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第1話:応援
しおりを挟む自室にある全身鏡の前で私はどの服を着るか悩んでいた。
パンツスタイルにしようかスカートにするかだけでもなかなか決まらない。
明日は幼馴染…『雲雀』が遊びに来る日。そして雲雀の誕生日でもある。
誕生日のお祝いをしようと誘ったら、いつものように二つ返事で嬉しそうに了承してもらえた。
雲雀がこの家に来ることは珍しい事ではなく、むしろ今では両親以上に一緒に居る存在だ。
一緒に対戦ゲームで遊んだり、宿題を見せ合ったり、漫画を読んだり…そんな普通の日常を一緒に過ごすことは当たり前になっていた。
家に来る約束ですら「今日行っていい?」からの「いいよ」で終わらせるほど、当たり前の関係。
私はそんな雲雀に密かに片思いをしていた。
しばらく悩んだ結果、明日着る予定の服は決まった。
雲雀が私の家に来るのだから、あまりお洒落をしても変だと思われるかもしれないけど、明日は思い切って可愛いミニスカートにしよう。
私は明日、雲雀に告白しようと決めていた。
―――――――――
「『千鶴』、晩御飯できたよー!」
「あっ、今降りるー!」
鏡の前で改めて決意を固めた時、1階から『颯斗』兄さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえて返事をする。
いけない、相当長い時間悩んでいたらしい。颯斗兄さんの料理はお母さん顔負けレベルの美味しさだ。温かいうちに食べないともったいない。
私は明日着る予定の服以外をチェストに仕舞い、急いで1階への階段を下りた。
リビングへの扉を開けて顔を覗かせると、2人分の美味しそうな副菜と炊き立てのご飯と味噌汁が並べられていた。
その時丁度キッチンの奥からメイン料理を持った兄がやってきて、目が合う。
慌てて降りてくる私が面白かったのか、颯斗兄さんは目を細めてふっと笑った。
自分の兄に対して言うのも恥ずかしいが、整った顔立ちは本当に血が繋がっているのか疑わしいほど美人だ。
枝毛が存在しなさそうなさらりとした長めの黒髪は、料理に落ちてしまわないように前髪をヘアピンでとめていた。ヘアピンは私の残り物なので成人男性が付けるにしてはちょっと可愛らしいデザインなのだが、通った鼻筋のクールな外見とのギャップがまた良い。
自分の兄でなければ惹かれていたかもしれない。
実際は颯斗兄さんは学生時代は落ち着いた雰囲気と相まってかなりモテていた。
私は浮かれた足取りで椅子を引き、テーブルの前に座った。元々は4人家族用のテーブルだからちょっと広く感じる。
両親は今、亡くなった祖母の家に引っ越している。
祖母の実家は母の思い出が詰まった場所なので売り払いたくない、でも無人の家を放置しておくわけにもいかないから、両親は引っ越したのだ。
勿論、私と兄も一緒に引っ越す話も上がったが、祖母の家に引っ越せば雲雀とは離れ、会う機会もかなり減ってしまう。雲雀に密かに恋心を抱いている私にとっては困る話だった。
兄も就職先が今の家からの方がかなり近いらしく、それならと私たちにこの家を譲ってくれたのだ。
この家も祖母の家もローンは完済しているので家賃に悩む心配はない。
困ったらいつでも引っ越しておいでと言われ、私たち兄妹は2人暮らしすることになった。
「んー! 颯斗兄さんの作るご飯美味しー!」
「あはは、お粗末さまでした。ところで随分長い時間2階にいたけど何やってたの?」
颯斗兄さんはご飯をもぐもぐ食べながら聞いてきた。
「あれっ、私そんなに長い時間部屋にいた?」
「いた。忘れ物があってちょっと2階に行ったら『うーん、うーん』と悩んでる声が聞こえたし」
うわあ、なんだか浮かれている恥ずかしいな。
でも、そうだなぁ…颯斗兄さんに相談してみるのも良いかもしれない。
雲雀はよく家に来るので、当然颯斗兄さんとも面識がある。というより颯斗兄さんも混ざって家でのんびりする事も多い。
家事スキルが私より高い颯斗兄さんは、毎回料理を作ってくれる。雲雀も颯斗兄さんの料理が大好きらしい。
だから雲雀に告白すれば、想いが実ろうが実るまいが、いつか颯斗兄さんにもバレると思う。
それだったら隠さず、あわよくば応援してもらいたいと思った。
「颯斗兄さん、実は相談があるんだけど…明日雲雀の誕生日じゃん?」
「そうだね。料理の下ごしらえは終わってるよ」
「ああえっと、料理も大切だけどその…私、雲雀に告白しようと思っているの」
「えっ?」
カタン…と颯斗兄さんの手から滑り落ちた箸が机を叩いた。颯斗兄さんは面食らったように目を見開いて固まっている。
いや、その反応も当然か。長い時間、幼馴染とは気心を知れた友人として付き合っていた。
今更告白というのも変な話かもしれない。
「そっかぁ…まあ、したいなら告白しても良いんじゃないかな?」
「だ、大丈夫かなぁ…今の関係が壊れたりしないかなぁ…」
私は急に不安になってうつむく。今まで告白できなかった理由も、雲雀との関係が壊れるのが怖かったからだ。
呼んだらすぐ来る親しい関係は、そう簡単に築けるものではない。
一度崩れれば、彼はもう私の家に…いや、私と遊んでくれないかもしれない。それが怖かった。
だからこそ、颯斗兄さんには応援してほしかったのだ。
大丈夫だよ、上手くいくよと言ってほしかった。
「…そうだね、雲雀は優しいから千鶴の気持ちに応えてくれるかもしれない」
「そ、そうかなっ!」
その言葉に少し希望が湧いて、私はガバッと顔を上げた。
そして颯斗兄さんと視線が合い、思わず身体が強張った。
久しぶり感覚に、背筋から汗がツーっと伝った。脈が上がり、それ以上の言葉が出なかった。
「告白応援してる。頑張ってね、千鶴」
言葉ではそう私を応援してくれた。
でも颯斗兄さんの目は黒くくすんで、全く笑っていなかった。
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