Yesと言ってほしくてⅠ

相沢蒼依

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Please say yes:Yesと言ってほしくて5

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 いろんな意味で気持ち良かった風呂からあがり、鼻歌混じりで部屋に戻ると、ベッドを背もたれにして、床に座っていたアンディが振り向いた。

「おかえり、気持ち良かった?」

 ふわりと青い目を細めて普通に訊ねられているのに、ドギマギしてしまった俺。

「あ、うん……」

 心中を悟られないようアンディの目の前をさっさと通り過ぎ、やる必要のない机の上の整理をする。そんな俺の背中に声がかけられた。

「話があるのだ、和馬」

「話って……またヒモのことか?」

 唐突に話を切り出したアンディを振り返りながら見ると、床に敷いてある掛け布団の上に居ずまいを正して、正座していた。

 この雰囲気は、学校の階段で告白された時の空気感と似ている。多分重要な話だろうと思い、向かい側に同じように座った。

「ヒモの話よりも大切なことだ。俺の行く末の話だから」

 その言葉に息を飲むと、洗いざらしの俺の頭を、子供をあやすように優しく撫でてくれる。

「お前が緊張することではないだろう。そういうトコが、いちいち可愛いのだ」

「なっ、だって!」

 撫でられている手を弾こうと右手を出した瞬間、手首を掴まれて、あっという間に、アンディの胸の中に引き寄せられた。俺と同じように早い、アンディの心臓の音が耳に聞こえてくる。

「ちょっ」

「まったく。静かにしないと、また透馬が怒鳴りこんでくるぞ。この部屋は鍵がかからないんだから、しっかり注意しないと」

 左腕で俺を抱きしめながら、色っぽく右手人差し指をそっと口元に当ててきた。

 真っ赤な顔して、押し黙る俺を見て、

「今すぐにでも襲いたい……」
 
 ポツリと呟いたアンディの頭を、無言で殴った。

「話が先だ、エロアンディ!」

 声のトーンを出来るだけ落とし、睨んだ俺を微妙な表情して、じっと見つめ返す。

「お預け食う俺の気持ちが、どんなものか。和馬、覚えておけよ」

「俺、バカだから覚えてらんないから。あははは……」

 もしかして、墓穴掘ってしまっただろうか。

「――話を戻すが、俺の行く末な」

 面白くない顔をし、渋々語り出すアンディ。機嫌を直して欲しくてその首に両腕を回した俺を、しょうがないなぁという表情を浮かべ、キレイな青い瞳を細めながら見つめてくれる。

「そうやって素直に、いちゃついてくる和馬、何だか怖いぞ」

 笑いながら言ったアンディの頭を先ほどよりも強く殴って、距離をとり正座し直した。

「で、お前の行く末の話はなんだよ?」

 胸の前に両腕を組んで睨みながら聞く俺に、殴られた頭を撫でながら、忌々しそうに話を続けた。

「実はだな、俺は板前になりたいと思って」

「は!?」

「今日は修行するところを探すべく、下見をしていたのだ」

「えっとアンディ、つかぬことをお聞きしますが、実際に料理を作ったことがあるんですか?」

「まったくないが、どうしてだ?」

 調理経験ゼロの人間が、どうして板前になりたいと言い出せるのだろう。どう考えったって、無謀としか思えない。

「じゃあ、どうして板前になりたいんだよ?」

「それはだな、国にいるときにお前のことが知りたくて、日本の文化を調べたのだ。調べていく内に日本料理の素晴らしさに心を奪われ、日本から有名な料理人を呼びよせて、いろいろ食べてみたのだ。見た目もさる事ながら、味も深く美味であった」

「はあ、なるほど」

「で、王子という身分から解放された俺は、是非とも板前になりたいと考えてな、いろいろ調べていたというワケ。今日は心配させて本当に悪かった」
 
 ペコリと頭を下げるアンディに、俺は苦笑いをした。

「二番目の夢は、俺の作った料理を美味しいと言って食べてくれるお前が、傍にいることなのだ」

「へぇ、二番目なんだ」

「一番にすると快楽にまかせて、身を滅ぼしてしまうから。和馬のヒモになってしまう自信があるのだぞ?」

 艶っぽく笑いながらにじり寄るアンディにひしひしと危険を感じ、俺は立ち上がろうとして、布団に足を引っ掛けてしまった。

「うわっ!」

 倒れかけた俺の体をいとも簡単に抱きよせて、自らクッションになるアンディ。

「こういうドジ、俺の前だけにするのだぞ。他のヤツにそんな顔、見せたくはないからな」

「そんな顔って、別に俺は」

「無自覚な和馬くん、そのやっちゃったって顔がな、俺の欲望に火をつけるのが分からないであろうな」

 そう言って耳たぶに、ちゅっとキスをしたアンディ。ゾクリとした感覚に固まるしかない。

「俺のこと、愛してる?」

 耳元に吐息をかけられながら、低い声で訊ねられる言葉に、何と言っていいのやら……

「あの時のように言ってくれ。俺に向かって、I love youと言ったように」

「い、言えるかよ。こん、な風に、体のあちこち、触られてた、ら、それどころじゃ、な」

 息絶え絶えの俺を残念そうに離してから、ゆっくりと起こしてくれた。

「俺のこと好き?」

「イ、YES……」

「どれくらい?」

 差し出された右手を、俺は躊躇いなくぎゅっと握りしめた。

「言葉に出来ないくらい……」

「和馬っ!!」
 
 真っ赤な顔して渋々言う俺に、長い金髪を振り乱しながら圧し掛かるアンディの体を、強く抱き締めた。

 愛しい重さに目を閉じると、重ねられる唇。胸が張り裂けそうな程、ドキドキしていて苦しい。角度を変えて責められる口内にアンディの想いが、どんどん流れ込んでくるようだ。

「キスだけでトロけたような顔して。もっと気持ちのイイこと、俺の手でしてやるぞ」

「も、いいからっ。十二分ににお前の気持ち、分かったし!」

 俺の服を脱がしにかかっていた、アンディの手がピタリと止る。

「いいから、ね。つまり、ヤってもいいってことだと受け取るぞ」

「違っ! 逆だってば」

「いやぁ、日本語ってファンタステック。いろんな意味にとれるから」

 意味深に笑ってから止まっていた手をいそいそ動かし、履いていたズボンと一緒に下着がズリ下された。硬直している下半身を見られ、恥ずかしさで顔をもっと赤面させるしかない。

「み、見るなよ!」

 声を上擦らせて、隠そうとした俺の両腕を素早くパッと掴み、思いきり圧し掛かる。

「シーッ! んもぅ和馬、興奮し過ぎだぞ。声が大きいって」

「うっ……」

 慌てて口を噤んだ俺。恥ずかしさもあったが、それよりも――腰骨に当たるアンディのアレが、俺よりも大きくて、スゴいことになってる。

 外人、恐るべし……ってコレ、多分俺の中に挿れるんだよな? ……む、無理! 絶対無理! 出すことには長けてるけど、挿れることに関しては、受け付けられないに決まってる!

 赤くなったり青くなったりしてる俺の顔を、不思議そうな目をして見つめた。

「どうしたのだ、和馬?」

「ひっ! えっと恥ずかしくて……。その電気、消してくれないかな、と」

 しどろもどろ言う俺に、クスッと笑って首を横に振る。

「消さない代わりに、こうすればいいのだ」

 掴んでいる俺の右手を目元に左手を口にあてがう。確かに暗くなったよ、俺だけな。

「恥ずかしいって言ってんだろ、電気消せよ」

「一歩譲ってやってるのに、ワガママだな和馬。俺はお前のすべてが見たいのだ、隠してくれるな」

 優しく呟くといきなり俺自身を口に含み、ゆっくり上下にスライドさせる。

「止めろっ……。お前、何やって、んっ!」

 唾液を滴らせながら、俺自身を咥えているアンディの姿を見てるだけで、胸がきゅっとなった。好きなヤツにされるのって体だけじゃなく、心も満たされていく――

「和馬の、どんどん大きくなってる。気持ちイイ?」

 先端を丹念に舐めながら、上目遣いで聞いてくるアンディ。美味しそうに舐めあげる水音が室内に響いて、淫靡な気分に拍車をかけた。

「ワザと、そんな、こと……聞く、んっ、じゃねぇよ。分かってる、クセに」

 声を押し殺して、やっと言った俺をキレイな青い瞳で見つめてから、

「じゃあ、ヘヴンにイカせてあげる。もっと感じて……」

 俺の根元をしごきながら口と舌を使って、どんどん俺自身を高まらせる。さっき風呂で一発抜いてるというのに、アンディのテクニックに翻弄されてもう――

「アンディ、もうヤバい……。イキそう、なんだけど」

 そう告げてるのに離す気配はなく、先ほどよりもどんどんスピードを上げる。

「も……ダメ、イクっ!」

 弓なりにしならせた俺の腰をしっかり抱きよせて、すべてを受け止めたアンディ。体中が快感でみち震える。重だるいクセに、妙な幸福感があった。

 息を切らし、くたくた人形になってる俺に、

「ご馳走様でした和馬。イク時の顔、今までで一番、良かったぞ」

 明るい蛍光灯の下、しっかり見られたのだろう。マジでハズカシイ!

「さて、と。もう一つ、確認したいことがあってな」

 そう言って右手中指を自分の口に突っ込み、ニヤリと笑う。

「何の確認だよ?」

「俺の最終目標、かな」

 言い終わらない内に挿れちゃいけない蕾に、細長い中指をスルスルっと入れられた。

「ななな、何の目標なんだよ? そんなトコにあるワケないだろ、バカアンディ!」

「俺の独自の研究なんだが、あるらしいのだ。和馬、もっと力、抜いてくれないか?」

「無理、絶対無理! モゾモゾするだけで、気色悪い……」

 気がつけば、いつの間にか指が2本になってて、医者の様に丹念に中を調べていく。

「むー、指の長さが足りないのか? 厄介だぞ」

「もうそろそろ、げんか……」

 限界と言おうとした瞬間、とある部分を擦った指先に、体の芯が疼くような感覚がした。

「和馬?」

「何でもない、早く止めてくれ」

「止めてくれって言いながら、どうして和馬の大きくなってるのだ?」

「しっ、知らない!」

「隠しても無駄、確かココだったかな?」

 感じたところを指先で優しく刺激され、思わずのけ反った俺。声を出しそうになり、慌てて右手で口を押さえた。

「俺のを挿れて擦ったら、どうなるのかな……」

 低い声でそら恐ろしいことをアンディが言ったので、激しく首を横に振って拒絶した。気持ちは拒絶しているというのに、体は逆にアンディを求めるように、ヒクヒクしている。

 ヒクついてるアソコと俺自身を弄りながら、左胸に顔を埋め赤い舌で乳首を刺激された。

「んんっ、くすぐったい……」

 それを止めさせるべく、アンディの頭を右手で強引に押して体から外すと、上目遣いで睨んでくる。

「くすぐったいなんて、嘘ばっかり。しっかり乳首が勃っているぞ」

「これはっ、お前があちこち触るから、連鎖反応というか……」

 説得力のない俺の言葉に、プッと吹き出して笑う。

「涙目で赤い顔しながら言われても、俺は騙されないからな。強がりばかり、いつも言うんだから」

「そんな、こと……」

「そういう素直じゃないトコにも、心底惚れているのだぞ。可愛いったら、ありゃしない」

 音を立てる様なキスを俺の頬にしてから、おもむろに立ち上がりパチンと電気を消した。暗闇の中で、アンディが服を脱ぐ音が聞こえる。

 これから行われることがブワッと頭の中によぎり、いそいそ起き上がって、アンディに背を向けた俺を、後ろから優しくふわりと抱きしめてくれる。直に触れるアンディの肌に、妙な安心感があった――心地良い体温

「ね、俺の触って……」

 俺を振り向かせると右手をそっと取り、アンディ自身を握らせる。

「和馬のだぞ、どうだ?」

「どうだと言われても、えっと……」

「手、動かして。気持ち良くして」

「う、うん」

 ドキドキしながらアンディ自身をぎゅっと握り、ごしごししてあげた。視線をどこに持っていけばいいか分からず、そっとアンディの顔を見ると、俺の顔をしっかりガン見しているではないか!

「手、止めないで。そのまま続けて」

「はい、ぃ」

 止まりそうになった俺の手首を掴み、激しくスライドさせる。

「あのさ、気持ち良くない、かな?」

 俺の顔をじっと見つめるアンディに、恐る恐る訊ねてみた。なぜかずっと難しい顔をしていて、ちっとも気持ち良さそうに見えないからだ。

「気持ちイイぞ、とても。いつでもイケる自信ある」

「そんな感じに、見えないんだけど」

「好きなヤツに弄られて、気持ち良くないヤツがいたら、是非とも見てみたいものだ。そんな感じに見えないのは、他の事を考えていたから」

 そう言って顔を寄せたと思ったら、触れるだけのキスをした。

「次はどうやって、和馬をイカせようかなぁと思って。俺の希望は、一緒にイキたいんだけど」

 クスクス笑いながら俺自身を手に取ると、同じように扱き始めた。

「お前の希望なんか、聞いてないし……んっ!」

「和馬の触ったばかりなのに、もうヌルヌルしてる。さっきのマッサージ、効いたのか?」

「そう言う事、言うな。バカ……」

 俺が顔をしかめると、同じようにアンディも苦しそうに顔をしかめた。

「さすがにこれ以上は、持たなくなってきたぞ。和馬は?」

「お前のテクで、今にもイキそうだ。素直に、認めてやる、よ」
 
 息も絶え絶え答えると、強引に俺に覆いかぶさりながら、

「一緒に、イクぞ。和馬……」

 そう言われたのは、しっかりと覚えている。だけど、実際一緒にイッたのかすら分からなかった、気持ち良過ぎて。

 頭の中がぼんやりしていて、現実に戻れないでいる自分がいる。気だるい心地良さを手離したくなくて、アンディの体にしがみ付いた。

「和馬、大丈夫?」

 心配そうな顔してアンディが聞いてきても、答えるのが億劫だった。

「和馬、あのさ」

「…………」

「ワン モア タイム プリーズ!」

 その言葉に俺の思考が、一気に覚醒する。

「ふざけんなっ! 4回もイケるワケないだろう」

「えっ? 4回?」

「あ……」

 しまったという顔をしたら、すべてを察知したアンディが、してやったりな顔をして、俺を覗きこむ。その顔のムカつく事、この上ない。

「俺が風呂に入る前、布団に入っていたのは、そういう事だったのだな。今夜を楽しみにして、コッソリと抜いていたのか」

「違っ、ここではヤッてないし」

「じゃあ、どこでヤッたのだ? ん?」

 歯切れの悪い俺に突っ込むアンディ。困っている状況なんだけど、この感じがえらく懐かしくて、実は嬉しかったりした。

「そんな事聞くな、エロアンディ」

 いそいそ布団の中に、逃げ込んだ俺。追いかけるようにアンディも布団に入ってきた。そして俺の体をぎゅっと抱きしめる。

「和馬、俺今すっごく幸せ。夢見てるみたいだぞ」

「そうか、良かったな」

 アンディの温もりが、俺を眠りに誘う材料になってきた。思わずうとうとしてしまう。

「帰国してもお前と過ごした夜の事、絶対に忘れないから。だからお前も、忘れるでないぞ」

「……分かった、忘れ、ない……から」

 何で帰国という言葉が、出てきたんだろう。そう思ったのも束の間、あっさり俺は爆睡してしまったのである。

 朝、目覚めたら一緒に寝ていた、アンディの姿がなかった。
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