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元治元年京都
冷たい秋風が吹いても都の夕暮れ時は華やいでいる。武蔵国の秋のような寂しさは無い。
近藤勇が壬生の新選組の屯所の門を出たところで、向こうから黒羽織を着た背の高い、凄みのある武士が歩いて来るのが見えた。数人の若い隊士を連れている。黒羽織が夕日を捕らえて、端正な武士の顔を引き立てている。屯所の前で鉢合わせとなった。
「おや、近藤先生、これからどちらへお出かけですか」
目を伏せて小声で問う。男としては長い睫が深い影を落とす。
「島原だ。ところで歳、いや副長、粋な黒羽織だな。まさか」
羽織の袖を撫でる。生娘の肌のように張りがあって、滑らかな感触だった。
「これは、五日市です」
「うーむ、やはりそうか。艶がある」
「ふふ、いってらっしゃいませ」
ほんの一瞬、土方歳三が冷たい目で睨むのを、近藤勇は見逃さなかった。
昨年の池田屋の事件以来、歳はずいぶん変わったな。確かにおれたちは以前より、金回りも良くなったが、それだけじゃない。あの貫禄は何だ。五日市の黒羽織のせいで、そう見えるだけかもしれんが、気後れしちまった。あいつはどうやら、おれの島原通いが気に入らないらしい。ふん、まるで小うるさい古女房のようじゃないか。
近藤勇は島原の馴染みの店に登楼した。敵娼と部屋で二人きりになると、酒もそこそこに抱きすくめ、肌に塗り込められた白粉の甘い香りに陶然とする。紅葉色の着物の裾を割り、武骨な指を深く忍ばせながら、つるりと滑らかな丸帯をぐいと片手で解きにかかる。
「おや、この手触り」
押し倒した敵娼の足首を掴み、行灯の近くまで引きずる。帯を見ると深い艶やかな黒だった。
「ほほほ、この帯は五日市どすえ」
片膝を立てて、白い太ももをほの暗い部屋に浮き上がらせた敵娼が微笑んでいる。
近藤勇は頭を掻いた。やれやれ、こんなところまで追いかけてくるとはな。
武州多摩の田畑は今頃、何色に染まっているのだろうか。
多摩の百姓女たちの機織りの音、玉川のせせらぎが聴こえる。
そして、黒を纏い冷たく笑うあいつの顔がちらつく。
敵娼の腹に巻かれた黒い帯、五日市に頬ずりをした。
(了)
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