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最終話 終焉
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どうすればいいんだろう。これから何を楽しみに生きていけばいいんだろう。思考を変える。とりあえず仕事だ。仕事をしなきゃ家賃が払えずに追い出される。飢え死にする。しかし住んでいる場所が田舎のため、いい求人がない。あったとしても飲食か介護で、これまでコンビニと工場しか経験のない僕にとっては飲食も介護も選択肢に入らない。しかしそんなことも言ってられない。気づけば残金は五千円を切っていた。とりあえず週払いの一週間の短期のバイトを見つけたのでそこに連絡し、車で三十分かけて面接へと行く。即採用だった。そこで僕はとある女の子と出会うことになる。
仕事内容はカップラーメン工場よりもシンプルだった。即採用の仕事なんて大体がそうだ。オープンする電気屋にダンボールの荷物を運ぶというだけ。トラックの荷台に乗り込んだ人が僕に手渡すのでそれを台車に乗せ、中へと運ぶ。中には基本的に女性がおり、台車を女性に渡してまたトラックの荷台へと戻る。休憩時間になったので煙草を吸いながら携帯をいじっていると、職場の女の子に離しかけられた。
「今日が始めてなんですか?」
「そうですよ」と年齢がわからないため一応敬語で返す。それからいくつか会話を重ね、その女の子が僕よりも一つ下だというのが判明した。かなり積極的な女の子で、話しかけるのも携帯の連絡先を聞くのも次のデートの約束を取り付けるのも女の子がやってくれた。僕はただ頷くだけだった。
一つ下の女の子は前歯が少しだけ前に出ていてビーバーのようだった。元彼女は薄化粧――というよりも化粧をしない日もあった――だったが、女の子はまるで油絵のように化粧を塗りたくっていた。なんとなく素顔は見たくないなと思った。
僕たちは数日後車でファミレスへと行った。彼女はハンバーグプレートを、そして僕はフライドポテトを注文し、二人ともドリンクバーも注文した。それぞれジュースを入れに席を立った。彼女はアイスティーを飲み、僕はアイスコーヒーを飲んだ。特に話すことなんてない。彼女の仕事の愚痴を聞いてはポテトをつまみ、聞いてはポテトをつまみ。その合間に煙草を吸う、といったところだ。
当然会計は僕が済ませ、車に乗って途中コンビニでビールとジュースを買い、部屋に戻ってビールを呑んだ。女の子と久々にコミュニケーションできたのと週払いという二つの嬉しさでつい呑んでしまった。そして僕たちは当たり前のようにセックスをした。僕は最初セックスまではさすがに行けないだろうと思っていたんだけれど、女の子がベッドに入った後僕も入ってキスをしている内にセックスができた。聞くところによると彼氏がいるらしい。どうもDVを受けているらしく、別れたい、と。別れて僕と付き合いたいと言われた。僕はまだ以前の彼女を引きずっていたが、いつまでも引きずっていても仕方ないと思い、その日から新たな彼女との同棲生活が始まった。とはいっても、元彼女――そう呼ばなければならないのが悲しいけれど――のことを忘れたわけではなかった。と、いうよりも、新たな彼女に対して元彼女の幻影を重ねていた。それが間違いだったのだ。
彼女がDV男と別れると同時に、僕たちは付き合うことになった。僕たちは金が無いなりに無いなりの付き合いをした。といっても僕は正式に働いてはいなかったので、最終的にガソリン代すらも出す余裕が無くなり、部屋で二人で過ごすことが多くなった。それは元彼女と一緒に暮らしていたときと同じだった。僕には常に金が無かったのだ。
一週間の仕事を終え、無職になった僕は、新たな仕事をさがすべく求人誌を見ては面接を受けを繰り返していたが、全く受かる気配が無く、ついに金が完全に無くなり、彼女に借りるようになってしまった。知人から生活保護を受ければいいという話を聞いたので、行って話をするほうが早いと考え、役所に行くと、門前払いを食らい、社会福祉協議会と呼ばれる所へと行った。生まれて始めて行く社会福祉協議会は、無駄に広くて税金の無駄遣いだと思った。気づけば春が近づいていた。時の流れが早く感じるのは歳のせいなのだろうか。
担当の人は坊主頭の中年の男性だった。やはりどこでも言われた。「親になんとか頼めないか」と。しかし僕は半ば無理やり家を出た身分なので親に頼むことなんてできるわけがない。しかし役所――社会福祉協議会が役所になるのかはわからないが――というところは書類さえ出してしまえば通ってしまうのだ。僕の社会福祉金はすんなりと通った。月に十五万まで生活費として借りることができる。年間金利は保証人がいないため1.3%だ。しかし期間は決まっている。半年。と同時に役所にて家賃を払ってくれるという手続きもした。これは月額四万までを支給する形になる。支給なので返済の義務はない。家でゲームをしたり彼女とセックスしているだけで毎月十五万が入ってくる。これまで肉体労働をしていたせいもあってか、かなりだらけた生活になってしまった。
そんな彼女が四月のある日「母親が病気になったから家に帰らなきゃならない」と言ったので、荷物をまとめ出した。それなら仕方ないと僕もそれを手伝う。しかし本当の理由はそれではなかった。それを僕は後で知ることになる。
僕たち二人はかなり自堕落な生活をしていた。職が見つからないという焦りも無かった。同棲が終わったもののたまにデートをしてセックスをして、そういった一連の流れが当たり前のようになっていた。彼女が出ていってから、炊事洗濯をまた自分でしなきゃならなくなったのは面倒臭く感じたけれど、仕事をしていた頃に比べる……までもなかった。それは前の彼女と別れた後にも感じたことだった。
僕は彼女とセックスをしながら、前の彼女のことを想像していた。そして彼女も同じくして、僕とセックスをしながら前の彼氏のことを想像していたのだ。メールにて「前の彼氏とよりを戻したから別れよう」と言われた。「それはいいけどDVはもう大丈夫なの?」と返信。「あなたと違ってちゃんと相手をしてくれるし、暴力を振るうのは私が悪いことをした時だけだから」とのメール。僕ははらわたが煮えくり返るような怒りを感じたが、もうどうにでもなれという半ば自暴自棄に駆られた気持ちになり、ビールを大量に呑んで酔っ払い、前の彼女に「久しぶり」とメールを送っても返信はこず、酒をあおり明日の仕事も決まらず、そうして気がつけば七月が終わっていた。
何が「あなたと違ってちゃんと相手をしてくれるし、暴力を振るうのは私が悪いことをした時だけだから」だ。僕が怒ったことなんて一度しかないし――それは僕が触るなと言っていたパソコンの電源を落とし、書いていた小説がお釈迦になったため――それなりに相手をしていたつもりだし、何よりも腹立たしいのが、暴力を振るわれる側、所謂被害者側が暴力を振るう側、加害者側を守ってしまっている。もうこうなれば何を言っても無駄だろうと、腹立たしいのはあったけれど荷物はすべて部屋の外に置いてやった。いつの間にか取りに来たようで、気づけば荷物もなくなっていた。
七月中旬、面接で合格した。ハローワークでなんとなく受けてみた会社が受かった。工場で立ちっ放しだけれど、そんなに疲れるような仕事ではない。それに八時間労働で残業はほとんどなく、給料も悪くなくボーナスまで出るという最高の待遇だった。僕はそこで真面目に勤めた。しかしビールを大量に呑まなければ寝られないという体質のせいで遅刻が目立ったため、僕は心療内科へと行くことにした。気分の上下の激しさと不眠症解消のために。
