煌めくルビーに魅せられて

相沢蒼依

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煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛

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***
 瑞稀くんが扉へ向かう背中が、ひどく遠く見えた。たった数歩の距離なのに、二度と届かない場所へ行ってしまうような気がして、胸がひどく痛む。

 あの小さな肩が震えていた。僕のせいだ。流したいわけじゃなかった涙を堪えているのも、全部。なのに——。

(――瑞稀くん行かないで)

 喉の奥から、叫びにもならない声が漏れかけた。理性は「追うな」と命じているのに、本能が許さない。今、彼がここから出てしまったら、二度と触れられない気がした。

「待って、瑞稀くん……!」

 気づけば走っていた。無意識に伸ばした手が瑞稀くんの手首を掴むと、驚いた彼が振り返る。一番最初に目に入ったのは、涙で赤くなった瑞希くんの瞳だった。それを見た瞬間、胸が軋むほど痛む。

「ごめん……そんな顔させて。僕のせいで……」

 言葉をつなごうとしたそのとき、ふわりと彼の首元をかすめる血の匂いを僕の鼻が感知する。

(……血……)

 次の瞬間、理性が悲鳴をあげた。

 ——だめだ、これ以上近づくな。

 でももう遅かった。数日前に飲んだ一口が、舌に鮮明に蘇ってしまった。甘くて、熱くて、柔らかい血の味を。

(ああ、欲しい。もう一度だけ、ほんの少しでいいから)

「玲夜さん……?」

 瑞稀くんの声が震える。僕の目が吸血鬼の瞳の色に染まっていくことを、目の当たりにしたからだろう。

「……ごめん……」

 本当に謝りながら、僕は彼の体を胸に引き寄せた。

「やっ、離して——」
「無理なんだ!」

 悲鳴のような声が自分から出た。

「もう、抑えられない……っ」

 瑞稀くんの首筋へ顔を埋めたそのとき、彼の体がびくりと震えた。その瞬間、牙が触れてしまう。薄い皮膚の下で鼓動が跳ねる。その脈が、僕の本能を完全に破壊しかけた。

(飲みたい。飲んでしまいたい。消えてしまうほど、彼の血が欲しい)

「玲夜さん、やだっ……!」

 瑞希くんはもがきながら、上半身を押し返した。でも僕の腕は勝手に彼を抱きしめたまま、絶対に瑞稀くんを離さない。

「怖くないようにする……すぐ終わるから……」

 そんな嘘をつきながら、瑞稀くんを散らばった資料の上に倒した。書類が床に滑り落ち、硬い音が静かな研究室に響く。

 無造作に倒れ込む音。瑞稀くんの痛そうな息。それすらも、僕をさらに追い詰める。

「……ごめん……本当にごめん」

 謝りながら、牙は首筋のすぐ近くにあった。あと数ミリ。触れたら、もう戻れない。なのに体は熱に浮かされたように動こうとする。

(瑞稀くんの血が欲しい。君が欲しい。どうして……どうしてこんなにも——)

「だめ……玲夜さん……やめて……っ」

 そのか細い声が、最後の理性をかろうじて繋ぎとめた。

「……くっ……!」

 歯が鳴るほど噛みしめ、声にならないうめきが漏れた。

「……ごめ……な……さ……」

 自分の腕が震えていた。瑞稀くんを傷つけたくないのに、離れれば渇きが暴れる。このままでは、また襲ってしまう。

(……愛してるのに。どうして君を傷つけるんだ、吸血鬼の僕は)

 そう叫びたかった。でも言葉にならなかったのは、自分が本当に恐ろしい存在だと悟ってしまったから。

 瑞稀くんの肩に食い込む自分の指の強さに、ようやく我に返りかけた。だが喉の奥では獣のような飢えがまだうずき、瑞稀くんの血の香りが――今さら離れることなど許してくれない。

「れ、玲夜さん……っ」

 押し倒された体勢のまま、瑞稀くんは怯えたように、自分を見上げていた。あの優しい瞳が、こんなふうに揺らいでいる。

 ――最低だ。

 それでも牙は彼の首筋へと、勝手に近づいてしまう。そして皮膚をわずかに噛んだ瞬間、瑞稀くんの首筋に噛みついたまま、ほんの一滴の血が舌に触れただけで、それまで必死に積み上げてきた理性が、音もなく崩れ落ちた。

 瑞稀くんは机の上で息を震わせ、細い指で必死に僕の胸元を押し返そうと抵抗している。

 ――離れなければ。

 そう思うのに体が動かなかった。

「……玲夜さん……も、やめ……っ」

 掠れた瑞稀くんの声。それだけで我に返りかけた、その時だった。

「やあっ!  あぁっ、感じ…ちゃうっ」


そのか細い拒絶が、逆に火を点けた。理性の糸が、ぷつんと切れる音が頭の中で響いた瞬間——もう、戻れない。
  
 僕は迷うことなく、彼の首筋に牙を深く突き立てた。ぷちゅり、と柔ら肌が破れる湿った音。熱い血が、勢いよく舌の上に噴き出して、喉を灼くように流れ込む。

(——ああ、狂うほど甘い。前回の一口なんか、ただの前菜だ。今は違う。恐怖で高ぶった脈拍、混乱で震える体温、それでも僕を拒みきれなかった優しさが全部溶け合って、脳髄まで痺れるほどの媚薬になる)

