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第2章:導きの乞え

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 学祭が終わって家に帰ると、なぜか母さんが塀に寄りかかって待っていた。俺の存在を認知するや否や、顔を見てギロリと睨みつけてくる。

「た、ただいま……。どうしたのさ、こんなところで」

「お祭りが楽しすぎて、何を拾ってきたのやら」

 塀に寄りかかっていた体を起こし、俺の目の前に立ちはだかった。

「はじめまして、優斗のお母さん。って言っても、歓迎されていないみたいだね」

 俺の声で博仁くんの言葉が告げられたことに、心底驚くしかない。

(何で!? ってあれ……)

 声が出せない――それだけじゃなく、体も自分の意思で動かせなくなっていた。

「優斗のバカ。乗っ取られたんだよお前」

 母さんのセリフですっと青ざめたけど、既に遅いのは明白だった。俺の手には、あの緑色の炎がいつの間にか出されていた。

「アンタ、それはっ?」

「優斗のお母さんなら、これを受け取っても平気ですよね。名のある霊能者なら、これをどうやって受けてくれるでしょうか?」

 言い終わらない内に、母さんに投げつけられる炎。だけど手に持っていた数珠を使って、光り輝く大きな結界を張り巡らせた。

(――母さんっ!)

 だけどそれは炎によって、簡単に燃やされてしまった。メラメラと紅蓮色に燃え尽きて、いとも簡単に結界が壊された。

「何をボケッとして見てんだい。さっさとそんなヤツ、体の外に追い出しな!」

 そんなこと急に言われたって、追い出し方が分からない――。

(博仁くん、母さんに向かって、いきなり炎を投げつけるなんて酷いじゃないか!)

 追い出し方が分からなくても、文句なら言える。説得して、これ以上の攻撃を止めさせなくては。

「優斗、君のお母さんから攻撃をしようとしていたんだよ。その証拠に見てごらん。あの手に持っている数珠を。実の息子を待ちながら、持っているべきものではないだろう?」

(そ、れは……)

「優斗の姿形をしていても中身が違うだけで、別人になるものだね。お蔭でこっちから仕掛けやすい」

 何かの術をかけようとした母さんに向かって、再び放たれる緑色の炎。

(止めてくれ博仁くんっ。母さんは悪くないのに――)

 話し合えば、きっと分かってくれるハズだよ。

 心の中で必死に叫んでみてもスルーしたまま、母さんへの攻撃の手を休めてはくれなかった。

「優斗の力を使って、そんなモンを出すんじゃないよ。忌々しいコだね、アンタ!!」

「さすがは優斗のお母さん。全部弾いてくれるなんて、凄いですね」

 何で、こんな風に争わなきゃならないんだ。自分の体を使って母さんに投げつけられる炎が、憎くて堪らなくなってくる。これさえなければいいのに。

(もう……もうやめてくれって!!)

 俺の体を気遣って、ひたすら攻撃を受けているだけの母さん。一緒に霊を浄化しようと言ってくれた博仁くん。そんなふたりの争いを見ていたくないと、心の底から強く願った。

 次の瞬間、体の重みをズシッと感じて跪くと、目の前に博仁くんの霊体が横たわって現れた。
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