最初から最後まで

相沢蒼依

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☆☆彡.。

 組織のメンバーになって、2年の月日が流れた。黒い箱に浮かびあがった人数は、やっと999人。残りあと一名で、僕の背中に天使の翼が生える。

 最初から殺害する人数を告げていたこともあり、今回の暗殺をもって、組織から抜けることになっていた。

(二年間在籍した関係で組織の内情を詳しく知ってるから、消される可能性がある。背後に気をつけなきゃな――)

 組織のメンバーになってから、暗殺者としての教育を受けることができたことで、以前よりもスムーズに人に手をかけることができた。ほかには身分を偽って、貴族に雇ってもらうことで、屋敷に忍び込むのも、随分と楽になった。

 今回のターゲットは、黒い噂のある王族と癒着しているという貴族の暗殺だった。

 下働きとして雇われている身ゆえに、ターゲットの貴族は、僕の顔を知らない。だがここで雇われているという証になるバッジを胸に付けて屋敷の中を彷徨いているので、誰も僕のことを気にとめなかった。

 時刻は真夜中、見回りしている者以外、就寝している時間帯になる。うまいこと見回りの目をかい潜り、貴族の寝室に音もなく忍び込む。

 明かりは当然消されているので、あらかじめ持っていた蝋燭に火を灯して、手元を明るく照らした。貴族が寝ているベッドに近づき、肩を強く揺すって起こす。

「旦那様、大変でございます。起きてください」

「んん……なんだ、こんな夜更けに」

「こちらをご覧ください」

 考える隙を与えないようにすべく、貴族の顔の前に赤い石を見せつけた。寝ぼけ眼でそれを見た瞬間、彼は一気に白目を剥き、ベッドに倒れ込む。

 間髪おかずに隠し持っていたナイフを取り出し、貴族の胸に目がけて振り下ろした。暗殺組織に加わってから、暗殺したという痕跡を残すように命令されているので、こうしてターゲットにナイフを突き刺している。

 やがて貴族の口元から白い煙がふわふわ出てきた後に、光り輝く白い玉が形作られた。それと同時に999という金文字が浮かびあがっている黒い箱が、僕の足元に現れる。

 音のなく蓋が開いた刹那、白い玉が勢いよく吸い込まれたあとに、蓋が閉じられる。1000という数字が金色から白い色に変化し、目が開けられないくらいに眩しく発光した。

「わっ!」

 片手で目元を隠しても、明るさがわかるなんて、相当光っている証拠だろう。

(すべてを飲み込んでしまうくらいに明るい光が、僕に天使の翼を授けてくれるんだな)

 ワクワクしながら待っていると、肩甲骨の辺りが熱くなりはじめ、いきなり強烈な痛みに変化した。

「くっ、すっごく痛い……」

 まるで背中に、大きな焼きごてを押し当てられているようなヤケドの痛みを感じてる間に、なにかが皮膚を突き破る。あまりの痛みにしゃがみ込んで、背中を丸めた。

 痛みが引くまで、5分くらいそのままでいたが、天使の翼を見たい欲求に駆られ、蝋燭台を手に姿見を探す。寝室の奥の壁に蝋燭の光が反射したので、勇んで近づいて、己の姿を眺めた。

「なんだ、これ?」

 それ以上、言葉が出てこない。期待していた真っ白い翼が、鏡に映っていなかった。そこに映っているのは、赤い石と同じような色味に変わった瞳の顔と、コウモリに似た漆黒の大きな翼が、背中から生えている姿があった。手元をよく見ると爪も鋭く尖ったものになっていて、見るからに武器になりそうだった。
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