大好きな幼馴染の恋人は実の兄でした【完結】

ノノノ

文字の大きさ
1 / 8

第1話:応援

しおりを挟む
 
自室にある全身鏡の前で私はどの服を着るか悩んでいた。
パンツスタイルにしようかスカートにするかだけでもなかなか決まらない。

明日は幼馴染…『雲雀ひばり』が遊びに来る日。そして雲雀の誕生日でもある。
誕生日のお祝いをしようと誘ったら、いつものように二つ返事で嬉しそうに了承してもらえた。

雲雀がこの家に来ることは珍しい事ではなく、むしろ今では両親以上に一緒に居る存在だ。
一緒に対戦ゲームで遊んだり、宿題を見せ合ったり、漫画を読んだり…そんな普通の日常を一緒に過ごすことは当たり前になっていた。
家に来る約束ですら「今日行っていい?」からの「いいよ」で終わらせるほど、当たり前の関係。
私はそんな雲雀に密かに片思いをしていた。

しばらく悩んだ結果、明日着る予定の服は決まった。
雲雀が私の家に来るのだから、あまりお洒落をしても変だと思われるかもしれないけど、明日は思い切って可愛いミニスカートにしよう。

私は明日、雲雀に告白しようと決めていた。

―――――――――

「『千鶴ちづる』、晩御飯できたよー!」

「あっ、今降りるー!」

鏡の前で改めて決意を固めた時、1階から『颯斗はやと』兄さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえて返事をする。
いけない、相当長い時間悩んでいたらしい。颯斗兄さんの料理はお母さん顔負けレベルの美味しさだ。温かいうちに食べないともったいない。
私は明日着る予定の服以外をチェストに仕舞い、急いで1階への階段を下りた。

リビングへの扉を開けて顔を覗かせると、2人分の美味しそうな副菜と炊き立てのご飯と味噌汁が並べられていた。
その時丁度キッチンの奥からメイン料理を持った兄がやってきて、目が合う。
慌てて降りてくる私が面白かったのか、颯斗兄さんは目を細めてふっと笑った。

自分の兄に対して言うのも恥ずかしいが、整った顔立ちは本当に血が繋がっているのか疑わしいほど美人だ。
枝毛が存在しなさそうなさらりとした長めの黒髪は、料理に落ちてしまわないように前髪をヘアピンでとめていた。ヘアピンは私の残り物なので成人男性が付けるにしてはちょっと可愛らしいデザインなのだが、通った鼻筋のクールな外見とのギャップがまた良い。
自分の兄でなければ惹かれていたかもしれない。
実際は颯斗兄さんは学生時代は落ち着いた雰囲気と相まってかなりモテていた。

私は浮かれた足取りで椅子を引き、テーブルの前に座った。元々は4人家族用のテーブルだからちょっと広く感じる。

両親は今、亡くなった祖母の家に引っ越している。
祖母の実家は母の思い出が詰まった場所なので売り払いたくない、でも無人の家を放置しておくわけにもいかないから、両親は引っ越したのだ。

勿論、私と兄も一緒に引っ越す話も上がったが、祖母の家に引っ越せば雲雀とは離れ、会う機会もかなり減ってしまう。雲雀に密かに恋心を抱いている私にとっては困る話だった。
兄も就職先が今の家からの方がかなり近いらしく、それならと私たちにこの家を譲ってくれたのだ。
この家も祖母の家もローンは完済しているので家賃に悩む心配はない。
困ったらいつでも引っ越しておいでと言われ、私たち兄妹は2人暮らしすることになった。

「んー! 颯斗兄さんの作るご飯美味しー!」

「あはは、お粗末さまでした。ところで随分長い時間2階にいたけど何やってたの?」

颯斗兄さんはご飯をもぐもぐ食べながら聞いてきた。

「あれっ、私そんなに長い時間部屋にいた?」

「いた。忘れ物があってちょっと2階に行ったら『うーん、うーん』と悩んでる声が聞こえたし」

うわあ、なんだか浮かれている恥ずかしいな。
でも、そうだなぁ…颯斗兄さんに相談してみるのも良いかもしれない。

雲雀はよく家に来るので、当然颯斗兄さんとも面識がある。というより颯斗兄さんも混ざって家でのんびりする事も多い。
家事スキルが私より高い颯斗兄さんは、毎回料理を作ってくれる。雲雀も颯斗兄さんの料理が大好きらしい。
だから雲雀に告白すれば、想いが実ろうが実るまいが、いつか颯斗兄さんにもバレると思う。

それだったら隠さず、あわよくば応援してもらいたいと思った。

「颯斗兄さん、実は相談があるんだけど…明日雲雀の誕生日じゃん?」

「そうだね。料理の下ごしらえは終わってるよ」

「ああえっと、料理も大切だけどその…私、雲雀に告白しようと思っているの」

「えっ?」

カタン…と颯斗兄さんの手から滑り落ちた箸が机を叩いた。颯斗兄さんは面食らったように目を見開いて固まっている。
いや、その反応も当然か。長い時間、幼馴染とは気心を知れた友人として付き合っていた。
今更告白というのも変な話かもしれない。

「そっかぁ…まあ、したいなら告白しても良いんじゃないかな?」

「だ、大丈夫かなぁ…今の関係が壊れたりしないかなぁ…」

私は急に不安になってうつむく。今まで告白できなかった理由も、雲雀との関係が壊れるのが怖かったからだ。
呼んだらすぐ来る親しい関係は、そう簡単に築けるものではない。
一度崩れれば、彼はもう私の家に…いや、私と遊んでくれないかもしれない。それが怖かった。

だからこそ、颯斗兄さんには応援してほしかったのだ。
大丈夫だよ、上手くいくよと言ってほしかった。

「…そうだね、雲雀は優しいから千鶴の気持ちに応えてくれるかもしれない」

「そ、そうかなっ!」

その言葉に少し希望が湧いて、私はガバッと顔を上げた。
そして颯斗兄さんと視線が合い、思わず身体が強張った。

に、背筋から汗がツーっと伝った。脈が上がり、それ以上の言葉が出なかった。

「告白応援してる。頑張ってね、千鶴」

言葉ではそう私を応援してくれた。
でも颯斗兄さんの目は黒くくすんで、全く笑っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

処理中です...