こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

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弟の悲しみ

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 深呼吸を数回して気持ちを落ち着かせてから、足早に辰之の傍に駆け寄った。

「原因はわかってる。俺が排除したからもう大丈夫だ。とりあえず辰之を借りてくな」

 机に突っ伏した辰之の上半身を起こして横抱きにし、教室の外に連れ出す。

(こんなにぐったりした様子だと、自分でバイブを取り出すことは無理だろうな。保健室は先生がいるだろうし、校内でふたりきりになれる場所は――)

「おい、黒瀬っ」

 教室から廊下に出た途端に、若林先輩に呼び止められた。両腕の力を込めて、自分の上半身に辰之の躰を密着させる。目の前にいる苦手な先輩に、大事な弟を絶対に渡さない気持ちを込めて抱き直した。

「若林先輩、なんですか? 急いでるんですけど」

「おまえの中にある常識は、俺にとっては非常識になる。意味わかるか?」

「俺の中にある常識……?」

 まるで問答のようなセリフがきっかけとなり、進みたい足が廊下に貼りついた。俺の肩に顔を寄せて俯かせる辰之の体調が気になったが、若林先輩の言葉に耳を傾ける。

「男同士だから、兄弟だから恋愛をしちゃダメって、おまえは考えてるだろう?」

「はい、そうですけど」

 堂々と問いかけをする若林先輩に、小さな声で返答するのがやっとだった。まるで、自分の器の小ささを指摘されたみたいな気分に陥る。

「相手をそんな関係で線引きして、愛してくれる気持ちを否定することは、すっげぇ失礼だと俺は思うんだ。ひとりの人間として見てやらないと」

「若林先輩……」

「俺はそういう考えがあるから、ゲイだとカミングアウトした。もちろん差別だってある。だけど俺は好きなものを好きだと、胸を張って言いたい。辰之くんが好きだって」

 若林先輩のまなざしの先には、俺が抱きしめる辰之に注がれた。付き合ってると宣言している以上、辰之を若林先輩に引き渡したほうが本当はいいのかもしれない。そう思う一方で、大事な弟を渡したくない気持ちが勝ってしまい、その場に立ち尽くしながら口を開く。

「……好きな相手にバイブを入れるなんて、普通はしないと思いますよ」

「さっきも言ったろ。それは辰之くんが望んだことだって。ひとえに、おまえに気にしてもらうためなんだ」
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