恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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第2章 保護室と閉鎖病棟

第1話 拘束

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 前回の閉鎖病棟から四年が経った。そして四度目の入院――つまり四度目の自殺失敗ということだ――は予期しないものだった。それはあっという間に始まった。そしてわけがわからなかった。気がつくと僕はどこかの広い部屋にあるベッドに寝かされ、肩、両腕、両足の五点を拘束され、尿道にカテーテルを差し込まれていた。声を出そうにも、まったく体に力が入らない。左手を見ると、点滴を差し込まれていた。ぽとん、ぽとんと液が落ちていく。部屋は薄暗い。
 そこで意識を失った。

 次に目を覚ましたのは、四畳ほどの狭い部屋のベッドの上だった。同じように五点拘束をされていたが、以前と違うのは、尿道にカテーテルが差し込まれていないという点だった。その代わりに、おむつが浴衣の隙間から覗いている。そこで僕はようやく自分自身を眺めた。黄緑色の浴衣を着せられ――当然その中は裸だ――五点拘束され、泣きそうになっている、それが僕だ。次は見える範囲で首を起こして部屋をぐるりと見回す。向かって頭の向こうに緑色の大きな扉があり、その間逆の方向――つまり部屋の奥だ――に木の衝立があり、その奥にガラスの窓があり、窓の向こうにテレビ・モニタがあった。おそらく、衝立の向こうはトイレなのではないだろうか。ぼうっとしていると、なんとなく自分のおかれている状況がわかってくると同時に、それに比例するかのように、疑問がたくさん沸いてくるのを感じた。まず、ここはどこなんだろう? そして僕はなぜここにいるんだろう? 今は昼なのか夜なのか? なにもわからない。そんな僕の数々の疑問に誰が答えてくれるのだろうか?
 すると緑色の扉が開き、白い服を着た若い女が、台車に食事を載せてやってきた。
「こんにちわ。夕食ですよ」と女は言った。
 ということはつまり、今の時刻は六時ぐらいだろう。そりゃあ腹も減るわけだ。喉がごくりと鳴った。しばらくぶりなんだろう。
「あなたは誰ですか?」
「看護師ですよ」
 僕が頷くと、若い看護師はベッドに近づき、背中の部分を起こした。つまりベッドに背もたれをし、座る形となった。そして鍵で両手と腰の拘束を外し、目の前に食事が置かれた。ご飯、味噌汁、野菜炒め、焼き魚というシンプルなものだったが、そのシンプルさが逆によく、食欲をかき立てられ、僕はそれを貪るようにして食べた。いつの間にか看護師は消えていたが、数分後慌てて戻ってきた。
「食事を下げますね。あと両手と腰の拘束もしますね」
 僕は仕方なく両腕を伸ばした。味覚は良くわからなかったが、とりあえず腹は満たされた。そして、なんとはなしにわかりきっていたことをあえて尋ねた。
「僕は入院しているんですか?」
「そうですよ」と看護師は冷たく言い放ち、ベッドを平らの状態に戻して、「ではまた来ますね」と言い残し、部屋を後にした。
 なぜ僕が入院することになったのか、それを考えようとすると頭が軽くずきずきと痛む。しかし徐々に思い出してきた。本能が思い出させないようにしているかのように、その記憶は脳の奥底にあった。そうだ。僕は、四回目の自殺未遂に失敗したんだ。そして警察と救急車を呼ばれ、気づいたらここにいた。思い出したことで興奮でもしたのだろうか、急激に喉が渇いてきた。しかし息を吸い込んで大声で叫ぼうにも、防音設備が整っているのだろうかわからないが、誰もやって来ない。ただひたすらしんと静まり返っている。まるで静寂が音を立てているように、部屋には音がなかった。それは無限の広がりを持っていた。
 浴衣の下は裸だということはつまり、あの若い看護師に裸を見られた可能性があるということだ。それは逆に嬉しいかもしれない。羞恥心なんていうものは微塵もない。ただ、ちょっと、というか結構、若い女の看護師は可愛い部類に入るだろう。
 ――することがまったくない。じっと天井を見上げているだけで、無駄に時間はただ過ぎて行く。なぜ僕はここに入院することになったのかを頭痛と闘いながら思い起こそうとする。確か――確か――女友達と二人で僕の部屋でアルコールをたらふく飲んでいた。それも毎日処方されている向精神薬や睡眠薬をアルコールで飲んでいたりしていた。そのときの頭の中は、女友達がいるにも関わらず、ただひたすらに死にたいという感情で埋め尽くされていた。そしてそれを口に出していたんだろう。しかし、どこかわからない場所で丸裸にされ、携帯もなにも持たない僕に、それを確認する方法などないのだが。
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