21 / 114
兄貴の絶望
12
しおりを挟む
***
次の日、兄貴は微妙な表情で僕と顔を合わせ、ぎこちない挨拶をかわした。毛嫌いするように躰ごと僕を避けて挨拶されたことはショックだったが、いたしかたないだろう。
素っ気なさや嫌悪感が混じったそれを見た義母に「朝から喧嘩なんて早くやめなさい」と諭された途端に、兄貴は朝ごはんを食べずに家を出て行く。
「辰之、ごめんなさいね。宏斗は頑固で素直じゃないから」
「いいんだ。喧嘩の原因を作ったのは僕だし、そのうちいつものように仲良くなれると思う」
言いながらダイニングテーブルに着席して、あたたかい朝ごはんをいただいた。間違いなく今日一日忙しくなるのがわかっていたので、しっかりと食したのだが――。
(予想より、早いお出ましだったな……)
一限目が終了するやいなや、馬鹿女が僕のクラスに顔を出した。険しい面持ちのまま眉根を寄せながら唇を突き出すという、見るからに怒った表情でこちらを睨む。
「黒瀬くん、ちょっと来て!」
棘を含んだ声が教室中に響くと、クラスメートの視線が僕に集中した。馬鹿女と僕の接点はひとつしかないため、呼び出される理由がみんなにはバレバレだろう。
「おい黒瀬、例のこと先輩に喋ったのか?」
黙ったまま腰をあげたら、教卓の傍の席にいる箱崎がわざわざ振り返り、心配そうに訊ねる。僕は肩を竦めながら首を横に振った。
「僕が喋らなくても、他所から漏れるだろ。なるべくして別れたんだよ」
箱崎をしっかり安心させてから、弾んだ気持ちを隠して教室を出た。二時限目までの休憩は10分しかない。馬鹿女は僕の腕を強引に引っ張り、廊下の奥まった窪みに連れて行く。
「朝逢ったら、黒瀬先輩に別れようって言われたの。理由は弟に聞いてくれの一点張りで全然教えてもらえなかったんだけど、どういうことかな?」
僕よりも小柄な馬鹿女が、逃げ場のない壁の窪みに追いやった相手を、呪い殺しそうな気持ちを目力に込めて見上げる。三股を平然とこなすだけあって、その迫力は満点だった。
「やれやれ。兄貴ってば僕を使って、君と別れるなんて酷いことをしたんだね」
馬鹿女に気圧されないように胸を張りながら、淡々とした口調で話しかけた。
「…………そんなこと聞いてないから」
「僕はなにもしてないよ。だけど君の噂を知ってた。それがどういうことかわかる?」
次の日、兄貴は微妙な表情で僕と顔を合わせ、ぎこちない挨拶をかわした。毛嫌いするように躰ごと僕を避けて挨拶されたことはショックだったが、いたしかたないだろう。
素っ気なさや嫌悪感が混じったそれを見た義母に「朝から喧嘩なんて早くやめなさい」と諭された途端に、兄貴は朝ごはんを食べずに家を出て行く。
「辰之、ごめんなさいね。宏斗は頑固で素直じゃないから」
「いいんだ。喧嘩の原因を作ったのは僕だし、そのうちいつものように仲良くなれると思う」
言いながらダイニングテーブルに着席して、あたたかい朝ごはんをいただいた。間違いなく今日一日忙しくなるのがわかっていたので、しっかりと食したのだが――。
(予想より、早いお出ましだったな……)
一限目が終了するやいなや、馬鹿女が僕のクラスに顔を出した。険しい面持ちのまま眉根を寄せながら唇を突き出すという、見るからに怒った表情でこちらを睨む。
「黒瀬くん、ちょっと来て!」
棘を含んだ声が教室中に響くと、クラスメートの視線が僕に集中した。馬鹿女と僕の接点はひとつしかないため、呼び出される理由がみんなにはバレバレだろう。
「おい黒瀬、例のこと先輩に喋ったのか?」
黙ったまま腰をあげたら、教卓の傍の席にいる箱崎がわざわざ振り返り、心配そうに訊ねる。僕は肩を竦めながら首を横に振った。
「僕が喋らなくても、他所から漏れるだろ。なるべくして別れたんだよ」
箱崎をしっかり安心させてから、弾んだ気持ちを隠して教室を出た。二時限目までの休憩は10分しかない。馬鹿女は僕の腕を強引に引っ張り、廊下の奥まった窪みに連れて行く。
「朝逢ったら、黒瀬先輩に別れようって言われたの。理由は弟に聞いてくれの一点張りで全然教えてもらえなかったんだけど、どういうことかな?」
僕よりも小柄な馬鹿女が、逃げ場のない壁の窪みに追いやった相手を、呪い殺しそうな気持ちを目力に込めて見上げる。三股を平然とこなすだけあって、その迫力は満点だった。
「やれやれ。兄貴ってば僕を使って、君と別れるなんて酷いことをしたんだね」
馬鹿女に気圧されないように胸を張りながら、淡々とした口調で話しかけた。
「…………そんなこと聞いてないから」
「僕はなにもしてないよ。だけど君の噂を知ってた。それがどういうことかわかる?」
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる