ピロトークを聴きながら

相沢蒼依

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ピロトーク:揺れる想い⑥

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 首を傾げて不思議顔した郁也さんを、じと目で見つめた。

「知り合いって、探偵とかそういう仕事を専門にしてる人?」

 周防さんが、疑問に思ったことを訊ねる。

「そういう仕事をしてる人間を、顎で使える人物」

 郁也さんは不機嫌を示すべく、眉間に深いシワを寄せ、吐き捨てるように言った。名前を出すのも、本当にイヤなんだろうなぁ。

「ゲイ能人の:葩御 稜(はなお りょう)さん、なんですよ」

 代わりに口を開いたら今度は周防さんが、ひどく困った顔をしてくれる。

「涼一くんそれは、もしかして――」

「あ、心配ないですよ。稜さんちゃんと恋人いるので」

「お前……その恋人とも、結構仲良くしてるじゃないか」

 更に不機嫌に、輪をかけて言い放ってくれた。あーあ、もうこうなると機嫌直すのに、えらく手のかかる人なんだよなぁ。

「郁也さんだって、稜さんに抱きつかれて、すっごく嬉しそうしながら顔を赤くして、鼻の下びろーんって、伸ばしてたクセに」

 対談のことを思い出し、口撃してみると、(=_=;)シュンとした。

「ももちん……見境ないね。でも葩御 稜なら俺もしょうがないと思うわ」

 周防さんがなだめる様に、郁也さんの肩をぽんぽん叩くと、何故か鋭く、キッと目を吊り上げる。

「なんで俺ばっか、ふたりにこれでもかと、責められなきゃならないんだっ」

 郁也さんが頭を抱えて叫んだ瞬間、手に持っていた携帯が、軽やかな音を鳴らして僕を呼んだ。

「もしもし、すみません。お忙しいときに……」

 すぐに通話ボタンを押し、話し出しながら、いつものクセで、無意味に頭を下げてしまう。

『大丈夫だよ、涼一先生の頼みなら俺、何だって聞いちゃうから。それでメールでくれた、情報のみなんだね?』

「そうなんです。手がかりが、それしかなくて……」

『病気持ちの高校生か――病院を当たれば、いい感じかな?』

「はい、とりあえず軽井沢の病院を当たって頂ければと……」

 稜さんが快く、引き受けてくれたのは助かった。

『しっかし、添付されてたイラスト!』

「はい……」

 ――郁也さんが描いた、例の似顔絵。もう恥ずかしくて、この場に穴があったら入りたいって!

「えっと、それは。あのですね……郁也さんが描いたモノなんですよ。何か……本人の似顔絵だそうで」

『克巳さんのエッチなマッサージが、ぴたりと止まっちゃうレベルってマジで、かなりの腕前だよね』

 Σ(|||▽||| )

 それって、ちょっと……////

「すみませんっ、本当にすみませんっ! そんな大事なことしてる、手を止めてしまって!!」

 頬に熱がぶわっと集まるのを感じつつ、必死になって謝ってみた。というか、本当に申し訳なさ過ぎて、どうしていいか分からないよ(涙)

「せっかく、そんないいトコであんな絵を見たら、一気に興醒めでしたよね。ホントごめんなさい、無視していいですから」

『無視していいの? ソックリだったら、超笑えるんだけど』

「このお詫びとお礼は、必ずしますので」
 
 さっきからずっと、頭下げてばかりだな。

『お詫びとお礼ね……ふふっ、じゃあさ、俺とふたりきりで食事なんてどうかな?』

 おおっ、こんなことでチャラにしてくれるなんて、稜さんはイイ人だ。

「はい、はい。ふたりきりで食事ですか? いいですよ」

「ダメに決まってるだろ、バカッ!!」

 僕が返事をした途端、郁也さんがスマホを奪って、ギャーギャー怒鳴り散らした。

「何考えてんだ。人のモノに、手を出すんじゃねぇよ!」

 ――ああ、もう……何やってるんだよ。
 
「郁也さん落ち着いて。こっちは、頼みごとをしてる立場なんだよ」

 身体を掴んで、ゆさゆさしてみたけど全然聞いていないらしく、ますます不機嫌になった。

 稜さんと郁也さん、相性最悪だからね。

「はぁ!? ふたりきりがダメなら、三人でって……何でお前の恋人をわざわざ登場させて、3Pとか言ってんだ」

 ――ほらね、遊ばれているじゃないか。

 呆れた顔して郁也さんに背を向けると、周防さんが申し訳なさそうな表情を浮かべているのが、目に入った。

「何か、ももちん、すごい話してるけど大丈夫なの?」

 両腕をW型にして、お手上げを表現。

「本人、稜さんに弄られてるの、気がついてないだけですから。こうなったら、徹底的にやり合わないと、納まらないんで」

「何気に、苦労してるんだね。理解のある恋人がいて、ももちん幸せものだ」

 さっきから辛そうにして、泣いてばかりいた周防さんが、ふわりと柔らかい笑みを浮かべてくれた。

「……やっと笑ってくれましたね、良かった」

 その笑顔にほっとして、胸を撫で下ろす。

「周防さんの傍にも、理解してくれる人が早く戻ってくるのを、祈ってます」

 僕も笑いながら右手を差し出すと、力強い右手が、ぎゅっと握り返された。

「ありがと。どうなるか全然、分からないんだけど、助けてくれたふたりに、いい報告が出来るように、頑張るから」

 周防さんの手の上に反対の手を添えて、優しく包んであげる。

「郁也さんと待ってます。きっと大丈夫ですよ」

 この反対の手は、郁也さんの分。早く太郎くんが見つかるといいなぁ。そしてふたりが上手くいってくれることを、祈らずにはいられなかった。
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