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Scarfaceキズアト
Scarface:突然の出逢い4
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コワモテ男に言われたからじゃないけど、俺の仕事は昴さんの身の回りの世話が中心だった。
レストランの厨房でバイトしてたお陰で、料理が作れる俺を大層気に入ったらしく、三度の飯をわざわざ自宅に帰って食べる始末。
正直、レパートリーはそんなにない。似たような物が続いているのにもかかわらず、文句を言わずに全部平らげてくれた。
「竜生の作る物は、何でも美味いよ。味付けも俺の好みなんだよなぁ」
そう言って、嬉しそうに食べる。
普段褒められたり、誰かに必要とされたことがなかった俺は、この行為に激しく戸惑ってしまった。どんな顔をして対処すればいいか、分からなかったのだ。
困惑した様子の俺に、昴さんはクスクス笑って、いつも乱暴にぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。
「料理だけじゃなく、掃除や洗濯してくれてありがとな。帰ってきて部屋が綺麗だと、すっげぇ落ち着く」
「……他にすることないし、暇つぶしみたいなもんだし」
すっかり主夫してる、自分が結構恥ずかしい――
ソファの上で、照れて横を向いた俺の体を、いきなりぎゅっと抱きしめてきた。
「わっ、何するんだっ!?」
「心臓の音、聞かせろよ。この音聞いてると、妙に安心するんだ……」
「わわっ!」
強引に、ソファの上に押し倒される俺。じたばたする両腕ごと強く、体を抱きしめられてしまった。
「竜生元気だな、すっごい鼓動が早い」
「当たり前だろ、こんなワケの分からないことされて、びっくりしてるんだから」
「今は元気でも、鉛の弾をぶち込んだら、一瞬で終わりなんだぞ。呆気ないものさ」
「……昴さん?」
今日はそういう、アブナイ仕事をしてきたんだろうか?
いつもと様子が違う感じがした。疲れきったような雰囲気を、そこはかとなく漂わせているし。
「あったかい、竜生の体。本当に居心地が良いなぁ」
「昴さんもういい歳なのに、年下の俺に甘え過ぎじゃないですか?」
そういう俺も、昴さんの好意に甘えっぱなしなんだ。
最初はイヤで仕方なかった家事すら、褒められ続けると、不思議と頑張れた。本当に、人を使うのが上手い人だよ、だから幹部なのかもしれない。
「自分の家で誰に何をしようと、俺の勝手だ。好きにさせろ、今くらい」
「もうすぐ仕事の時間だけど、大丈夫ですか?」
「ああ? もうそんな時間か、早いなぁ。このまま昼寝したいっていうのに」
仕方なさそうに起き上がり、済まなそうに俺を見降ろした。
「下敷きにして悪かったな、重かったろ? 顔、真っ赤になってる」
「窒息死寸前でしたから、正直大変でした」
「じゃあ今度は、お前が上になればいい。そしたら苦しくないだろ?」
(またやらされるのか、これ……)
微妙な顔をすると艶っぽく笑いながら、背広を肩に掛けた。
俺が同じことをしても全然、様にならないだろう。昴さんは何をやっても格好良い、自然と目が奪われてしまうんだ。俺よりも9歳年上だし、いろんな経験がそうさせているんだろうな。
「いってらっしゃい、昴さん。気をつけて」
「今夜ベッドで、お前の心音聞かせて?」
「そういうこういう、キレイな女の人に頼んで下さい。そういう変な趣味、俺にはないですから」
言葉でしっかり、丁重にお断りしているのに。
「俺は結構本気なんだぞ、これでも。お前のその、キツい一重瞼に惚れたんだがなぁ」
その反抗心も含めてだがと笑いながら言って、颯爽と出て行ってしまった。
冗談なのか本気なのか全然分からない、昴さんの最後のセリフ。
いつも通りのやり取りにため息を深くついて、昼食の後片付けをしたのだった。
コワモテ男に言われたからじゃないけど、俺の仕事は昴さんの身の回りの世話が中心だった。
レストランの厨房でバイトしてたお陰で、料理が作れる俺を大層気に入ったらしく、三度の飯をわざわざ自宅に帰って食べる始末。
正直、レパートリーはそんなにない。似たような物が続いているのにもかかわらず、文句を言わずに全部平らげてくれた。
「竜生の作る物は、何でも美味いよ。味付けも俺の好みなんだよなぁ」
そう言って、嬉しそうに食べる。
普段褒められたり、誰かに必要とされたことがなかった俺は、この行為に激しく戸惑ってしまった。どんな顔をして対処すればいいか、分からなかったのだ。
困惑した様子の俺に、昴さんはクスクス笑って、いつも乱暴にぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。
「料理だけじゃなく、掃除や洗濯してくれてありがとな。帰ってきて部屋が綺麗だと、すっげぇ落ち着く」
「……他にすることないし、暇つぶしみたいなもんだし」
すっかり主夫してる、自分が結構恥ずかしい――
ソファの上で、照れて横を向いた俺の体を、いきなりぎゅっと抱きしめてきた。
「わっ、何するんだっ!?」
「心臓の音、聞かせろよ。この音聞いてると、妙に安心するんだ……」
「わわっ!」
強引に、ソファの上に押し倒される俺。じたばたする両腕ごと強く、体を抱きしめられてしまった。
「竜生元気だな、すっごい鼓動が早い」
「当たり前だろ、こんなワケの分からないことされて、びっくりしてるんだから」
「今は元気でも、鉛の弾をぶち込んだら、一瞬で終わりなんだぞ。呆気ないものさ」
「……昴さん?」
今日はそういう、アブナイ仕事をしてきたんだろうか?
いつもと様子が違う感じがした。疲れきったような雰囲気を、そこはかとなく漂わせているし。
「あったかい、竜生の体。本当に居心地が良いなぁ」
「昴さんもういい歳なのに、年下の俺に甘え過ぎじゃないですか?」
そういう俺も、昴さんの好意に甘えっぱなしなんだ。
最初はイヤで仕方なかった家事すら、褒められ続けると、不思議と頑張れた。本当に、人を使うのが上手い人だよ、だから幹部なのかもしれない。
「自分の家で誰に何をしようと、俺の勝手だ。好きにさせろ、今くらい」
「もうすぐ仕事の時間だけど、大丈夫ですか?」
「ああ? もうそんな時間か、早いなぁ。このまま昼寝したいっていうのに」
仕方なさそうに起き上がり、済まなそうに俺を見降ろした。
「下敷きにして悪かったな、重かったろ? 顔、真っ赤になってる」
「窒息死寸前でしたから、正直大変でした」
「じゃあ今度は、お前が上になればいい。そしたら苦しくないだろ?」
(またやらされるのか、これ……)
微妙な顔をすると艶っぽく笑いながら、背広を肩に掛けた。
俺が同じことをしても全然、様にならないだろう。昴さんは何をやっても格好良い、自然と目が奪われてしまうんだ。俺よりも9歳年上だし、いろんな経験がそうさせているんだろうな。
「いってらっしゃい、昴さん。気をつけて」
「今夜ベッドで、お前の心音聞かせて?」
「そういうこういう、キレイな女の人に頼んで下さい。そういう変な趣味、俺にはないですから」
言葉でしっかり、丁重にお断りしているのに。
「俺は結構本気なんだぞ、これでも。お前のその、キツい一重瞼に惚れたんだがなぁ」
その反抗心も含めてだがと笑いながら言って、颯爽と出て行ってしまった。
冗談なのか本気なのか全然分からない、昴さんの最後のセリフ。
いつも通りのやり取りにため息を深くついて、昼食の後片付けをしたのだった。
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