” のために良くないと思いにわとりを飼い始めました。
たくさん飼うことは出来ません。

それでも、卵を産むと村の方へ売りに行ってわずかなお金を得るようになっていきました。
ただ、卵は売るためのもので自分たちが食べるわけにはいきません。
時々、ひびが入ってしまい売り物にはならない卵をおかゆのなかに入れて “ミャア” と一緒に食べていました。

「もっと お前にも力の付くものを食わせてやりてぇなあ・・」
腰をトントン叩きながらじっちゃんは “ミャア” に詫びています。
「そうだ!わしゃあ若いころは漁師じゃった!わしとミャアが食う分ぐらいはこんな年寄りでも捕ってこれるじゃろ・・」

そう言って、じっちゃんは小さい魚を捕ってきました。
捕ったばかりの魚は “ミャア” が美味しそうにかぶりつきます。
じっちゃんはそれを眺めているのが、幸せでたまりません。

ただ、じっちゃんは漁をすると腰がさらに痛くなるのでたびたび海にいくことはムリでした。

そこで残った魚は、干物にしていつでも食べられるように大切にしまっておきました。

幸せな日々が続く中、突然 “ミャア” の姿が見えなくなりました。
何日も帰ってきません。

「ミャァ~~!どこへ行っちまっただ・・」

じっちゃんは、心配やらさみしいやらで何もする気がおきません。

ある日の夜のことです。

じっちゃんの家を誰かがトントンと叩く音がしました。
じっちゃんは、ミャアのことが気がかりだったのですぐに戸を開けました。

そこには、かわいらしい女の子が立っていました。
「だれじゃあ?」じっちゃんはミャアではなかったのでがっかりでした。

「こんな夜にすみません。わたし帰るところがないんです。
近くまで来たら、ここの家に灯りが見えたのでつい・・」
そう言って、女の子はうつむきました。

「帰るところがない?どうしてじゃ?」

「親は死んでしまいました。わたしは家を追い出されて、どこへ行くあてもないまま歩いてきました。
そうしたら、この灯りがあまりにもあたたかく感じて
引き寄せられてしまったんです。」

そう言って涙を流す女の子を不憫に思ったじっちゃんは

「それは、可哀そうなことじゃのう・・
こんな家で良かったら、好きなだけおったらいい・・
わしは、ネコの “ミャア” が寝ていたこのわらの上で寝るから、お前さまは、わしのこの布団で寝るがいい・・
あまりきれいとはいえんがのう・・」

そう言って、じっちゃんはわらの上で寝るようになりました。

女の子の話によると名前はミミということでした。

食べるものはあまりありませんでしたが、それでもなんとかおかゆと干した魚と時々食べられる卵でふたりの生活は続いていました。

「じいさま・・こんなに良くして頂いてありがとうございます。
じいさまは腰が痛いのですか?よく腰を叩いているようですが?」

「そうじゃのう・・これは持病なんじゃ!もう長いこと病んでおる。」

「わたし、じいさまの腰をさすってあげます。
家ではよく親の足腰をさすってあげていたんです。」

「いやいや!そんなこと気にしなくてもいいのじゃ・・
こうして、叩いていればじきに良くなる・・」

「でも、こんなに良くして頂いているので少しでもお役にたちたいのです。」

それからミミは、じっちゃんの身体をさすってあげるようになっていったのです。

「ミミ・・いつも悪いのう!
おかげでだいぶ良くなってきたわい!
でも、ムリせんでくれよ・・」

じっちゃんは、ミャアがいなくなった寂しさをミミのおかげで少しだけ癒されていました。

ところがある日、今度はミミが突然いなくなりました。

じっちゃんは、またもひとりぼっちになってしまい、途方にくれました。
夜の浜辺でじっちゃんは海を眺めていました。

ザッザ~、ザッザ~~
ザ~~

寄せる波、返す波、夜空はきらめく星々とまんまる月がじっちゃんを見守ってくれているようです。

「ミャアもミミもどこ行っちまったぁ??
わしだけいつも取り残される・・」

じっちゃんはとめどなく流れる涙をぬぐうこともせず、

「ばあさまや・・もう迎えに来てくれんかのう・・
ひとりぼっちでは、もう生きておれん・・」

すると、ミミがいなくなった数日後のことです。
家の入口の戸がガリガリと何やら音がしてきました。
じっちゃんは何事かと戸を開けてみると、なんとミャアがいるではありませんか!!

「ミャアでねぇか・・どこ行っておったんじゃ!
ミャア、わし一人おいて、どこ行っておったんじゃ!?」

「ニャン!」

「よう、帰ってきてくれたのう!待っておったんじゃぞ!
もう、わしを一人にせんでくれ・・」

「ニャン!」

こうして、またじっちゃんはミャアと暮らし始めました。

幸せな日々にじっちゃんは
「ばっさま・・ばっさまが探して連れてきてくれたんじゃな・・
ミャアがいれば、きっと わしゃまた生きていける・・」

じっちゃんは、
「ミャアや、お前の好きな魚がたんと取ってあるぞ。
好きなだけ食えよ・・」
「ニャン!ニャン!」

じっちゃんとミャアは強いきずなで結ばれているようです。

こうして、またじっちゃんとミャアは何事もなかったかのようにささやかな幸せを感じながら暮らしていました。

が、月の半分も過ぎたころ、またもやミャアがいなくなりました。

じっちゃんは、何が起きたのかさっぱりわかりませんでした。

「ミャア・・・おまえはもうわしには愛想がつきたのか!?
それともどこか、生きる場所が見つかったのか!?
もういい・・もういいよ。
どこにいてもミャアが幸せなら、それで・・・」

じっちゃんは、ミャアの幸せを願いつつ一人生きていくことを受け入れました。

すると、不思議なことに今度はミミが姿を現しました。

「ミミでねぇか・・
いってぇ、どうなっているんじゃ!?」

「じいさま。黙って出ていってごめんなさい。
また、ここに置いてもらえますか?」

「まぁ、好きにすればええけど・・」

じっちゃんは、喜んだり悲しんだりを繰り返すのに疲れてしまっていて力なく答えました。

「じいさま、何か食べるもの作りますね!
寝る前にまた身体の痛いところをさすってあげますね。」

じっさまは、不思議に思っていることを口にしました。

「なぁ・・ミミ。
おかしなことを言うようじゃが、もしかしたらおまえはミャアなのか?
ミャアがいなくなるとミミが来て、ミミがいなくなるとミャアが帰ってくる!
不思議じゃのう?」

ミミは黙ってうつむきます。
その目には涙が滲んでいます。

「じいさま・・・
実は、じいさまの言う通りです。
ミャアはひとりぼっちで、生きる力を失くしかけた時、じいさまに救われました。
じいさまは、食べるものが少なくても いつもミャアに十分に分け与えてくれました。
ミャアの好物の魚も痛い腰をさすりながら、捕ってきてくれました。
だから、恩返しをしたいとずっと思っていたんです。
でも、ネコの身では何もできません。
そう思っている時、海に住むという神様に出会ったんです。
海の神様には、ミャアの思っていることがすぐにわかってしまいました。
海の神様はミャアに言ってくれたのです。」

「ミャアよ!あのじっさまは本当に心優しいお人じゃ!
漁の仕方を見ていればわたしにはよくわかるのだ!
ミャア!月の半分は人間としてじっさまの元へ行くが良い!
そして、心ゆくまでじっさまを大切にしなさい。
あとの半分は今まで通り、ネコのミャアとしてじっさまと過ごすのだ!
しかし、このことをじっさまに告げたらもう人間にはなれない。
ずっとネコのままじゃぞ!
このことは、決して忘れてはならん!」

「ミャアは海の神様から、このようなお告げを頂いたのです。
でも話してしまった以上、もうミミはじいさまの元にはいられません。
どうか、お身体を大切にお過ごしください。」

ミミはそう言うと、静かに家を出ていきました。

今は、じっちゃんの元にはミャアが寄り添っています。
もう、どこへも行くことはありません。
ずぅ~~っと、ミャアのままです。

「ミャアよ!おまえは本当にやさしいなぁ・・
わしはミャアがおるだけで、それだけで本当に幸せなんじゃ!
それに、ミャアの中にはミミもおるんじゃろう?
わしゃぁ、欲張りじゃなぁ・・・」

「ニャン!ニャン!」

それからじっちゃんは、ミャアと共に幸せに暮らしていったそうです。
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