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どういうことだよ!? 第3幕
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紆余曲折をへて宮本とめでたく相思相愛になり、手を出されそうになったまさにその瞬間、職場の上司に現場を押さえらかけた。絶体絶命のピンチだ。
泡くった勢いそのままに――というか反射的に平手打ちをしちまった。
「どうしたんだ、おまえたち……」
安田課長が扉を開け放ったまま、呆然とした様子で固まる。当然だろう。宮本に押し倒されてデスクに横たわっている姿は、異様に見えること間違いなし!
この状況を打開すべく、頭の中で有りえそうなシチュエーションを必死に考えていると、軽くため息をついた安田課長が先に口を開く。
「おい、宮本。誰もいないことをいいことに、日頃の恨みを晴らすべく、江藤を襲撃したのか?」
「俺が、江藤先輩を襲撃っ!?」
普段の様子を考慮したら、そう考えるのが妥当だ。ストレスが頂点に達した後輩が誰もいなくなったオフィスで、気に入らない先輩を思う存分ボコボコにし、辞表を叩きつけて辞めるってな――かなり過激な話ではあるが、あり得ない話ではない。
頬に真っ赤なモミジをつけたままでいる顔面蒼白の宮本を押しやり、躰を起こして安田課長に向き合った。
「すみません。最初に手を出したのは自分からなんです。宮本を責めないでやってください」
甘いお菓子を食べるのを渋ったコイツに無理やり食べさせた時点で、嫌がることをしたのは明白なんだから。
「おまえから、宮本に手を出したのか!?」
「そうです。それこそ安田課長が仰った日頃の恨みを晴らしたいという感情にとらわれて、ここぞとばかりに宮本に襲撃した途端に、この場に押し倒されたわけです」
淀みなく言い放った江藤の袖を、安田課長から見えないように宮本が引っ張った。どんな顔しているんだろうかと横目で窺ったら予想通り、弱りきったような表情を浮かべていた。
「江藤、分かっていると思うがこれ以上問題を起こしたら、おまえの出世にも響くんだぞ。今回の見合いを断ったことについても同様だ」
「はい、存じております」
出世なんて知ったこっちゃない。宮本のバカを守れるなら、喜んで平社員を貫いてやるさ。
「仕事ができて容姿も申し分ないおまえなら、笹原さんの娘さんとうまくいくと思ったのに。思惑が外れてがっかりしたよ、私は……」
オールバックの髪の毛を片手でかきむしって勢いまかせに扉を閉めると、苛立った様子で自分の席に座る。
「ご期待にそえず、申し訳ございません」
この話をされた時点で断ることができたものの、気に入らない上司を困らせるべくして、あのタイミングで断ってやった。
自分の点数稼ぎに使うなよと思いながら、江藤は頭をしっかり下げた。心の中では、ちゃっかり舌を出してる状態で――
「お、俺もですね、本当にすんませんでしたっ!」
宮本の声に慌てて頭をあげると、指の色が変わるくらいに両拳を強く握りしめ、どこか必死な形相で課長のデスクを見やる姿が目に留まった。
「江藤先輩のストレスの原因にならないように、さらに精一杯努めて頑張っていきますので、叱らないでくださいっ」
他の社員から恐れられている、安田課長の刺し殺すようなまなざしでじっと見つめられているのにも関わらず、なりふり構わずに自分の気持ちを伝えようとする様子に、心が打たれてしまった。
宮本の持つバカ正直で真っすぐな性格は、自分の腹黒さをこれでもかと色濃くする。そのせいで嫌な部分を再確認させられるのに、惹かれずにはいられない――
江藤は顎を引きながら背筋を伸ばし、きっちりと直立してから安田課長に視線を飛ばした。
「自分も今まで以上に……。勿論パワハラにならないように宮本の指導にあたりますので、これからもよろしくお願いいたします」
言い終える前に頭を下げる。
何をヨロシクお願いしたのかわけが分からねぇ状態だが、この場から一時撤退するしかない雰囲気を肌で感じていた。
5秒間だけ45度に頭を下げてから素早く姿勢を元に戻すと身を翻し、デスク脇に置いてあった自分の鞄を手に取る。
「帰るぞ、宮本」
「え? でも……」
「いいから、さっさと帰り支度をしろ」
躊躇した理由は、本日のノルマをこなせていないからだろう。今日のノルマは明日回収するしかない。回収できなければ、自分が肩代わりすればいいだけの話だ。
(とにかく安田課長のお小言が始まる前に、ここから早く立ち去らなきゃな――)
あたふたと帰り支度をする、大きな背中を確認する。この様子だと、10秒以内で出てくるだろうなと予測を立てた。
「お先に失礼します!」
早く追いかけてこいと言わんばかりの大声で言い放ち、逃げるように部署をあとにした江藤の数秒後に、泡食った顔で宮本が出てきたのだった。
泡くった勢いそのままに――というか反射的に平手打ちをしちまった。
「どうしたんだ、おまえたち……」
安田課長が扉を開け放ったまま、呆然とした様子で固まる。当然だろう。宮本に押し倒されてデスクに横たわっている姿は、異様に見えること間違いなし!
この状況を打開すべく、頭の中で有りえそうなシチュエーションを必死に考えていると、軽くため息をついた安田課長が先に口を開く。
「おい、宮本。誰もいないことをいいことに、日頃の恨みを晴らすべく、江藤を襲撃したのか?」
「俺が、江藤先輩を襲撃っ!?」
普段の様子を考慮したら、そう考えるのが妥当だ。ストレスが頂点に達した後輩が誰もいなくなったオフィスで、気に入らない先輩を思う存分ボコボコにし、辞表を叩きつけて辞めるってな――かなり過激な話ではあるが、あり得ない話ではない。
頬に真っ赤なモミジをつけたままでいる顔面蒼白の宮本を押しやり、躰を起こして安田課長に向き合った。
「すみません。最初に手を出したのは自分からなんです。宮本を責めないでやってください」
甘いお菓子を食べるのを渋ったコイツに無理やり食べさせた時点で、嫌がることをしたのは明白なんだから。
「おまえから、宮本に手を出したのか!?」
「そうです。それこそ安田課長が仰った日頃の恨みを晴らしたいという感情にとらわれて、ここぞとばかりに宮本に襲撃した途端に、この場に押し倒されたわけです」
淀みなく言い放った江藤の袖を、安田課長から見えないように宮本が引っ張った。どんな顔しているんだろうかと横目で窺ったら予想通り、弱りきったような表情を浮かべていた。
「江藤、分かっていると思うがこれ以上問題を起こしたら、おまえの出世にも響くんだぞ。今回の見合いを断ったことについても同様だ」
「はい、存じております」
出世なんて知ったこっちゃない。宮本のバカを守れるなら、喜んで平社員を貫いてやるさ。
「仕事ができて容姿も申し分ないおまえなら、笹原さんの娘さんとうまくいくと思ったのに。思惑が外れてがっかりしたよ、私は……」
オールバックの髪の毛を片手でかきむしって勢いまかせに扉を閉めると、苛立った様子で自分の席に座る。
「ご期待にそえず、申し訳ございません」
この話をされた時点で断ることができたものの、気に入らない上司を困らせるべくして、あのタイミングで断ってやった。
自分の点数稼ぎに使うなよと思いながら、江藤は頭をしっかり下げた。心の中では、ちゃっかり舌を出してる状態で――
「お、俺もですね、本当にすんませんでしたっ!」
宮本の声に慌てて頭をあげると、指の色が変わるくらいに両拳を強く握りしめ、どこか必死な形相で課長のデスクを見やる姿が目に留まった。
「江藤先輩のストレスの原因にならないように、さらに精一杯努めて頑張っていきますので、叱らないでくださいっ」
他の社員から恐れられている、安田課長の刺し殺すようなまなざしでじっと見つめられているのにも関わらず、なりふり構わずに自分の気持ちを伝えようとする様子に、心が打たれてしまった。
宮本の持つバカ正直で真っすぐな性格は、自分の腹黒さをこれでもかと色濃くする。そのせいで嫌な部分を再確認させられるのに、惹かれずにはいられない――
江藤は顎を引きながら背筋を伸ばし、きっちりと直立してから安田課長に視線を飛ばした。
「自分も今まで以上に……。勿論パワハラにならないように宮本の指導にあたりますので、これからもよろしくお願いいたします」
言い終える前に頭を下げる。
何をヨロシクお願いしたのかわけが分からねぇ状態だが、この場から一時撤退するしかない雰囲気を肌で感じていた。
5秒間だけ45度に頭を下げてから素早く姿勢を元に戻すと身を翻し、デスク脇に置いてあった自分の鞄を手に取る。
「帰るぞ、宮本」
「え? でも……」
「いいから、さっさと帰り支度をしろ」
躊躇した理由は、本日のノルマをこなせていないからだろう。今日のノルマは明日回収するしかない。回収できなければ、自分が肩代わりすればいいだけの話だ。
(とにかく安田課長のお小言が始まる前に、ここから早く立ち去らなきゃな――)
あたふたと帰り支度をする、大きな背中を確認する。この様子だと、10秒以内で出てくるだろうなと予測を立てた。
「お先に失礼します!」
早く追いかけてこいと言わんばかりの大声で言い放ち、逃げるように部署をあとにした江藤の数秒後に、泡食った顔で宮本が出てきたのだった。
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