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接触編
005 橙の灯
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彼女達を拾ってから三日が過ぎた。
完全回復を果たし、それどころか俺より体力がみなぎっているのではとさえ思えてくる。
それでも決して治ったと認めないのには何か理由があるのだろうか?
「主は一生ここで暮らすつもりなのか?」
知らないうちに俺の呼び方が主となっていた。
こっぱずかしいから止めさせよう。
「まぁ一人は気が楽だしね。それにここは自然豊かで生きるには最高の環境かと。それとウーシャ、俺の事を主と呼ぶのはやめてくれないかい? なんだか偉そうで鼻につく感じがするんだよ」
「だったら何と呼べばいい? 未だに名前を教えてくれないじゃないか」
そうなのだ。
俺はまだ名乗っていない。
二人を拾ったのはいいけれど、そのありえない回復の速さに普通の人間ではないのではないかとビビってしまい、こちらの情報をそれほど吐きだしていないのだ。
しかしそれは彼女達も同じ。
核心を突く質問をすれば話をすり替えうやむやにしようとするし、こちらの切り返し次第ではシドロモドロになる場合もある。
明らかに取ってつけたような嘘をつく。
だけど二人が目覚めて三日経った今、それはどうでもいいとさえ思える。
これまで一人だった生活に華が加わり明かりが灯ったのである。
暖かくて優しいオレンジ色の灯が。
この村に住む年寄り連中以外の人間を暫し毛嫌いしていたが、彼女達の存在がそんな俺を正常に戻してくれるような気がした。
そろそろ心を開いても良い頃合いか。
「俺の名前はイナギ。どう呼んでくれても構わないよ」
「じゃあナギと呼んでも? イナギより語呂がいい感じ」
「マオがそう呼ぶなら私もナギと呼ぼう。異存はないな?」
以前から思っていたが、そこそこ丁寧な口ぶりなマオに対し、上から目線の偉そうなウーシャ。
同じ環境で育ったのならばこの差はありえないだろう?
似てはいるが、姉妹との話もなんだか眉唾モンだな。
「それにしてもこの家は凄いですね。何よりも台所と便所が素晴らしい!」
「家の横を流れる小川から水を直接引っ張っているからね。水車の力を利用して」
家の裏手の川沿いに櫓を作り、その上へ風呂桶を乗せる。
角度をつけた可動式の水車の羽に小さなくぼみを施し、頂点を過ぎた場所で水を吐きだすようにカラクリを拵えた。
そこからは竹で作った樋を風呂桶まで繋ぎ、そこへ風車からの水が注がれて桶を絶えず満タンにする仕組みだ。
後は重力に従い下へと流すだけだから簡単な話。
同じように竹で水路を作ってやればいい。
水は豊富にあるのだが、必要分以外は全て元の川へと回帰させる。
そうしないと周りがぐちゃぐちゃになってしまうし。
水量を調節する部品を作るのには少々手こずったが、それも終わってみればいい経験になった。
因みに排せつ物は川へと垂れ流し。
俺一人ぐらいのならばそれほど自然に影響がないと考えたからだ。
三人となった今でもそれほど変わらないだろう。
本来もっと緻密に作りたかったのだが、如何せん知識はあれど技術がない。
陶器を作る知識はあっても原料が手に入らない。
その辺りの土をこねくり回したぐらいでは焼くとすぐ割れてしまうし。
それでも何回か挑戦しているうちにそれなりの物は出来るまでとなった。
一人暮らしならば十分である。
金属にしてもそう。
その辺りを掘り返してみるも、それらしき鉱物が手に入らないのだ。
街へ行けば手に入るかもしれないが、それは一番に考えから省いた。
そのような技術を見せてしまえば、確実に強力な武器制作へと技術転用をするに違いない。
少なくとも俺が彼等の立場ならば間違いなくそうする。
結果、間接的に戦争へ加担してしまう。
それならば最初から金属を利用した部品など作らなければいい。
強度不足は否めないが、陶器と木材加工で間に合わせよう。
壊れれば何度でも作ればいいし。
だから金属精製及び加工は諦めた。
と言うより封印した。
因みにこれらは前世の記憶を利用した。
単純ではあるが、この世界にはまだ存在しないテクノロジー。
そりゃマオもウーシャも驚くだろう。
しかしそれに俺以外の人物が触れるなど考えたことも無かった。
もしかしてマズくないか?
