ロンリー・グレープフルーツ

れつだん先生

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第12話 労働

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 仕事探しもろくにせずゲームばかりやっていた僕に彼女の堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だった。とはいっても面接はいくつか受けて、正式に採用となったのもいくつかあったのだけれど、どれもこれも二日三日で辞めてしまっていた。仕事をするということが死ぬほど嫌だった。それよりも僕はゲームをしたり、たまに小説を書いたりして過ごすほうが良かった。それはたぶん誰でもそうなんじゃないかなと思う。しかし彼女の収入だけでは僕と子供二人を養うことは不可能だった。僕は比較的楽そうなバイトを選んだ。コンビニの夜勤だった。僕はもうコンビニの夜勤しかできないのではないか、と不安になったものの、経験者ということもあり運よく採用となったため、そこで働くことになった。フリーターなため比較的自由にシフトを組められるということで重宝され、昼に入ったり夕方に入ったり夜に入ったり、疲れはあるもののそれなりに充実していた。一緒に働いている人は主婦ばかりでで若い女性はいなかったけれど、仲良くさせてもらっていた。店長にならないかという話まででていたけれど、朝六時から夜の六時までバックルームで延々パソコンをいじったりシフトを考えているのを見ると、どうも乗り気にならなかった。何とか収入を得ることには成功したけれど、コンビニのバイトでは生活がかつかつすぎるし、向こうの親からしても、いつまで経ってもフリーターというのは示しがつかない。同じシフトに入っている主婦から溶接工の仕事を聞かされ、日給もいいし一応正社員ということもあり、僕はコンビニを辞めて溶接工になった。それについては彼女も納得してくれた。しかしこの溶接工は地獄といってもよい職場だった。

 ハンマーが僕の顔の横を飛んだことがあった。比較的仲良くさせてもらっていたんだけれど、やはり職人の仕事とあって、説明などは一切ない。見て覚える、というのが基本だった。「○○取って来い」と言われ、「それは何ですか」と聞くと――僕はそういった仕事は初めてだったので、用語が一切わからなかったのだ――「○○は○○だよバカ野郎」との怒号が飛んでくる。とりわけ金髪の年上の男性から忌み嫌われていた。毎日「お前みたいな奴は使い物にならない、さっさと辞めろ」「やる気がないなら家に帰れ」「死ね」「失せろ」なんていう言葉を毎日毎日聞かされて、いつかハンマーでこの男を殴ってやろうと何度も思った。しかし仕事以外では優しい、とまではいかないけれど普通の対応をしてくれる。それが職人なのだ、といってしまえばそれまでだけれど、毎日毎日そういうことを言われると精神的にかなりきつくなってしまった。そして僕はその仕事も三ヶ月で辞めることになる。

 溶接工の仕事は精神的にかなりダメージがきたようで、僕はもう何もしたくないという無気力状態になってしまった。完全なる引き篭もりといってもいい。そんな僕を見かねて、彼女の父親が「二日だけでもいいから仕事手伝ってみないか」と言ってくれた。彼女の父親は土建会社に勤めており、僕の体の二倍以上あり、黒々と焼けている。彼女の母親は病院の看護師をしている。彼女の弟は僕と同い年で、古い電柱を潰し新しい電柱を立てるという仕事をしている。僕は、何もしていない。僕は乗り気ではなかったが、このままずるずると何もせずにいても仕方が無いと思い、頷いた。これも地獄だった。気づけば夏がやってきていた。日が経つのはものすごく早い。いくら待って貰おうと思ったって待ってはくれないし、いくら早く進んで貰おうと思っても進んではくれない。

 朝、彼女にたたき起こされ、家から徒歩十分ほどにある事務所に向かう。小さな土建会社なので従業員は数人しかいない。みな同じように黒々と焼けている。ひりつくような暑さが、エアコンに慣れていた体を刺激して、外に出て少し歩くだけで汗が滝のように流れてくる。それをタオルで拭いながら、適当に挨拶を交わす。それからトラックに載せられ、目的地に到着する。ただ言われるがままに体を動かしていたので、頭は一切使わない。とりあえずただっ広い砂山からショベルで土をほぐし、土嚢を延々作っていた。ある程度まで作ると休憩ということで一服し、黒々と焼けた体の大きな女性がアイスクリームを買ってきてくれたのでそれを食べる。もう全身の水が出っきってしまったのではないだろうか、と思えるほどに流れ続けている。頭に巻いた白いタオルだけでこの日光をどうにかできるとは思えない。脱水症状だけには気をつけるように、と言われていたので、適度に水筒から茶を飲みながら、また土嚢を作る。作り終えたらそれをトラックに載せ、走らせて小さながけのようなところにいくつも積み重ねる。もうその時点でギブアップ寸前だった。他の人たちも同じように汗を流しながら作業をしている。僕はもうその日で何杯目かわからないお茶を飲んだ。途中近所のお婆さんが菓子とお茶を持ってきてくれたので、時間的にもそろそろだということで休憩に入ることになった。木陰に入って風に当たる。汗でぐっしょりとなったTシャツに涼しげな風が当たって気持ちがいい。たまにこうやって汗を流すのもいいな、と思った。これが毎日だときついけれど……。こういった外でする仕事に就いている人は本当にすごいと思った。僕にはできない。けれど約束なので明日も来なきゃいけない……。憂鬱になる。
 土嚢を作ってがけに置いて、それだけで一日が終わった。彼女の父親は黙って僕に一万円をくれた。彼女は「お金なんていいよ」と言ったけれど、彼女の父親は「いいからいいから」と手にねじ込んできてくれた。これで一万なら、別にいいかもしれ……いや駄目だ。
 久々に仕事をしたということで、彼女は事前にビールを買っておいてくれた。汗をかいたあとにシャワーを浴び、きんきんに冷えたビールを呑んでいると、最高の気分になれる。しかしアルコールが入るとセックスができない。そういえば、と思い返す。最近セックスしてないかもしれない。まあそんなことはどうでもいい。まどろみの中、睡眠へ――

 次の日も同じことの繰り返しだった。シャベルで土を袋に詰め、土嚢にし、それを崖に並べていく。そして近所のおばあさんから茶菓子を頂く。汗が吹き出ては茶を飲み、たまに一服をし、あっという間に一日が終わった。そして当然のように一万円札を僕に差し出してくれた。僕は二日間で得た二万円で彼女が大好きなミュージシャンのDVDを買ってあげた。同棲を始めてからというもの、彼女に迷惑をかけてばかりなので、これぐらいはしてあげないと。喜んでくれた。
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