かみさまの忘れ人

KMT

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第一章「かみさまのいない日常」

第5話「かみさまのいない日常」

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凛奈と哀香と蓮太郎は何かを追いかけるかのように陽真の家へ走った。陽真が学校に来なかったのは、彼が突如として失踪したからだった。家族や友人、学校に一つの連絡も無しに。嫌な胸騒ぎがした凛奈は息を切らしながら走る。

ピンポーン
浅野家のインターフォンを鳴らす凛奈。幼い頃、陽真の元へ遊びに来た時に何度も背伸びをして鳴らしたものだ。押す度に思い出の数々が甦る。陽真との距離が遠くなり、思い出も薄れさってしまわぬよう、凛奈は願いながら陽真の家族が出るのを待った。

ガチャッ

「…凛奈ちゃん?」

出てきたのは陽真の母親の麗子(れいこ)だった。幼い頃から陽真と同様にお世話になっている人だ。陽真の部屋で遊んでいると、よく美味しいお菓子とお茶を運んできてくれたことが記憶にある。綺麗な見た目とは裏腹にかなり気の強い人で、陽真により多くの人と友達になるよう教えたと、凛奈は彼から聞いた。凛奈が陽真と仲良くなるきっかけの一部を作った人であるとも言えよう。

「あの…陽真君が行方不明になったって聞いて…」
「心配して来てくれたの?ありがとう。どうぞ上がって」

玄関のドアを開けて中に入るよう促す麗子。三人は軽くお辞儀をしながらドアをくぐった。凛奈は少し痩せ細った麗子の顔が気になった。





テーブルに出されたオレンジジュースは、手に取るととても冷たかった。まだ夏のような暑さは続いているため、冷たい飲み物はとてもありがたいが、場の空気まで余計に冷やしてしまいそうなのが不安だ。しかし、一杯飲んでみると懐かしさが口の中に広がって心地よくなった。陽真と乾杯した記憶が頭によぎる。グラスとグラスがカツンと重なり合う音が好きだった。あの音で凛奈と陽真は絆を深め合った。

「わざわざありがとうね」
「いえ。それで、陽真君は…」

とてつもなく言い出しにくかったが、勇気を出して口を開いた。

「うん。あれは土曜日の夜のことだったわ…」

麗子は陽真が失踪した経緯を暗いトーンで凛奈達に話した。

二日前の土曜日、凛奈が陽真に告白をした日の翌日だ。その日の夜の午後8時半頃、陽真はプチクラ山に落としたハンカチを探しに家を飛び出したという。凛奈に告白をされた時に落としたのだろう。ハンカチを探しにいくだけですぐに帰ってくるはずだと麗子は当たり前のように考えた。だが、陽真は午後10時を迎えても家に帰って来なかった。心配してすぐに電話をかけるが、彼の携帯は彼の部屋の中で揺れた。その後も陽真が家に戻ることは無かった。今のところ発覚しているのは陽真が土曜日の午後8時頃に家を出て、そのまま帰って来ていないということだけだ。麗子の口はすぐに閉じられた。

「昨日行方不明者届を出したわ。まだ見つかっていないけど…」

一般的に行方不明届を提出するタイミングは、行方不明が発覚してからおよそ三日以内が妥当だと考えられている。それ以降を過ぎれば、捜索して見つかる確率が十分の一にまで下がるという。後になって重大な事件に発展することがないように、早めに提出することが重要だ。



凛奈の中の真っ暗な何かがざわめいた。

「陽真君は私に呼び出されてプチクラ山に来て…ハンカチを落とした。そのハンカチを後で取りに行って…いなくなった…」

凛奈の手足が震え始める。

「てことは…陽真君が最初からプチクラ山になんて行かなければ…私が陽真君をプチクラ山に呼び出されなければ…陽真君はいなくならなかった…?」
「凛奈?」

凛奈の手足の震えはより一層激しさを増す。凛奈は思い切り叫ぶ。

「全部私が悪いんだ!私のせいで陽真君はいなくなったんだ!私が陽真君に告白なんてしなければ陽真君がいなくなることは…」
「凛奈!!!」

哀香が凛奈の手を力強く握る。蓮太郎と麗子も心配そうに見つめる。凛奈はハッと我に帰る。

「落ち着いて。そんな結果論考えたってどうにもならないわよ。やめなさい」

哀香は母親のように凛奈を叱りつける。そう、これは今さら考えたって仕方のない過去だ。凛奈は素早く気持ちを切り替えた。

「…ごめん」
「まだ有力な目撃情報は無いんですか?」

哀香は気を取り直し、職務質問のような口調で麗子に尋ねる。

「うん…捜索を始めたばかりだものね。警察も必死に捜索しているはずだけど…」

今は警察を頼りにするしかない。自分達はただ早期の発見を祈ることしかできない。無力感に日々襲われているという麗子。目からは今にも悲しみの滴が溢れそうだ。すぐに落ち着いた凛奈だったが、今度は何かを決意するかのような眼差しをしながら再び震えていた。

ダッ!

「麗子さん!」

突如立ち上がった凛奈は、溢れる滴を掬い上げる勢いで口を開く。テーブルに手を突きながら言葉を絞り出す。

「私も…捜します」
「え?」
「私も陽真君を捜します!どうか私に協力させてください!」

決意を固めた凛奈。陽真にとって、凛奈はただの幼なじみ。余計なお節介かもしれない。それに一般人による捜索は警察のそれと比べると限界がある。しかし、その程度のことで凛奈の意志は跳ね返すことはできなかった。凛奈は最後に付け加えた。

「絶対に…陽真君を見つけ出してみせます…」
「凛奈ちゃん…ありがとう」

その後、麗子は何も口にしなかった。「そんなの無理だ」、「気持ちだけで十分だ」とも言わなかった。ただ、凛奈のことを信頼していることは、彼女の顔を見れば誰もが理解できた。



帰り道に哀香は凛奈に聞いた。

「あんな無責任な約束してどうすんのよ」
「無責任じゃない。絶対に見つけるんだもん」

わがままな子どものようにズシズシと歩く凛奈。しかし、彼女の決意は本物だ。

「私は陽真君にもう一度会いたい…。陽真君から返事がほしい」

彼女を動かすものは全部陽真からもらったものだ。陽真からもらった勇気、信念、愛だ。それら全てが凛奈の力となる。

「私は絶対に陽真君を見つけ出す」

真剣な眼差しを哀香に向ける。哀香はため息をつく。観念して凛奈の前に手の甲を差し出す。哀香の顔は笑っていた。

「ほんとにアンタは図々しいんだから…」

哀香の手の甲の上に蓮太郎が手を乗せる。

「僕らにもできることはきっとある。やれるだけやってみようか」

哀香と蓮太郎とは凛奈の方を向く。凛奈はこの二人に出会えたことにつくづく感謝した。

「うん!やろう!」

三人で声を揃えて叫んだ。

『エイ、エイ、オ~!』

こうして凛奈と哀香、蓮太郎による陽真捜索大作戦が決行された。








翌日、登校した三人は学校の掲示板に目を奪われた。

「陽真君…」

凛奈は掲示板に貼られた赤いポスターを真剣な眼差しで見つめる。ポスターの一番上には大きく「探しています」の黒い文字。真ん中には陽真の学生証の顔写真。その下には陽真の身長や髪型、失踪した日付と時間、失踪時の服装、プチクラ山に行っていたことの情報などが細かく記載されていた。

「浅野って…二年の?」
「うちの学校の生徒だって」
「家出か?」
「行方不明だって、ヤバくない?」
「誘拐…はないよな」
「私、この子陸上部で走ってるのみたことある~」

掲示板の周辺は、事態を知って騒ぎ立てる生徒で溢れていた。純粋に心配している者もいれば、中にはからかって嘲笑う者もいた。

「浅野君が行方不明!?」
「嘘でしょ…嘘だって言ってよ!」
「そういえば最近部活来なかったよな…」

陸上部の部員やマネージャー仲間は真剣に心配していた。生徒の群れの中には万里の姿も見られた。同じ学校でしかも同じ部活、こんなに身内の者が失踪したという事態は非常に深刻な問題だ。

「ほらほら、ホームルーム始まるよ。みんな校舎に入った入った!」

いつまでも掲示板の周辺に群がる生徒の肩を押しながら校舎に入るよう促す先生。昇降口に吸い込まれる生徒の群れにかき混ぜられながら、凛奈は掲示板を睨み付けた。陽真は何か理不尽な力によって連れ去られたような気がしたからだ。





「うーん…。浅野君のことは知ってるけど、陸上部の人ってことくらいしか…」
「浅野って学校の中で結構有名だから知ってるけど、あいつがどこに行ったかはわからないよ」
「彼、走るの好きでしょ?走ってるうちに知らないところにまで行っちゃったんじゃない?」
「神隠し…かもしれないわね…フフフ♪」
「私!浅野先輩がいなくなってマジショックですぅ~!浅野先輩の無事を心から祈りますぅ~!」
「君達、浅野探してるの?やめときな。俺らのような一般人の手で見つかるくらいなら警察はいらないよ」

凛奈達は陽真と同じクラスの生徒や彼の友人、彼のことを慕う後輩など、学校の生徒から幅広く話を聞いて回った。どの生徒からも役に立つような情報を引き出せなかった。あまりにもふざけた答えを口にした生徒にカッとなり、殴りかかろうとする哀香を凛奈と蓮太郎は何度も押さえ付けた。捜索は難行しそうだ。凛奈はマネージャーとしての部活動の時間を利用し、陸上部の部員やマネージャー仲間にも話を聞いた。

