レツダンセンセイ・グレーテストヒッツ

れつだん先生

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ビリーズ・ブート・パンツ

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 僕はその日もブックオフのパトロールへ向かった。100円の文庫本を端から端までCheck It Outしゲームコーナーを端から端までチェキラする流れだ。なんとなく僕はDVDコーナーに足を向けた。足を向けたといっても実際に向けたわけではなく、そこまで歩いて行ったという意味なのでそのあたりは間違えないようにしていただきたい。こういう風に注意書きをしておかねば、鬼の首を取ったように「足を向けたってなんですかぁ!?」とバカにされてしまう。鬼の首を取ったようにというのは実際に鬼の首を取ったわけではなくもののたとえなわけだが、それだって「鬼の首なんか取れませぇ~ん!」とバカにされてしまう。僕は長年のメンタル・トレーニングによってバカにされてもなにも感じなくなっているが、なにも感じていないを気取っているだけで本当はかなり傷ついている。ハートブレイク・ホテルなわけだ。ハートブレイク・ホテルって誰の曲だっけ? まあ誰でもいいや、ホテル・カリフォルニアの人が歌ったことにしておこうと思ったが、ホテル・カリフォルニアを歌った人って誰だっけ。ビージーズだっけ。と思いながらアマゾンミュージックをチェキラするとイーグルスだった。そのすぐ上にはE-girlsがあって、Follow Meって曲がなかなかいいんだよね。

 たかーいービルーのー展望台のぼってー君ーとー二人ー♪

 そういうわけでDVDコーナーをディグったわけだが、ディグるというのはヒップホップ用語だかDJ用語で、そういう言葉を知っている僕ってなんだか素敵って思ったり思わなかったりすることもなかったりするわけで、果たして僕はそこでビリーズ・ブート・パンツというDVDを発見した。
 僕はそのタイトルを見てすぐにぴんときた。なにかを感じた。(フォロミーフォロミーべーイビーどーこーまで♪いーけーるか♪)これは呪いのヴィデオであると。それを見ると一週間後に死ぬんだぞと脳に直接Messageが来た。そのMessageは脳内のメールアプリに着信しそれを開いて確認したから間違いない。つまり、This is a Pen。Like a Virginを処女が好きだと思っていた学生時代、僕はもちろん英語がまったくわからなかった。別に英語なんかわからなくても日本から出なきゃ問題ないと思っていた。英語がわからないのに洋楽ばかり聴いてはEXILEとか聴いてるクラスメイトを内心馬鹿にしていた、相当痛い男だったのだ。(ごめんなさいのKissing You~♪)僕はそのDVD(ビリーズ・ブート・パンツ)を手に取った。これを見れば一週間後に死ぬのは確定している事実なわけだが、なぜか僕には恐怖心というものがなかった。別に死ぬなら死ぬでいいかと思った。33歳でもう10年以上彼女がいないし、友人付き合いもやめて本を読んだりゲームしたり映画を見たりするだけで、隠居生活のような人生に未練などなかった。小学生の頃、登下校の際に椅子に座って朝から晩までずっとぼうっとしているお婆さんを心底羨ましいと思っていた僕なので、今の生活に未練などないわけではないが、このまま40、50、60と生きていくのかと思うと、呪いのヴィデオを見て死ぬのもネタになるからいいかと思った。そうやってDVDを手に取った瞬間、死んだらこのネタを誰にも話せないと気づいた。その刹那、脳内で(うぇかんつーじほってるカーリフォーニャ)という歌声が聞こえた。
 ふうむ、Destinyは僕にDVDを見せないようにしてるのかという香りが鼻に漂ってきた。それはブックオフのTOILETから流れていた。僕はDVDを棚に戻し、トイレに入った。小便器はなにもない。個室に入り大便器の蓋を開けた。見事な一本糞が浮いていた。
 その瞬間全身に衝撃が走り目から火花が飛び散った。が、当然実際に目から火花が飛び散ったわけではない。そんな気がしたわけだ。僕はダッシュでトイレを出てDVDを奪取しレジへとダッシュし左手薬指に指輪をはめたセンター分けの黒髪の色気のある主婦に500円払ってバスに乗ってゴミ溜めの部屋に帰ってきた。
 心臓が高鳴る。手が震える。煙草を吸いたいと思った。しかし煙草は2年前にやめていた。酒が飲みたいと思った。しかし酒は4年前にやめていた。セックスがしたいと思った。しかしセックスは10年前にやめていた。いや、やめていたわけではなかった。相手が出来なかっただけだ。オナニーがしたいと思った。オナニーはやめていなかった。毎日していた。パチンコがしたいと思った。パチンコはしたことがなかった。車の運転がしたいと思った。東京に出てきて10年、一度だけ運転しただけでゴールド免許だった。うんこがしたいと思った。うんこは昨日していた。10分スクワットがしたいと思った。10分スクワットは毎日続けていた。今日で36日目だった。その結果2kg痩せた。覚醒剤をやりたいとは思わなかった。やったことがないしやる気もなかった。ヘロインもコカインも大麻もやりたいとは思わなかったしやる気もなかった。そもそもそんなつまらぬもので逮捕されたら僕の家族は笑いものになってさらし者にされて市中引き回しの末に斬首されてしまうのだった。それほど田舎は恐ろしいものなのだ。
 僕の手はDVDを開いていた。それは僕の意識を無視したものだった。なにも書かれていないディスクを手に取った。それは僕の意識を無視したものだった。プレイステーション4に挿入した。エックスボックスワンではなかったのはなぜだろう。デュアルショック4を握りしめてDVDを再生した。
 それはビリーズ・ブート・キャンプだった。マッチョの黒人が「ワンツーワンツー」と叫びながら体を動かし始めた。僕は、ビリーズ・ブート・キャンプのDVDが500円で手に入ったことに怒りを覚えた。拳をプレイステーション4に叩きつけようとしたが寸前でとどまった。プレイステーション4は高価だ。壊してしまうともうゲームが出来なくなる。パンツを脱いでちんちんの先を指で弾いた。
 それこそがビリーズ・ブート・パンツだったのだと、その時になってようやく気づいたのであった。
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れつだん先生
現代文学
20年間で書き溜めた短編やショートショートをまとめました。 公募一次通過作などもあります。 今見返すと文章も内容も難ありですが、それを楽しんでいただけると幸いです。

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