会社で仲良くなったパートの中年主婦に僕がまだ前の前の彼女を引きずっているということを話すと、「それを直接言ったほうがいい!」と休み時間中ずっと力説されたため、酔いプラス睡眠薬でラリってしまい前の前の彼女に「よりを戻してください」とメールを打ってしまった。別れを告げられてから半年以上が経っていた。しばらく待つと返信があった。「無理です」「そこを何とか」「好きな人がいるので無理です」
「好きな人がいるので無理です」
「好きな人がいるので無理です」
「好きな人がいるので無理です」
何を、言ってるんだ? ワカラナイ、日本語ガワカラナイ。デモ私日本生マレダカラ日本語ワカルハズナノニワカラナイ。
ドユコトデスカ。
「ちなみにあなたと付き合っていた頃から仲良くしていました」
彼女が他の男の家に行ってゲームを一緒にしていたときも、僕は何も言わなかった。それは彼女を信じていたから。そしてネットゲームで男たちと仲良くしていたときも何も言わなかった。それは彼女を信じていたから。ネットゲームで知り合った男とメールをしていたときも何も言わなかった。それは彼女を信じていたから。信じていたから。信じていたから。信じていたから。信じすぎた故の終わりなのだろうか。
「所詮ネットゲームなんだから」という彼女の言葉を信じていた。でも僕達の出会いはネットではなかったのだろうか。だから不安があった。できることならば彼女からネットゲームを取り上げたかった。そういう、半ば縛りとも呼べるものをやっておけばよかったのだろうか? 彼女からネットゲームを取り上げていれば、こんなことにはならなかったのではないだろうか。
ええいっままよっ。どうにでもなっちまえ。抗ヒスタミン薬数百錠と以前心療内科で貰ったいくつかの薬をビールで流し込め!
「死ね! もうお前に残っている術はそれしかない!」と声が聞こえてくる。付けたはずの無いテレビから音が聞こえる。誰も立っていないのに立っている気がする。誰かが近づいてくる。ううう、やめろ、僕は、今すぐ死ななきゃならないんだ!
「なぜ死ななきゃならないんですか」
「それ以外に道はないからだ」
ネットの友人に「死にます」とチャットを打つと即効でネット通話がかかってきた。ちなみに女性だ。年下の。ひゃっひゃっひゃ。いいだろ、でも関係ねえ。僕は今から死ぬからね。
「なんで死ぬとか言うんですかぁ」と女の子が言う。
「だって決まったことなんだもん」と僕が言う。
「そう、お前は死ぬことが決まった人間なんだ。例えば何かを成し遂げる人間がいるとしよう。例えばなんにも成し遂げられない人間がいるとしよう。例えば最初から勝ち組エリートの人生を遂げられる人間がいるとしよう、例えば最初から貧民層の人生を遂げねばならない人間がいるとしよう。その中でお前は死ななきゃならない人間なんだ」
数十錠とビールをごくり。
「らしいよ」
「らしいよって何ですか!」相手は泣きじゃくっている。
死に対しての恐怖は一切ないといえば嘘になる。死ねば全てから解放されるだろうけれど、これまで積み上げてきた様々なもの――それは例えば小説だったり人生だったり僕に金をつぎ込んできた両親に対する良心の……――だけどもう死ぬしかないんじゃないだろうか。死は全てから解放される。苦しいことからも楽しいことからも全て。それがいいのか悪いのかは個人個人違うだろうけれど、僕にはもうそれしか残っていない。脳裏に楽しかったことが浮かんでは消えていく。涙が溢れてくる。
「死ぬなんて言わないでくださいよ」と彼女は言う。
「決まったことなんだ」と僕が言う。
真っ暗な部屋で黒いもやが僕の体を包んでいくのを感じる。脳裏に僕が死んでいく様が映像として映しだされる。そういえば、と思い返す。小学生の頃仲が良かった友人が自殺した。二人目になるのだろうか。馬鹿らしい。何が、クソ、思い出したくもない!
失敗した。通報された。
数十錠とビールをごくり。またごくり。ごくり、ごくり、ごくり、ごくり。すると眠気がやってきて、誰かが窓を割る音が聞こえて、誰かの声が聞こえて、「これはもうダメかもしれないな」という声が聞こえて、担架に乗せられ、気づけば僕は病室のベッドの上に寝転んでいた。おしっこを漏らしたりついていないテレビを「他の人に迷惑だから消さなきゃならないんだ!」と何度も叫びテレビのスイッチを押したのを覚えている。病室のベッドの上で点滴を受け、真っ白の天井を見、廊下に響いている看護師の歩く音を聞き、ああ僕はまだ生きているんだということを実感した。そう、僕は生きている。これまでも、そしてこれからも――
仕事内容はカップラーメン工場よりもシンプルだった。即採用の仕事なんて大体がそうだ。オープンする電気屋にダンボールの荷物を運ぶというだけ。トラックの荷台に乗り込んだ人が僕に手渡すのでそれを台車に乗せ、中へと運ぶ。中には基本的に女性がおり、台車を女性に渡してまたトラックの荷台へと戻る。休憩時間になったので煙草を吸いながら携帯をいじっていると、職場の女の子に離しかけられた。
「今日が始めてなんですか?」
「そうですよ」と年齢がわからないため一応敬語で返す。それからいくつか会話を重ね、その女の子が僕よりも一つ下だというのが判明した。かなり積極的な女の子で、話しかけるのも携帯の連絡先を聞くのも次のデートの約束を取り付けるのも女の子がやってくれた。僕はただ頷くだけだった。
一つ下の女の子は前歯が少しだけ前に出ていてビーバーのようだった。元彼女は薄化粧――というよりも化粧をしない日もあった――だったが、女の子はまるで油絵のように化粧を塗りたくっていた。なんとなく素顔は見たくないなと思った。
僕たちは数日後車でファミレスへと行った。彼女はハンバーグプレートを、そして僕はフライドポテトを注文し、二人ともドリンクバーも注文した。それぞれジュースを入れに席を立った。彼女はアイスティーを飲み、僕はアイスコーヒーを飲んだ。特に話すことなんてない。彼女の仕事の愚痴を聞いてはポテトをつまみ、聞いてはポテトをつまみ。その合間に煙草を吸う、といったところだ。
当然会計は僕が済ませ、車に乗って途中コンビニでビールとジュースを買い、部屋に戻ってビールを呑んだ。女の子と久々にコミュニケーションできたのと週払いという二つの嬉しさでつい呑んでしまった。そして僕たちは当たり前のようにセックスをした。僕は最初セックスまではさすがに行けないだろうと思っていたんだけれど、女の子がベッドに入った後僕も入ってキスをしている内にセックスができた。聞くところによると彼氏がいるらしい。どうもDVを受けているらしく、別れたい、と。別れて僕と付き合いたいと言われた。僕はまだ以前の彼女を引きずっていたが、いつまでも引きずっていても仕方ないと思い、その日から新たな彼女との同棲生活が始まった。とはいっても、元彼女――そう呼ばなければならないのが悲しいけれど――のことを忘れたわけではなかった。と、いうよりも、新たな彼女に対して元彼女の幻影を重ねていた。それが間違いだったのだ。
彼女がDV男と別れると同時に、僕たちは付き合うことになった。僕たちは金が無いなりに無いなりの付き合いをした。といっても僕は正式に働いてはいなかったので、最終的にガソリン代すらも出す余裕が無くなり、部屋で二人で過ごすことが多くなった。それは元彼女と一緒に暮らしていたときと同じだった。僕には常に金が無かったのだ。
一週間の仕事を終え、無職になった僕は、新たな仕事をさがすべく求人誌を見ては面接を受けを繰り返していたが、全く受かる気配が無く、ついに金が完全に無くなり、彼女に借りるようになってしまった。知人から生活保護を受ければいいという話を聞いたので、行って話をするほうが早いと考え、役所に行くと、門前払いを食らい、社会福祉協議会と呼ばれる所へと行った。生まれて始めて行く社会福祉協議会は、無駄に広くて税金の無駄遣いだと思った。気づけば春が近づいていた。時の流れが早く感じるのは歳のせいなのだろうか。
担当の人は坊主頭の中年の男性だった。やはりどこでも言われた。「親になんとか頼めないか」と。しかし僕は半ば無理やり家を出た身分なので親に頼むことなんてできるわけがない。しかし役所――社会福祉協議会が役所になるのかはわからないが――というところは書類さえ出してしまえば通ってしまうのだ。僕の社会福祉金はすんなりと通った。月に十五万まで生活費として借りることができる。年間金利は保証人がいないため1.3%だ。しかし期間は決まっている。半年。と同時に役所にて家賃を払ってくれるという手続きもした。これは月額四万までを支給する形になる。支給なので返済の義務はない。家でゲームをしたり彼女とセックスしているだけで毎月十五万が入ってくる。これまで肉体労働をしていたせいもあってか、かなりだらけた生活になってしまった。