「見ろウーシャ! ここを倒すと水が無限に出るのだぞ?」
「わかったからマオ! 少しは静かにせい!」
それにしても無邪気なもんだな。
考えすぎも良くないかもな。
「ささ、座ってみんな! 用意できたから朝食を頂くとしようか」
「わーおっ!」
目をキラキラと輝かせて喜ぶ二人。
バンとスープのみと言った質素でお粗末な食事なのだが。
「うまい! ナギは料理の天才だな! あと、肉はないのか?」
「ウーシャは肉が食べたいのか? だったら後で村の誰かから分けて貰ってくるよ」
「ああ、そのほうが……ウグッ!」
{ドガッ!}
この時鈍い音が二人の座る辺りから聞こえてきた。
テーブルの下で何が行われたのだろうか?
決して食べ物が詰まったのではないと言い切れる、真っ青な顔でムグムグと悶えるウーシャ。
それに対して口が笑っていても目が笑っていないマオにチョッピリ恐怖を感じた。
(お前フザケンナよ? 肉なんて贅沢なんだよゼ・イ・タ・ク・! そもそもこのパンやスープにしても、ありえないぐらい美味しいんだからそれで我慢しろ!)
(た、確かにこれらの味は素晴らしいのも事実。だけど考えてみろ魔王? もしナギが肉料理を作るのならばどれだけ美味しいものが出来るか想像してみろ!)
(!)
密談終了。
マオとウーシャはテーブルの反対側へ座る俺の目を真っすぐに見る。
そして……
「ナギさん、夜は肉料理でお願いします」
「オナシャス」
と、オデコがテーブルに当たるぐらい深く頭を下げた。
二人とも素直だねぇ。
完全回復を果たし、それどころか俺より体力がみなぎっているのではとさえ思えてくる。
それでも決して治ったと認めないのには何か理由があるのだろうか?
「主は一生ここで暮らすつもりなのか?」
知らないうちに俺の呼び方が主となっていた。
こっぱずかしいから止めさせよう。
「まぁ一人は気が楽だしね。それにここは自然豊かで生きるには最高の環境かと。それとウーシャ、俺の事を主と呼ぶのはやめてくれないかい? なんだか偉そうで鼻につく感じがするんだよ」
「だったら何と呼べばいい? 未だに名前を教えてくれないじゃないか」
そうなのだ。
俺はまだ名乗っていない。
二人を拾ったのはいいけれど、そのありえない回復の速さに普通の人間ではないのではないかとビビってしまい、こちらの情報をそれほど吐きだしていないのだ。
しかしそれは彼女達も同じ。
核心を突く質問をすれば話をすり替えうやむやにしようとするし、こちらの切り返し次第ではシドロモドロになる場合もある。
明らかに取ってつけたような嘘をつく。
だけど二人が目覚めて三日経った今、それはどうでもいいとさえ思える。
これまで一人だった生活に華が加わり明かりが灯ったのである。
暖かくて優しいオレンジ色の灯が。
この村に住む年寄り連中以外の人間を暫し毛嫌いしていたが、彼女達の存在がそんな俺を正常に戻してくれるような気がした。
そろそろ心を開いても良い頃合いか。
「俺の名前はイナギ。どう呼んでくれても構わないよ」
「じゃあナギと呼んでも? イナギより語呂がいい感じ」
「マオがそう呼ぶなら私もナギと呼ぼう。異存はないな?」
以前から思っていたが、そこそこ丁寧な口ぶりなマオに対し、上から目線の偉そうなウーシャ。
同じ環境で育ったのならばこの差はありえないだろう?
