恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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最終章 夢で逢えたら

第2話 日常

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 訪問看護はほとんどお婆さんとおばさんで、お姉さんが来ることは少なかった。当然興味もないので、名刺を貰ったのだが、名前なんて覚えるわけがない。
 一つ腹が立つとまではいかないが、意気消沈することがあった。僕は昔から見た目がヤンキー崩れなので、部屋に数百冊の小説を置いているということと小説を書いているということを言うと、まず信じて貰えない。訪問看護の三人も、部屋に置かれてある数百冊の小説を見ると、「そうは見えない」だの、「すごい」だの言ってくる。なにがそうは見えないなのか。ヤンキー崩れの見た目の冴えない男が読書をしていたらいけないのか。なにがすごいのか。小説が面白いということは周知の事実なのに、それを手に取って読まないのはもったいないことだ、と言いたい気持ちを我慢した。
 しかしそういう話ばかりでもない。楽だなと思ったのは、訪問看護時に、「眠れない」だの、「気力がない」だの言うと、主治医に文章にして報告が行くということだった。週に一回の診察では、雑談だけで終わってしまうことが多々あったので、なかなかそういったことが言えない時もあったし、忘れてしまっていることもあった。といってまあ、残念なことに、主治医はその書類の内容を診察時に覚えていなかった。

 数回訪問看護が来た後、役所の保健師から、「デイケアの見学に行かないか」という話が来た。僕は二年間行きつけの大学病院のデイケアに通っていたことがある。そこは十五歳から三十歳までの若者をターゲットにしたデイケアで、それだけでも珍しいのに、二年経ったら卒業という珍しいシステムがあった。NHKのテレビの取材も、確か二度ほど来た気がする。他のメンバーがモザイク処理を施して撮影されているのに、僕だけ素顔を晒していた。理由は、どうでもよかったから。その二年間についてを描こうと思っていたのに、入院中の治療により記憶が吹き飛んだのは、悲しいという一言でしかない。

 話を戻して。
 どうせ毎日暇なので、そのデイケアに行きます、と返事し、数日後保健師が僕の家にやってきて、二人して歩いてデイケアまで行った。この保健師は二十代半ばぐらいだろうか、顔は整っていて、可愛い系だった。しかし別に仕事上の――といっては語弊があるかもしれないが――付き合いであり、それ以上なにかをしようという気にはならないし、なにかが起こるわけもない。
 家から歩いて三十分ほどした所にある大森駅を、まだ歩いた先にそのデイケアはあった。驚いたことは三つあった。まずはその狭さだった。そしてもう一つは女性と男性でわかれているという所だった。最後は、一週間の流れを記した書類を貰ったのだが、午後はなにもプログラムがなかった。それだけなら別に通ってもいいかな、と思ったが、絶対に駄目な点が一つあった。年齢層が高すぎる。
 一般的に精神のデイケアや作業所は年寄りが多い。それはそうだろう。精神病の患者全員がそうではないが、一般的な就労ができなければ、作業所に通う。それが無理ならデイケアに通う。最悪デイケアに通わなければ、引きこもりになる。深くまではわからないが、多分引きこもりになるということは、治療にとってかなりよくないことのような気がする。
 僕はその週にある診察で、今回の見学について話をすると、主治医は軽く、「そこはお前に合わないよ」と言った。僕もそう思っていたので診察後保健師にそれを伝えると、「じゃあ違う所を探しましょう」と言われた。面倒くさい。

 若い男性がやってきた。生活支援センターの人だと言う。どういう人なのかさっぱりわからないなりに適当に話を聞いていると、流れで毎週水曜日は掃除をするヘルパーが入ることになった。もちろん、なにもかも金はかからない。これで部屋は完全に綺麗になる。

 退院してからまた不安定になり、鬱期に入ったのか、周りの友人連中のことが全く信用できなくなっていた。そんな中、金曜日に来る、友達のように接してくれるお姉さんとのやり取りが楽しく思えてきた。
 三月と四月は充実していたように思える。四ヶ月間の入院生活を描いた小説も完成し、読書欲も増え、ネットでは小説感想ブログを立ち上げそれを運営していた。しかし、退院してから友人に会ったのは数回程度しかない。会いたくないとは言えず、しかたなく会っていたが、四月の終り辺りからは断るようにしていた。電話も出ないしLINEをやっと返す程度で。
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