ピロトークを聴きながら

相沢蒼依

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傑作が出来た!③

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 いつもより気合の入ったご飯を食べて、お風呂に入り、現在郁也さんが出てくるのを、まだかなぁと待っている最中。

「お祝いの意味が全然分からなかった。これから何か、披露されるのかな?」

 ゎくo(。・ω・。)oゎくしながら待っていると、頭をタオルでガシガシ拭きながら、手にはスケッチブックを持った郁也さんが、お待たせと一言告げて隣に座ってきた。

「今日は、ホワイトデーだったからな。これを涼一に渡そうと思って、一生懸命に描いたんだ」

「あ……」

 そういえば、ホワイトデーだったんだ――すっかり忘れてた。僕ってば、何も用意していないよ……

「郁也さん、ごめんね。執筆に集中してばかりで、すっかり忘れてた」

「いいよ、そんなの。あとからちゃんと徴収するしな」

 ほらよ、と手渡されたスケッチブックを眺めるように見つめた。



「……何だろ。いつもの絵よりバランスがとれていて、見ていて安心しちゃう」

「安心って一体。お前から貰ったチョコを見つめてる、自分の姿を描いて見たぞ」

 えへんと胸を張って言ってくれたのだけど、突っ込むべきところは、突っ込まなきゃダメだろうな。

「安心出来ないトコも、結構あるけどね。あのさ、刀……どうして鞘をつけないのかなって。何気に血がついているような?」

 誰の血なのか、あえて聞かない方向で話を進めてみるw

「チョコに夢中になっていたせいで、うっかり自分をキズつけてしまったみたいな」

「そ、そうなんだ。へぇ……」

 全然痛そうにしていないのが、郁也さんらしい、のか?

「あとさ、ももたろうマスコットは健在なんだね。ちゃっかり和服仕様なのは、お雛様だから?」

 前回のイラストに季節物を取り入れていたからこそ、今月のイベントがひな祭りだったから、自分をお内裏様に見立てたんだろうなと、容易に想像ついたのだけど。

「ももたろうマスコットは、外せないモノだから。でもお雛様じゃないぜ」

 意味深な笑みを浮かべて、身を翻しキッチンに行ってグラスとビールを手に、戻って来た郁也さん。

「大傑作の前でふたりで乾杯しようぜ、ほらほら」

 その言葉に、思わず吹き出してしまった。確かに大傑作だよ、いろんな意味で。

 ――ホワイトデーの文字について、あえて突っ込まないでおこう……

「こんな俺だけど、これからもヨロシクな、かんぱ~いっ!」

「郁也さんありがと、乾杯!」

 カチンとグラスを鳴らし、グビグビッと喉に流しこんだ。程よい苦味と、シュワッとした炭酸が美味しく感じる。

「なぁ、涼一」

「なぁに、郁也さん?」

「ホワイトデーの徴収について、なんだけどさ」

 ゴニョゴニョと耳元でそれを告げられ、持っていたグラスを、引っ繰り返しそうになった。

「なっ、なななな何を言い出すかと思ったらっ////」

「それで手を打ってやるから、貸し借りはなしってことで」

 愛の言葉を言えないクセして、そういうことを平気な顔して言えちゃう郁也さんが、毎度のごとく不思議に思えてしまう。

「貸し借りって。僕はそんなのした覚えはないけど」

「じゃあ今すぐにバレンタインのお返し、俺にくれよ。ほら、ほらぁ」

 右手を目の前に差し出し、モノを要求――僕は困り果てるしかなく……

「……分かったよ、もぅ。好きにすればいい」

 肩を落とした僕を、にんまりとした笑顔を浮かべて、いきなりお姫様抱っこする郁也さん。

「よしっ、その言葉忘れるなよ涼一! さあ、今からレッツゴーだ。居間からだけどな」
 
 なぁんて面白くないダジャレを言って、さっさと寝室に連行された僕。

 皆さんの想像力を働かせて、この後の展開を考えてみて下さい(*-∀-)ゞ

 めでたし めでたし
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