そんな彼女が四月のある日「母親が病気になったから家に帰らなきゃならない」と言ったので、荷物をまとめ出した。それなら仕方ないと僕もそれを手伝う。しかし本当の理由はそれではなかった。それを僕は後で知ることになる。
僕たち二人はかなり自堕落な生活をしていた。職が見つからないという焦りも無かった。同棲が終わったもののたまにデートをしてセックスをして、そういった一連の流れが当たり前のようになっていた。彼女が出ていってから、炊事洗濯をまた自分でしなきゃならなくなったのは面倒臭く感じたけれど、仕事をしていた頃に比べる……までもなかった。それは前の彼女と別れた後にも感じたことだった。
僕は彼女とセックスをしながら、前の彼女のことを想像していた。そして彼女も同じくして、僕とセックスをしながら前の彼氏のことを想像していたのだ。メールにて「前の彼氏とよりを戻したから別れよう」と言われた。「それはいいけどDVはもう大丈夫なの?」と返信。「あなたと違ってちゃんと相手をしてくれるし、暴力を振るうのは私が悪いことをした時だけだから」とのメール。僕ははらわたが煮えくり返るような怒りを感じたが、もうどうにでもなれという半ば自暴自棄に駆られた気持ちになり、ビールを大量に呑んで酔っ払い、前の彼女に「久しぶり」とメールを送っても返信はこず、酒をあおり明日の仕事も決まらず、そうして気がつけば七月が終わっていた。
何が「あなたと違ってちゃんと相手をしてくれるし、暴力を振るうのは私が悪いことをした時だけだから」だ。僕が怒ったことなんて一度しかないし――それは僕が触るなと言っていたパソコンの電源を落とし、書いていた小説がお釈迦になったため――それなりに相手をしていたつもりだし、何よりも腹立たしいのが、暴力を振るわれる側、所謂被害者側が暴力を振るう側、加害者側を守ってしまっている。もうこうなれば何を言っても無駄だろうと、腹立たしいのはあったけれど荷物はすべて部屋の外に置いてやった。いつの間にか取りに来たようで、気づけば荷物もなくなっていた。
七月中旬、面接で合格した。ハローワークでなんとなく受けてみた会社が受かった。工場で立ちっ放しだけれど、そんなに疲れるような仕事ではない。それに八時間労働で残業はほとんどなく、給料も悪くなくボーナスまで出るという最高の待遇だった。僕はそこで真面目に勤めた。しかしビールを大量に呑まなければ寝られないという体質のせいで遅刻が目立ったため、僕は心療内科へと行くことにした。気分の上下の激しさと不眠症解消のために。
会社で仲良くなったパートの中年主婦に僕がまだ前の前の彼女を引きずっているということを話すと、「それを直接言ったほうがいい!」と休み時間中ずっと力説されたため、酔いプラス睡眠薬でラリってしまい前の前の彼女に「よりを戻してください」とメールを打ってしまった。別れを告げられてから半年以上が経っていた。しばらく待つと返信があった。「無理です」「そこを何とか」「好きな人がいるので無理です」
「好きな人がいるので無理です」
「好きな人がいるので無理です」
「好きな人がいるので無理です」
何を、言ってるんだ? ワカラナイ、日本語ガワカラナイ。デモ私日本生マレダカラ日本語ワカルハズナノニワカラナイ。
ドユコトデスカ。
「ちなみにあなたと付き合っていた頃から仲良くしていました」
彼女が他の男の家に行ってゲームを一緒にしていたときも、僕は何も言わなかった。それは彼女を信じていたから。そしてネットゲームで男たちと仲良くしていたときも何も言わなかった。それは彼女を信じていたから。ネットゲームで知り合った男とメールをしていたときも何も言わなかった。それは彼女を信じていたから。信じていたから。信じていたから。信じていたから。信じすぎた故の終わりなのだろうか。
「所詮ネットゲームなんだから」という彼女の言葉を信じていた。でも僕達の出会いはネットではなかったのだろうか。だから不安があった。できることならば彼女からネットゲームを取り上げたかった。そういう、半ば縛りとも呼べるものをやっておけばよかったのだろうか? 彼女からネットゲームを取り上げていれば、こんなことにはならなかったのではないだろうか。
ええいっままよっ。どうにでもなっちまえ。抗ヒスタミン薬数百錠と以前心療内科で貰ったいくつかの薬をビールで流し込め!