似てはいるが、姉妹との話もなんだか眉唾モンだな。
「それにしてもこの家は凄いですね。何よりも台所と便所が素晴らしい!」
「家の横を流れる小川から水を直接引っ張っているからね。水車の力を利用して」
家の裏手の川沿いに櫓を作り、その上へ風呂桶を乗せる。
角度をつけた可動式の水車の羽に小さなくぼみを施し、頂点を過ぎた場所で水を吐きだすようにカラクリを拵えた。
そこからは竹で作った樋を風呂桶まで繋ぎ、そこへ風車からの水が注がれて桶を絶えず満タンにする仕組みだ。
後は重力に従い下へと流すだけだから簡単な話。
同じように竹で水路を作ってやればいい。
水は豊富にあるのだが、必要分以外は全て元の川へと回帰させる。
そうしないと周りがぐちゃぐちゃになってしまうし。
水量を調節する部品を作るのには少々手こずったが、それも終わってみればいい経験になった。
因みに排せつ物は川へと垂れ流し。
俺一人ぐらいのならばそれほど自然に影響がないと考えたからだ。
三人となった今でもそれほど変わらないだろう。
本来もっと緻密に作りたかったのだが、如何せん知識はあれど技術がない。
陶器を作る知識はあっても原料が手に入らない。
その辺りの土をこねくり回したぐらいでは焼くとすぐ割れてしまうし。
それでも何回か挑戦しているうちにそれなりの物は出来るまでとなった。
一人暮らしならば十分である。
金属にしてもそう。
その辺りを掘り返してみるも、それらしき鉱物が手に入らないのだ。
街へ行けば手に入るかもしれないが、それは一番に考えから省いた。
そのような技術を見せてしまえば、確実に強力な武器制作へと技術転用をするに違いない。
少なくとも俺が彼等の立場ならば間違いなくそうする。
結果、間接的に戦争へ加担してしまう。
それならば最初から金属を利用した部品など作らなければいい。
強度不足は否めないが、陶器と木材加工で間に合わせよう。
壊れれば何度でも作ればいいし。
だから金属精製及び加工は諦めた。
と言うより封印した。
因みにこれらは前世の記憶を利用した。
単純ではあるが、この世界にはまだ存在しないテクノロジー。
そりゃマオもウーシャも驚くだろう。
しかしそれに俺以外の人物が触れるなど考えたことも無かった。
もしかしてマズくないか?
「見ろウーシャ! ここを倒すと水が無限に出るのだぞ?」
「わかったからマオ! 少しは静かにせい!」
それにしても無邪気なもんだな。
考えすぎも良くないかもな。
「ささ、座ってみんな! 用意できたから朝食を頂くとしようか」
「わーおっ!」
目をキラキラと輝かせて喜ぶ二人。
バンとスープのみと言った質素でお粗末な食事なのだが。
「うまい! ナギは料理の天才だな! あと、肉はないのか?」
「ウーシャは肉が食べたいのか? だったら後で村の誰かから分けて貰ってくるよ」
「ああ、そのほうが……ウグッ!」
{ドガッ!}
この時鈍い音が二人の座る辺りから聞こえてきた。
テーブルの下で何が行われたのだろうか?
決して食べ物が詰まったのではないと言い切れる、真っ青な顔でムグムグと悶えるウーシャ。
それに対して口が笑っていても目が笑っていないマオにチョッピリ恐怖を感じた。
(お前フザケンナよ? 肉なんて贅沢なんだよゼ・イ・タ・ク・! そもそもこのパンやスープにしても、ありえないぐらい美味しいんだからそれで我慢しろ!)
(た、確かにこれらの味は素晴らしいのも事実。だけど考えてみろ魔王? もしナギが肉料理を作るのならばどれだけ美味しいものが出来るか想像してみろ!)
(!)
密談終了。
マオとウーシャはテーブルの反対側へ座る俺の目を真っすぐに見る。
そして……
「ナギさん、夜は肉料理でお願いします」
「オナシャス」
と、オデコがテーブルに当たるぐらい深く頭を下げた。
二人とも素直だねぇ。
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