6 / 57
第一章「絶倫王」
006
しおりを挟む
未亡人アクセラ妃は、ダリオン軍直参の精鋭騎兵に護衛されながら、玉の輿に乗って帝都エルドランドの宮殿へ送り届けられた。
「我が王朝の恥さらしめ!」
皇太子アクセル二世は、手ずから剣を取って斬首に処した。
「処女にあらずば娘にあらず! すなわち他家の女なり!」
「よくぞ申した、私の息子よ。それでこそ由緒正しき一族の当主として家督を継ぐにふさわしい。今は亡き父君も誇りに思っておられよう」
ここに、いよいよ戦争の幕が切って落とされた。
逆さに吊るされたアクセラ妃の生首を目の当たりにした民衆は、皇太子アクセル二世の暴挙に恐れおののく。
そして、市中のあちこちで国旗を燃やし、衛兵に向かって石を投げた。
帝国で暮らす人々に次代の皇帝を選ぶ権利はない。ただし、奴隷を除いた自由人の投票によって信任を問うことは認められていた。
これはかつて、歴代の皇帝がみな独身だったことに由来する制度だ。
継承法の成立によって父親から息子へと帝位が譲られるようになったのは、帝国中興の時代からだ。
いまや神話と化した建国史においては、王族の血を継いだ男子の中から、親戚一同の話し合いによって選ばれるのが習わしだった。
「――女殺しは童貞にあらず! 皇太子廃すべし!」
ところが、それでもなお評議会は民衆の声を聞かず、満場一致で皇太子アクセル二世を正統な後継者と認めた。
ほかにふさわしい候補者が見つからなかったからだ。
これまで脈々と続いてきた王朝の血統を廃し、歴代の系譜をさかのぼって新たな皇帝を擁立するからには、その資格を有する者はやはり童貞でなければならない。
その一方で、皇帝の即位に際して冠を授ける立場にある聖女は、いまだ外界に魔物多しと告げて姿を現さなかった。
始祖の末裔である皇帝を国家の父とするならば、女神の化身たる聖女は万民の母とも呼ぶべき存在だ。
処女信仰の教徒たちは、天地の創造主にして破壊神の怒りに触れぬよう、神殿へ供物を捧げて断食に明け暮れた。
「我が王朝の恥さらしめ!」
皇太子アクセル二世は、手ずから剣を取って斬首に処した。
「処女にあらずば娘にあらず! すなわち他家の女なり!」
「よくぞ申した、私の息子よ。それでこそ由緒正しき一族の当主として家督を継ぐにふさわしい。今は亡き父君も誇りに思っておられよう」
ここに、いよいよ戦争の幕が切って落とされた。
逆さに吊るされたアクセラ妃の生首を目の当たりにした民衆は、皇太子アクセル二世の暴挙に恐れおののく。
そして、市中のあちこちで国旗を燃やし、衛兵に向かって石を投げた。
帝国で暮らす人々に次代の皇帝を選ぶ権利はない。ただし、奴隷を除いた自由人の投票によって信任を問うことは認められていた。
これはかつて、歴代の皇帝がみな独身だったことに由来する制度だ。
継承法の成立によって父親から息子へと帝位が譲られるようになったのは、帝国中興の時代からだ。
いまや神話と化した建国史においては、王族の血を継いだ男子の中から、親戚一同の話し合いによって選ばれるのが習わしだった。
「――女殺しは童貞にあらず! 皇太子廃すべし!」
ところが、それでもなお評議会は民衆の声を聞かず、満場一致で皇太子アクセル二世を正統な後継者と認めた。
ほかにふさわしい候補者が見つからなかったからだ。
これまで脈々と続いてきた王朝の血統を廃し、歴代の系譜をさかのぼって新たな皇帝を擁立するからには、その資格を有する者はやはり童貞でなければならない。
その一方で、皇帝の即位に際して冠を授ける立場にある聖女は、いまだ外界に魔物多しと告げて姿を現さなかった。
始祖の末裔である皇帝を国家の父とするならば、女神の化身たる聖女は万民の母とも呼ぶべき存在だ。
処女信仰の教徒たちは、天地の創造主にして破壊神の怒りに触れぬよう、神殿へ供物を捧げて断食に明け暮れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる