転生貴族はハッピーエンド主義者~転生しても凡人だったので、努力して手に入れた力で不幸を打ち砕く~

文月紲

文字の大きさ
11 / 14
第一章 暗殺者に手を

11.道中と馬と尻と

しおりを挟む
「なるほど…その男をなんとかすれば良いのだな?」

 馬を走らせながらゲルラリオはカエデに再び問う。夜の一族の長でも敵わなかった相手が、今向かっている男爵領にいる。たかが男爵程度にそのような戦力を揃えることができるとは到底思えなかったが、カエデいわく本当にいるらしかった。

「はい…お恥ずかしながら私では到底敵わず…」
「ハッハッハッ!見たところレオより少し年上なのだろう?恥じることはないぞ娘よ。お主の成長はこれからだ!」

 恥じるように顔を伏せるカエデにゲルラリオは励ましの言葉をかける。女…といって見くびることはないがそれでもまだ若い少女だ。大の男、しかも族長も敵わなかった相手に敵わなくても恥じることはない。

「うんうん多分俺も勝てないし」

 レオも同じく頷く。

「…なんだかお前に言われると納得いかないな」
「ええっ⁉︎」

 レオが自分より年下だからか、それとも自分が負けたからか分からないが、カエデはなんだが腑に落ちなかった。

「酷いなぁ、でもまだ俺剣術教えてもらって一ヶ月も経ってないから勝てないと思うよ」
「一ヶ月…⁉︎そんなやつに私は負けたのか…」

 自分を負かした相手が、実はさほど時間が経っていない素人だということを知ってカエデは愕然とする。

「いや、純粋な近接戦闘だったら流石に勝てないよ。俺が勝てたのは魔法で初見殺ししたに過ぎないからだよ」

 レオとて多少のプライドがあるため認めたくはないが、新しく開発した魔法がなければ勝てていなかった。徐々に押されて、ナイフで刺されたか風の刃で頭を飛ばされていただろう。

「それでも負けは負けだ…」

 頑固な性格なのか、はたまた清廉潔白な性格なのか分からないがカエデは納得しなかった。

「なにっ⁉︎今新しく開発した魔法と言ったかレオ⁉︎」
「うおっ!急に振り向かないでよ爺ちゃん…」
「それよりも新しく開発した魔法と言ったか⁉︎」
「うん、言ったけど」

 ほぼ百八十度に勢いよく振り返ったゲルラリオにレオは驚きながらも頷く。

「何故そんな面白そうな事黙ってたのだ!くそっ!奴を潰したら絶対に儂に見せるんだぞ!」
「あー…分かったよ」

 これだから言いたくなかったんだとレオは内心呟いた。まだ一か月も共に生活していないが、毎日の鍛錬によって祖父ゲルラリオの性格がレオには分かってきていたのだ。

 少しの面倒くささをレオは感じていると、カエデがこちらをじっと見ているのに気が付いた。

「どうかした?」
「いや…よくその小さい体で馬に乗れるなと思ってな」

 現在のレオの体は七歳相応の大きさだ。鐙もないこの世界の乗馬は基本的に力技なので、普通はレオのような七歳の子供が一人で乗れるようなものではない。

「ああ、≪身体強化ストレングス≫を使ってるからね。流石に素の身体能力だと無理だよ」
「そんなことしてるのか…」

 常に≪身体強化ストレングス≫を発動している。なんてことないように聞こえるが、長時間発動し続けるには細かな魔力操作とかなりの集中力が必要になるのだ。

 カエデもある程度の時間は発動し続けることができるが、レオみたいに時間単位では無理だった。

「爺ちゃん後どのくらいで着く?」

 屋敷での話し合いの後、数時間眠り、日の出と共に出発した彼らだったが、もう日が真上を通ろうとしている。

「この辺りが丁度半分ぐらいだ。丁度日が沈むころに着くかの」
「了解」

 ヴァルフルト侯爵領とウルカス男爵領の距離は比較的近いとはいえ、どれだけ急いでも馬で十二時間かかる。

 地球なら一時間程度しかかからないだろうが、車や電車いう移動手段がないこの世界において一番早い移動手段は馬なので仕方がない。

 尻を痛めながらも馬を駆けるしかないのだ。

(尻痛いな…)

 レオは生暖かい風が顔に吹き付けるのを不愉快に思いながら、前を走る祖父ゲルラリオについていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灼熱の連撃(ラッシュ)と絶対零度の神速剣:転生した双子のチート令嬢は、その異能で世界を救う

夜詩榮
ファンタジー
あらすじ 現代日本。活発な空手家の娘である姉・一条響と、冷静沈着な剣道部員である妹・一条奏は、突然の交通事故に遭う。意識が薄れる中、二人を迎え入れたのは光を纏う美しい女神・アステルギアだった。女神は二人に異世界での新たな生と、前世の武術を応用した規格外のチート能力を授ける。そして二人は、ヴァイスブルク家の双子の姉妹、リーゼロッテとアウローラとして転生を果たす。 登場人物 主人公 名前(異世界) 名前(前世) 特徴・能力 リーゼロッテ・ヴァイスブルク 一条いちじょう 響ひびき 双子の姉。前世は活発な空手家の娘で黒帯。負けず嫌い。転生後は長い赤みがかった金髪を持つ。チート能力は、空手を応用した炎の魔法(灼熱の拳)と風の魔法(超速の体術)。考えるより体が動くタイプ。 アウローラ・ヴァイスブルク 一条いちじょう 奏かなで 双子の妹。前世は冷静沈着な剣道部員。学業優秀。転生後は長い銀色の髪を持つ。チート能力は、剣術を応用した氷/水の魔法(絶対零度の剣)と土の魔法(鉄壁の防御・地形操作)。戦略家で頭脳明晰。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...