貴方が残してくれたもの

相沢蒼依

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virgin suicide :貴方との距離

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***

 平和な日はそう長くは続かない。突発的に事件は起こる。

 捜査本部がババッと立ち上がり、みんな準備でバタバタ忙しく動いていた。ただ、一人を除いて……

「デカ長、山上がデスクの上で死んでます~」

 誰かが、でかい声で叫ぶ。
 
 俺はコピー機を運ぶべく、音を立ててガラガラ動かしながら、目の端に山上先輩の姿を映した。

 机の上で突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。朝から体調が酷く悪そうだった。デスクに置かれた、栄養剤の空き瓶と風邪薬。

「まったく。ここぞという時に、使えなくなるとはなぁ。休日返上して、何か調べ物してただろ?」
 
 デカ長が山上先輩の傍に行き、そっとオデコを触っている。

「何でそんなこと、知ってるんですか……。デカ長は俺のストーカーですか?」
 
 笑いながら言ってる声色に、いつもの力強さはなかった。見るからにかなり、具合が悪そう――

 思わずふたりのやり取りに、眉を寄せるしかない。

「今日は帰れ。忙しい時に他の奴らにうつされても、超迷惑だからな」

「そんな、人をバイキン呼ばわりして……。帰りたくないですよ。今回のヤマは、僕の好きなモノなんだから……」

「水野っ! おい、どこにいる?」

 キョロキョロして、俺を捜すデカ長。俺はコピー機を押しながら、右手をぶんぶん振って、この場にいることをアピールしてみせた。

「はい、います!」

「そのコピー機の上に山上乗せて、自宅まで連行してくれや」

 その台詞に緊迫感溢れる三係が、笑いの渦に包まれた。

 デカ長はいつも絶妙なタイミングで皆を笑わせ、いい感じで緊張を解す。本当に出来た上司だと思うけど、ちょっと変な人なので、憧れてはいない。
 
(――尊敬と称すべきか)
 
 じっと見つめる俺に、熱っぽい視線を飛ばして、うな垂れる山上先輩。

「人をダシに、使いやがって……」

「まあまあ。それは冗談でとにかく、水野に付き添ってもらえよ。かなり熱が高いぞ、お前」
 
 両腕を組んで心配そうに見下ろすデカ長に諭され、仕方なく頷き、フラフラしながら立ち上がった山上先輩。

「水野悪いが、山上を家まで送ってやってくれ。抜け出せないよう、両手足に手錠していいから」
  
 またもや爆笑する同僚たち……

 俺は苦笑いしながら、コクンと頷いた。
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