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リハビリ編
第11話 リハビリ3 2021年8月4日
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朝に担当医がやってきて足の状況を訊かれたので「右足も痛くなってきた」と答えると苦笑いをされる。「左足が使えるようになったら痛みも治まるでしょう」とのこと。そのすぐ後に担当看護師がやってきて「病棟で2人C陽性が出たので明日PCR検査をしましょう」とのこと。
昼前にリハビリ。足の上げ下げが1セット増える。相変わらず終盤は地獄。
トレーナーが僕が右手薬指にはめている指輪に注目した。数年前暇だった時に銀粘土で作ったものだと言うと「男性って指が太いですよね。私の指輪貸したら全然入らなくて」と笑いながら言う。ちらりとトレーナーの両手薬指に目をやる。指輪は着けていない。ここで僕はなるほどと気づく。僕は今かまされたわけだ。トレーナーの発言を翻訳するとこうなる。
「私があなたに優しくしてるのは仕事だからです。私には恋人や夫がいるので勘違いしないでくださいね」
確かに僕のような生まれてこの方女性に相手されたことのない筋金入りのもてない男は、仕事での行為を好意と勘違いしてしまうことが多々ある。つい3年ほど前に勘違いして失敗し恥ずかしさのあまり断っていたアルコールに手を出してしまいそうになった。あの恥ずかしさははっきりと覚えている。もちろんそれがなければトレーナーに恋心を抱いていただろう。筋金入りのもてない男は、楽しそうに話してくれるだけで恋に落ちてしまうものなのだ。
トレーナーの「勘違いしないでくださいね」に少し冷めてしまった。僕は「そんなこと言わなくてもわかってますよ」と返したかったが我慢した。トレーナーの目には僕の反応が勘違いしている状態に映っていたのであろう。反省する必要がある。
女性に関しては今世は完全に諦め来世に期待している。この世に僕をよしとする女性は存在しないということに気づいてしまったからだ。理由は数え切れないほどあるが大きくは二点。第一に僕は精神障害者である。そして第二に僕は働いていない。この二点で終了となる。前者のみであればまだ可能性はあるかもしれない。僅かながらまだ期待はできるだろう。するだけ無駄だと思うがそれは個人の自由にさせていただきたい。問題は後者である。希望も可能性もへったくれもヘチマもない。道行く女性100万人に訊いたところでこれをよしとする女性は0人であろうことは安易に予測できる話だ。これには反論の余地がない。決まりきったことなのでどうすることもできない。0にいくらかけても0ということだ。
さっさと諦めて一人で生きてゆくのみ。その代わり趣味や娯楽に時間をかけることができるわけで、一人が嫌なら働けばいいだけの話だ。あれもこれも欲しいは社会では通用しない。なにかを得る代わりになにかを諦める。それについて文句を言う立場にはない。
という長文を述べた上で「つまりこういうことなので、僕は勘違いなどしませんしする権利もないってことなんですよ」と答えたかったが意味のないことなのでやめておく。話を変える。それが大人の対応というものだ。
「手術前は気楽に考えてましたが、足の骨を一本抜くってすごく大変なことなんですね」
「骨って一本がいろんな役割をしてたり、他の骨と複雑に繋がっていたりしますからね」
毎日病棟を2周するように言われる。「松葉杖生活は一ヶ月で終わるはず」とのこと。相変わらず手のひらが痛い。
持ってきた下着がなくなったので介護士に売店に売っているか訊くと「売店は高いですよ。2枚500円とか800円とか」というのでやめておく。裏返しにして履けばよい。たまにリハビリ中にズボンが落ちることがあるので履いておくほうが安心。クリーニングは1回800円かかる上に出して3日後に戻ってくるというのでやめておく。
昼食後にレントゲン。
夕食前に担当医とサブ医がやってきてギプスに変えましょうとのこと。ナースセンターの隣にある処置室のベッドに寝転がる。包帯を外し足に添えられていた板を外す。7日ぶりに左足を見る。傷口は薄いスポンジのようなもので覆われているので見えない。担当医が左手をふくらはぎの下に置いて支えながら右手で足をタオルで拭く。拭き終わると足首を90度に曲げる。少し足を前に傾けた状態で7日間固定していたので足首が固まっており痛みが走る。サブ医が長い靴下のようなもので関節から指先まで覆う。その上から熱い湯に浸けていたギプスを巻いていく。早く巻かないと固まってしまうようで、担当医の指示通りに素早く巻く。巻き終わり完全に固まる前に指を覆っていた部分を大きなハサミで切断し指が自由に動くようにする。これがホラー映画の拷問のようでとても怖い。
「骨の状態もいいですし今後は外来だけでいいですよ。生活が不安ならギプスが外れるまで入院も可能です」とのこと。松葉杖で一人暮らしは想像するだけで大変そうなのでその言葉に甘える。
