貴方が残してくれたもの

相沢蒼依

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virgin suicide :守りたい

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***
 
 向かった捜査本部で、頼まれたデスクワークを、黙々とこなしている最中――

「水野、ちょっと抜けるわ。タバコ吸って頭……しっかりと冷やしてくる」

 さっきの怒りがどうしてもおさまらない怒りまくりの山上先輩は、機敏な動作で本部から出て行った。

「ごめんね、山上先輩……」

 俺が呑気に、キツネ顔の男と喋ったりしたから。まさか、デスクを荒らした犯人だったなんて、思いもよらずに……

「山上はいるか?」
 
 上座から本部長が、山上先輩を捜している。

「すみません。今ちょっと、席を外してますっ!」

 俺は片手を上げて大きな声で言うと靴音を立てて、こちらに駆け寄って来た。

「さっき、提出してもらった書類なんだが……ここ、珍しく抜けがあって」

 俺が覗き込んで確認してみると、普段ならしないような、ちょっと変わったミスをしていた。怒りを心に抱えたまま、仕事をしていたせいかもしれない。

「さっき見た資料があれば、俺でも出来ますけど、修正を施しましょうか?」

「悪いが、急いで仕上げてくれ」

「分かりました」

 書類を受け取ると、本部長が肩に手を置いてきた。ずしっとした重みのあるそれに、ちょっとだけ緊張してしまう。

「最近、めっきりと頼もしくなったな。期待しているよ」

 一言告げたと思ったら、颯爽と元の場所へ戻って行く。

 山上先輩のお陰で、俺は強くなれているから。以前よりもしっかり仕事ができるようになったことに、きちんと感謝しなきゃいけないよね。
 
 さっき出て行った扉を見てから、急いで資料を取り出し、書類の直しにかかった。こうしてリカバリーできるようになった自分を、誇らしく思いながら――
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