 血の味が、瑞稀くんのすべてを僕の中に注ぎ込んでいく。

「——うっ、あぁっ!」

 瑞稀くんの体が弓なりに反って、甲高い喘ぎが漏れた。細い首がびくびくと痙攣し、僕の口にさらに血を押し出す。でも彼は逃げなかった。震える両手が僕の背中に回され、爪がシャツ越しに食い込む。痛いくらいに強く掴んで、引き寄せるように。

(どうして……? 怖いはずなのに……嫌いになるはずなのに……)

 血を啜りながら涙が溢れた。熱い、すごく熱い。瑞稀くんの血が喉を伝うたび、空っぽだった心が満たされていく。でも、それ以上に——彼が震える唇で呟いた言葉が、僕を完全に破壊した。

「……玲夜さんが、欲しいなら……あげます……」

 その瞬間、僕は本当に壊れた。血を吸う唇を離し、今度は彼の唇を貪るように奪った。血の味が混じった、どろどろに熱いキス。舌をねじ込み、瑞稀くんの舌を絡め取って、唾液と血を交換するように吸い上げる。

 瑞稀くんが、僕の口の中で甘く喘いだ。

「……んっ、ふぁ……っ」

 その声に、僕の下腹が疼いてたまらなくなる。瑞稀くんのシャツのボタンを引きちぎるように外し、露わになった白い胸に舌を這わせる。鎖骨の窪みに血が伝って、赤い筋を描いている。それを舐め取りながら、乳首に牙を立てないよう気をつけて——舌先で転がす。

「ひゃうっ……! そこ、だめっ……感じちゃう……っ」

 瑞稀くんの腰がびくんと跳ねて、甘い声が部屋に響く。もう乳首は硬く尖って、僕の舌に吸われるたびに体が震える。

 僕はさらに下へ。ズボンのチャックを下ろし、下着越しに膨らんだ熱を手のひらで包んだ。すでに先走りが染みを作っていて、布越しでも脈打つのがわかる。

「……もう、こんなに濡らして……吸血鬼の僕のせいで、こんなに欲しくなってるんだね」

 下着を剥ぎ取ると、瑞稀くんの性器がぴくんと跳ねて、透明な糸を引いた。

可愛い。あまりにも綺麗で、僕のものにしたい衝動が爆発する。僕はそれを口に含んだ。熱くて、しょっぱくて、瑞稀くんの匂いが充満する。

「——あぁっ! だめ……っ」

 瑞稀くんが腰を浮かせて悶える。でも僕の頭を押しのけようとしない。僕は喉の奥まで彼自身を咥え込み、舌を絡めながら激しく吸い上げた。瑞稀くんの先端から溢れる先走りを全部飲み干して、血の味と混ぜる。

 もう限界だった。自分のズボンを乱暴に下ろし、熱を解放する。僕のものは痛いほど勃起していて、先端から我慢汁が糸を引いている。瑞稀くんの足を大きく広げて、我慢汁を撫でつけながら熱を押し当てる。

「……挿入れるよ。全部、僕のものにする」
「待って……まだマサさんとしか——」

 その名前を聞いた瞬間、嫉妬で頭が真っ白になった。

(——許さない。アイツが触れた場所を、全部上書きしてやる)

 僕は一気に、瑞稀くんの中へ沈めた。キツくて熱い。信じられないくらいに僕のを締め付けてきて、理性を本当に溶かす。

「——っあぁぁっ!!」

 瑞稀くんが悲鳴のような喘ぎをあげて、背中を反らせた。痛みと快感で涙を流しながら、僕の肩に爪を立てる。僕は腰を激しく動かした。奥を突くたびに、瑞稀くんの内壁が僕を締め付けて、甘い痺れが背筋を駆け上がる。

「……やっ、そんな、にぃ……んっ、激しくしちゃ……うぅっ!」

 その言葉で、僕は本当に泣きながら腰を打ち付けた。血と涙と唾液と汗が全部混じって。最後、瑞稀くんが達した瞬間——僕の腹に熱いものがぶちまけられて、僕も彼の中で限界を迎えた。

 瑞稀くんの首筋に、もう一度牙を深く突き立てながら今度は、愛おしくてたまらないという気持ちを全部込めて血を啜る。

 瑞稀くんが僕の名前を呼びながら、意識を失った。僕は彼を抱きしめて、何度も何度も囁いた。

「……もう、誰にも渡さない。君は、永遠に僕のものだ」
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