ギプスが外れるまで入院するとして、リハビリはどうなるのだろう。松葉杖で生活できるためにリハビリをしているわけで、ギプスが外れるまで上げ膳据え膳の入院生活を続けるのであればリハビリする必要がなくなるのではないか。
それはそれとして、ギプスが重い。
それはそれとして、オナニーがしたい。
昼前にリハビリ。足の上げ下げが1セット増える。相変わらず終盤は地獄。
トレーナーが僕が右手薬指にはめている指輪に注目した。数年前暇だった時に銀粘土で作ったものだと言うと「男性って指が太いですよね。私の指輪貸したら全然入らなくて」と笑いながら言う。ちらりとトレーナーの両手薬指に目をやる。指輪は着けていない。ここで僕はなるほどと気づく。僕は今かまされたわけだ。トレーナーの発言を翻訳するとこうなる。
「私があなたに優しくしてるのは仕事だからです。私には恋人や夫がいるので勘違いしないでくださいね」
確かに僕のような生まれてこの方女性に相手されたことのない筋金入りのもてない男は、仕事での行為を好意と勘違いしてしまうことが多々ある。つい3年ほど前に勘違いして失敗し恥ずかしさのあまり断っていたアルコールに手を出してしまいそうになった。あの恥ずかしさははっきりと覚えている。もちろんそれがなければトレーナーに恋心を抱いていただろう。筋金入りのもてない男は、楽しそうに話してくれるだけで恋に落ちてしまうものなのだ。
トレーナーの「勘違いしないでくださいね」に少し冷めてしまった。僕は「そんなこと言わなくてもわかってますよ」と返したかったが我慢した。トレーナーの目には僕の反応が勘違いしている状態に映っていたのであろう。反省する必要がある。
女性に関しては今世は完全に諦め来世に期待している。この世に僕をよしとする女性は存在しないということに気づいてしまったからだ。理由は数え切れないほどあるが大きくは二点。第一に僕は精神障害者である。そして第二に僕は働いていない。この二点で終了となる。前者のみであればまだ可能性はあるかもしれない。僅かながらまだ期待はできるだろう。するだけ無駄だと思うがそれは個人の自由にさせていただきたい。問題は後者である。希望も可能性もへったくれもヘチマもない。道行く女性100万人に訊いたところでこれをよしとする女性は0人であろうことは安易に予測できる話だ。これには反論の余地がない。決まりきったことなのでどうすることもできない。0にいくらかけても0ということだ。
さっさと諦めて一人で生きてゆくのみ。その代わり趣味や娯楽に時間をかけることができるわけで、一人が嫌なら働けばいいだけの話だ。あれもこれも欲しいは社会では通用しない。なにかを得る代わりになにかを諦める。それについて文句を言う立場にはない。
という長文を述べた上で「つまりこういうことなので、僕は勘違いなどしませんしする権利もないってことなんですよ」と答えたかったが意味のないことなのでやめておく。話を変える。それが大人の対応というものだ。
「手術前は気楽に考えてましたが、足の骨を一本抜くってすごく大変なことなんですね」
「骨って一本がいろんな役割をしてたり、他の骨と複雑に繋がっていたりしますからね」
毎日病棟を2周するように言われる。「松葉杖生活は一ヶ月で終わるはず」とのこと。相変わらず手のひらが痛い。
持ってきた下着がなくなったので介護士に売店に売っているか訊くと「売店は高いですよ。2枚500円とか800円とか」というのでやめておく。裏返しにして履けばよい。たまにリハビリ中にズボンが落ちることがあるので履いておくほうが安心。クリーニングは1回800円かかる上に出して3日後に戻ってくるというのでやめておく。
昼食後にレントゲン。
夕食前に担当医とサブ医がやってきてギプスに変えましょうとのこと。ナースセンターの隣にある処置室のベッドに寝転がる。包帯を外し足に添えられていた板を外す。7日ぶりに左足を見る。傷口は薄いスポンジのようなもので覆われているので見えない。担当医が左手をふくらはぎの下に置いて支えながら右手で足をタオルで拭く。拭き終わると足首を90度に曲げる。少し足を前に傾けた状態で7日間固定していたので足首が固まっており痛みが走る。サブ医が長い靴下のようなもので関節から指先まで覆う。その上から熱い湯に浸けていたギプスを巻いていく。早く巻かないと固まってしまうようで、担当医の指示通りに素早く巻く。巻き終わり完全に固まる前に指を覆っていた部分を大きなハサミで切断し指が自由に動くようにする。これがホラー映画の拷問のようでとても怖い。
「骨の状態もいいですし今後は外来だけでいいですよ。生活が不安ならギプスが外れるまで入院も可能です」とのこと。松葉杖で一人暮らしは想像するだけで大変そうなのでその言葉に甘える。
ギプスが外れるまで入院するとして、リハビリはどうなるのだろう。松葉杖で生活できるためにリハビリをしているわけで、ギプスが外れるまで上げ膳据え膳の入院生活を続けるのであればリハビリする必要がなくなるのではないか。
それはそれとして、ギプスが重い。
それはそれとして、オナニーがしたい。
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