エロサーガ 童貞と処女の歌

鍋雪平

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第二章「童貞の子」

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 のちに次世代の聖女に選ばれることになる修道女フローディアは、薬の調合に通じた治癒師であると同時に、優れた教育家でもあった。
 神官や僧侶でさえ武器を持って戦うのが当たり前な世の中にあって、あえて返り血に染まらぬ白衣をまとい、衛生観念の普及につとめた第一人者でもあった。
「――よいですか? おちんちんの先っぽから飛び出してくる精液は、たとえ我慢汁であっても種付けされてしまう恐れがあります。ですから、危険日を避けたからといって必ずしも安全とは限りません」
 フローディアは、女神像が奉じられた教壇に立って聖典をひもとき、この世界の成り立ちと生命の誕生にまつわる神秘を説く。
 ろくに文字の読み書きさえできない村人たちを集めて、男女における身体の仕組みや、性に関する正しい知識を広める。
 処女信仰は、一夫多妻や生前離婚を認めない。もちろん婚前交渉も禁じられている。
 とはいえ、新郎新婦ともに初めて同士だと、いざ子作りに励めと言われても何をするべきかわからず困ってしまう。そのため、しばしば聖職者が夫婦の営みについて指導したり、こっそり悩みを聞いて相談に乗ったりする。
 貧しくて学校にも通えない女性や子供たちへ健全な教育をほどこすことが、布教活動の一環でもあったのだ。
 クライオは、幼いころから教室で机を並べて勉強に励み、人生において最も大切なことを学んだ。
(やっぱりこの子は、男の子なんだわ)
 母でありながら教師としてあえて厳しい態度で接するフローディアには、内心こんな複雑な思いがあったのかもしれない。
(たとえ神に仕える身といえども、私だって一人の女だもの。いつまでも一緒には暮らせない。だから今のうちに教えておかないと。さもなければ、いずれ間違った知識を身につけてしまう)
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