「死ね! もうお前に残っている術はそれしかない!」と声が聞こえてくる。付けたはずの無いテレビから音が聞こえる。誰も立っていないのに立っている気がする。誰かが近づいてくる。ううう、やめろ、僕は、今すぐ死ななきゃならないんだ!
「なぜ死ななきゃならないんですか」
「それ以外に道はないからだ」
ネットの友人に「死にます」とチャットを打つと即効でネット通話がかかってきた。ちなみに女性だ。年下の。ひゃっひゃっひゃ。いいだろ、でも関係ねえ。僕は今から死ぬからね。
「なんで死ぬとか言うんですかぁ」と女の子が言う。
「だって決まったことなんだもん」と僕が言う。
「そう、お前は死ぬことが決まった人間なんだ。例えば何かを成し遂げる人間がいるとしよう。例えばなんにも成し遂げられない人間がいるとしよう。例えば最初から勝ち組エリートの人生を遂げられる人間がいるとしよう、例えば最初から貧民層の人生を遂げねばならない人間がいるとしよう。その中でお前は死ななきゃならない人間なんだ」
数十錠とビールをごくり。
「らしいよ」
「らしいよって何ですか!」相手は泣きじゃくっている。
死に対しての恐怖は一切ないといえば嘘になる。死ねば全てから解放されるだろうけれど、これまで積み上げてきた様々なもの――それは例えば小説だったり人生だったり僕に金をつぎ込んできた両親に対する良心の……――だけどもう死ぬしかないんじゃないだろうか。死は全てから解放される。苦しいことからも楽しいことからも全て。それがいいのか悪いのかは個人個人違うだろうけれど、僕にはもうそれしか残っていない。脳裏に楽しかったことが浮かんでは消えていく。涙が溢れてくる。
「死ぬなんて言わないでくださいよ」と彼女は言う。
「決まったことなんだ」と僕が言う。
真っ暗な部屋で黒いもやが僕の体を包んでいくのを感じる。脳裏に僕が死んでいく様が映像として映しだされる。そういえば、と思い返す。小学生の頃仲が良かった友人が自殺した。二人目になるのだろうか。馬鹿らしい。何が、クソ、思い出したくもない!
失敗した。通報された。
数十錠とビールをごくり。またごくり。ごくり、ごくり、ごくり、ごくり。すると眠気がやってきて、誰かが窓を割る音が聞こえて、誰かの声が聞こえて、「これはもうダメかもしれないな」という声が聞こえて、担架に乗せられ、気づけば僕は病室のベッドの上に寝転んでいた。おしっこを漏らしたりついていないテレビを「他の人に迷惑だから消さなきゃならないんだ!」と何度も叫びテレビのスイッチを押したのを覚えている。病室のベッドの上で点滴を受け、真っ白の天井を見、廊下に響いている看護師の歩く音を聞き、ああ僕はまだ生きているんだということを実感した。そう、僕は生きている。これまでも、そしてこれからも――
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