38 / 64
鏡花水月~Imitation Black~(山上達哉の高校生時代の話)
Imitation Black:本当の姿
しおりを挟む
二週間の期限付きの教育実習生が、あと三日でいなくなる昼下がり。
購買に行こうと廊下をダラダラ歩いていたら、目の前にある渡り廊下を険しい顔をした実習生に、強引な感じで腕を引っ張られる山上を偶然発見してしまった。
そのただならなぬ雰囲気に眉根を寄せながら駆け寄って、山上の反対の腕をグイッと引っ張った。
「痛っ!」
山上の声に振り返った実習生は、俺がいるのをやっと認識し、掴んでいた腕を放す。
「君は……」
「山上、嫌がってるだろ。どこに連れて行く気だ?」
山上の腕を引いて背に隠し、難しい顔をした実習生と対峙した。正直ちょっとだけ、ビビりながら。
「ちょっと話したいことがあるだけだから。悪いけど、山上を貸してくれないか?」
「また視聴覚室に連れ込んで、いかがわしいことをするんだろ? 山上はお前のことなんか、何とも思っちゃいないよ。そんなことしても、虚しいだけだって」
俺よりも少しだけ背の低い実習生を見降ろしながら、強い口調で言い放った。
長くバスケをやってて、良かったと思った瞬間。じゃないとこんな風に、年上に対して話が出来ないから。
「そんな……だって達哉はお」
「先生っ! ごめんなさい」
強引に俺を押し退けて、ぎゅっと実習生の体を強く抱きしめた山上。目の前の光景を見たくなくて、顔を背けるしかない。
「松田も悪かった。ちょっとした痴話喧嘩なんだ。いろいろ行き違っちゃってさ」
「そうか……」
「きちんと話し合えば、解決することだから。先生、行こうか?」
実習生の左腕を掴んで別棟に連れて行くのか、足早に歩いて去って行った。
だけど数歩進んでから、俺に振り返る。
「松田……有難う」
どこか寂しそうな顔をしながらいつもよりトーンの低い声で告げると、逃げるような足取りでその場から立ち去る。
らしくないその様子に、何だか胸騒ぎがしたのだった。
購買に行こうと廊下をダラダラ歩いていたら、目の前にある渡り廊下を険しい顔をした実習生に、強引な感じで腕を引っ張られる山上を偶然発見してしまった。
そのただならなぬ雰囲気に眉根を寄せながら駆け寄って、山上の反対の腕をグイッと引っ張った。
「痛っ!」
山上の声に振り返った実習生は、俺がいるのをやっと認識し、掴んでいた腕を放す。
「君は……」
「山上、嫌がってるだろ。どこに連れて行く気だ?」
山上の腕を引いて背に隠し、難しい顔をした実習生と対峙した。正直ちょっとだけ、ビビりながら。
「ちょっと話したいことがあるだけだから。悪いけど、山上を貸してくれないか?」
「また視聴覚室に連れ込んで、いかがわしいことをするんだろ? 山上はお前のことなんか、何とも思っちゃいないよ。そんなことしても、虚しいだけだって」
俺よりも少しだけ背の低い実習生を見降ろしながら、強い口調で言い放った。
長くバスケをやってて、良かったと思った瞬間。じゃないとこんな風に、年上に対して話が出来ないから。
「そんな……だって達哉はお」
「先生っ! ごめんなさい」
強引に俺を押し退けて、ぎゅっと実習生の体を強く抱きしめた山上。目の前の光景を見たくなくて、顔を背けるしかない。
「松田も悪かった。ちょっとした痴話喧嘩なんだ。いろいろ行き違っちゃってさ」
「そうか……」
「きちんと話し合えば、解決することだから。先生、行こうか?」
実習生の左腕を掴んで別棟に連れて行くのか、足早に歩いて去って行った。
だけど数歩進んでから、俺に振り返る。
「松田……有難う」
どこか寂しそうな顔をしながらいつもよりトーンの低い声で告げると、逃げるような足取りでその場から立ち去る。
らしくないその様子に、何だか胸騒ぎがしたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる