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第2話 どう考えても死亡フラグしか立っていない件

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 これはかなりヤバイのではないだろうか。

 呆然としたままベッドに戻り、しばらく考えた結果がそれだった。
 
「俺は確かに綾芽ちゃんに会いたいって言ったよ? 言ったけどさ、こういうことじゃないんだよ」

 俺が言ってたのはさ、モブとかクラスメイトとかになって、あわよくば喋れたらいいな、くらいで。

「まさかこんなことになるとは思わねぇじゃん」

 原因は分からないけど、最悪すぎる。
 だって錦小路って1番嫌いなキャラだし、何よりどう転んでも死ぬエンドしか待っていないんだぜ。
 せめて夢であってくれと願ったけど――残念ながら夢じゃなさそうだ。夢にしてはリアルすぎるし、なんというかこう、錦小路の記憶が、じわじわと脳内を侵食してきてる。
 どうやら俺の精神はガッツリこいつを乗っ取ってしまったらしい。

「こいつの記憶、なぁ」

 要約すると親の愛に飢え、そのストレスを周りにあたることで発散していた、ということらしいが……

「やってることえぐすぎて可哀そうに思えないな」

 むしろ何もしてないのにいじめられた主人公の方が可哀そうだ。
 どうやらゲーム通り、こいつはなかなかクズな人生を歩んできたらしい。
 そして今は高校1年生になる前の春休み。入学式はまだっぽい……ということは、主人公たちには会っていないだろう。
 中高一貫校だから、ヒロインのうち1人には会ってるかもしれないけど。

「もしヒロインに会ってるとしてもだ。さすがに危害は加えていないだろうし。今後接点を持たざるを得ないということはないはず……」

 元々錦小路というのは、物語に絶対必要な存在かと言われれば、それはNOだ。要するにただのお邪魔もの。彼がいなくても、主人公たちが勝手に出会って恋愛を進めてくれるだろう。
 その辺の原作改変は起こっても、さすがに俺に影響するほどじゃないだろうし。そう願いたい、し……
 
「余裕はまだあるだろうからな。入学式までに主人公たちへの対策練って、そしたら完璧だ」

 よし、と頷き、そして俺は何気なく壁にかかっているカレンダーを見た。
 
 ……うん。
 
 一気に体が凍りつく。
 今日の日付の隣のマス。そこに赤で大きく丸がされ、そしてでかでかとした文字で書かれていた。

『入学式。9時半から』

 つまりは。
 つまりは、明日入学式だ、ということ。
 えぇ、マジかよ……

「錦小路、なんでさっき教えてくれなかったんだよ!」

 記憶受け継ぐ時間けっこう長かったぞ。

「てことはだぞ、明日から2度目の高校生活始まるってことか」

 前世での俺は大学2年生だった。
 単純に計算すれば5歳くらい若返るってことだけど、どうしよう。体が高校生とはいえ、女子高生に囲まれて過ごすなんて、どことなく犯罪臭がするな。

「って、問題はそこじゃなくて。どうやって死なないようにするかだ」

 錦小路の通っている学校は、中高一貫校。つまり、高校に入ったとしても一定数は中学時代の錦小路を知っている。そして、中学のときの荒れっぷりは、さっき錦小路が嫌というほど教えてくれた。
 曰く、陰湿ないじめに始まり暴力、恐喝、不特定多数との交際。その他もろもろ。
 高校に入っても確実に敵はいるわけだ。

「マジでどうしてくれんだよ錦小路 楓! こっから俺、お前の信用取り戻せる自信ないぞ!」

 たとえ急にいい人になったとしてもだ。過去にやりたい放題やったやつが簡単に許されるとは思えない。

「マジで最悪だぁ……なんでこんなやつに転生しちゃったんだよ俺……」

 頭を抱える。
 高校卒業するまでは暗い未来しか見えないし、ガチで転生したの最悪すぎるだろ。受け入れたくないよこんなの。本当に夢であってほしかった。

「まぁ、転生しちゃったもんはどうしようもないんだけどさ。登場人物に関わらないのは絶対として、もし出会ってしまった場合どうするかだな」

 モブとして生きることは確実だ。そもそも物語に関わりさえしなければ、原作のような死に方はしないだろう。
 でもどうしても関わらざるを得なかった場合は……?
 こういう小説では、すぐに関わる羽目になるのが定石だ。

「また原作みたいにするのは論外として、第一に優しく接すること。それから目立たないようにすること。そうすれば、原作も多少は変わるだろ。あとはなんだ? 急に性格変わっても怪しまれるだろうし……それにどうしよう。かなりヘイト買ってるはずだから、前より優しくなったりしたらどう考えても攻撃されるよな」

 1度目の学生生活で多少そういうことに慣れてるとは言え、経験したくはない。

「舐められないようにする方法も考えないと。あーあ、結局ヒロインと喋ることなんてできなさそうだし、マジで最悪だな」

 でも転生してしまったものはどうしようもない。
 死にたくはないから、どうにか頑張るしかないのだ。
 気合いを入れて、俺はベッドから立ち上がった。
 お腹が空いた。ラーメンが食べたい気分だ。まずは近所のスーパーに買い出しに行こう。
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