貴方が残してくれたもの

相沢蒼依

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鏡花水月~Imitation Black~(山上達哉の高校生時代の話)

Imitation Black:切ない別離2

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***

「松田、何か顔色悪くね? 次の授業マラソンだけど、大丈夫なのか?」

「ああ。もともと色が白いから、顔色が悪く見えるだけだって。トイレに寄るから、先に行ってるぞ」

 心配してくれた級友を置いてきぼりにして、さっさと教室を出た。慌てていた俺は、入れ違いに入って来る人物と軽くぶつかってしまう。

「ゴメン、急いでたもんだから……」

 それ以上の言葉を、続けることが出来なかった。そこにいたのは、すごく驚いた顔をして、くっと息を飲む山上がいたから。

 教室に入ろうとしていたのに、なぜか廊下側に出て、あからさまに俺との距離をとる。
 
 その姿を見ただけで、シクシクと胸が痛んだ。

「こっちこそ悪かったね。どうぞ」

 口元だけ笑みを浮かべた無理矢理な作り笑いに、どうにも体を動かせなかった。
 
 イミテーションな笑みすら、俺には見せられなくなってしまったのか……

「おーい山上、休み時間10分切ってるぞ。早く着替えて、さっさと点呼しなきゃ!」

 俺の背後で誰かが叫ぶ。
 
 ソイツに向かって、いつもの柔和な笑みをふわりと浮かべた山上。

 すれ違いざま、

「近づいて、悪かった……」

 低い声でそう言い放ち、教室の中に入って行った。俺はその声を吹っ切るように、ダッシュする。

 もう山上とは普通に話すことすら、出来ないんだと痛感した。
 
 つらすぎて……胸が張り裂けそうだった。
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