「いい奴だったんだけどな。行方不明って聞いて驚いたよ」
「心配だよな。早く見つかることを祈るよ」
「行き先は俺にもわからないな。すまん」
「プチクラ山に行っていたってポスターに書かれてたから、そこにいるんじゃないか?うーん…考え方が安直過ぎるか」
「凛奈、浅野君の幼なじみらしいね。早く見つかるといいね」

陸上部からも有力な情報は得られなかった。最後に凛奈は陽真のことを一番によく慕っていたという後輩と、万里の元を訪ねた。

「浅野先輩は土日にプチクラ山のハイキングコースで体力作りをしてると言ってました。ポスターにもプチクラ山に行っていたって書かれてありましたし」
「なるほど…」
「あと、あそこってなんか変な噂あるんですよ。森に入ったら神隠しにあうとか、行方不明になって戻れなくなるとか」
「…」

なぜか万里の表情が若干曇る。凛奈はその顔に気がづくも、後輩の話に耳を傾け続ける。

「まぁ…この噂はともかく、あの山は何か関係があると思います」
「ありがとう、幸太(こうた)君」
「いいえ、清水先輩の役に立てて何よりです」
「ごめん凛奈、私は何も役に立ちそうなことは知らないや」
「ううん、いいよ」
「凛奈、今日は早く帰っていいよ。後は私達がやっとくから」
「ありがとう、万里ちゃん。じゃあね、二人とも」

凛奈は哀香と蓮太郎の元へ戻って行った。万里は凛奈の背中を見つめる。いなくなった大切な人を探し続けるどこか頼もしげな後ろ姿。それを自分と重ねる。あの人が行方不明になってから三年経つ。そういえば、自分はすぐに捜索を諦めてしまった。

「今さら見つかるわけないよね…お兄ちゃん…」
「ん?先輩、何か言いました?」
「ううん、なんでもない」

プチクラ山に隠れかけた夕日を眺める万里。あの人も今あそこにいるのだろうかと、ふと思ってみたりする。









「うーん…やっぱりプチクラ山が怪しいね。明日はここに焦点を当てて聞き込みを続けようか」
「うん、私もここは絶対関係があると思う」
「ていうか、もう聞き込みの必要ないんじゃない?絶対ここでしょ」

凛奈と哀香、蓮太郎の三人は、得た情報をまとめたメモ帳を睨み付けながら帰り道を歩いていた。哀香はふとため息をつく。

「それにしても、みんなふざけすぎよ。一人の人間が行方不明になったっていうのに…あんなふざけたこと言えるなんて…信じられない」

二人は哀香の顔を見て驚いた。瞳に涙がにじんでいる。彼女が二人に見せる初めての涙だった。

「そうか、哀香も…」

蓮太郎は何かを思い出したような素振りを見せる。

「哀香ちゃん…?」
「…また近いうちに話すわ」

哀香は溢れかけた涙を脱ぐって歩き始める。哀香には何か似たような事情があるようだった。今聞くわけにはいかないらしく、凛奈は時を待つことにした。



   * * * * * * *



それから私達は本格的に陽真君の捜索を開始した。学校の授業が終わり、放課後の部活がない日はプチクラ山に寄って森の中を歩いた。同じく陽真君の捜索をしているであろう警察官をたまに見かけ、声をかけられないように気をつけながら陽真君を探した。どんなに暗くなっても午後6時までは探し回った。哀香ちゃんと蓮君は早めに切り上げるけど、私は足の痛みが限界に達するまで続けた。足に激痛を感じる度に、陽真君のために動くはずの体に限界なんてものがあることを知らされ、心まで辛くなる。何も知らない人が端から見れば確実に馬鹿にする。もちろんこれが無謀な計画だということはわかっている。それでもやらないよりはマシだ。

「…」

日曜日の今日も森の中を捜索している。始めてから約2時間、私は自分が無意識に太ももに手を当てていることに気づく。

「凛奈、今日はもう引き上げたら?」
「…うん」

後ろから蓮君が心配して声をかける。時刻は午後6時を迎える頃だ。蓮君の言葉に甘えて今日は引き上げることにした。今日はもう最初に捜索を開始してから三日経つ。日に日に引き上げる時間が早くなっているような気がしてならない。

「痛っ」
「凛奈!」

足を痛める私に蓮君が駆け寄る。あれだけ好きだった陽真君を見つけられず、ただ無駄な時間ばかり浪費する自分の無力さに嫌気が指す。

「うぅぅ…」

視界がぼやける。いけない、涙が出てきた。またあの頃の私に戻ってしまう。陽真君と出会ってから少しは強くなれたと思ったのに。私は蓮君や哀香ちゃんに見られないように素早く拭って立ち上がる。

「…帰りましょ」

哀香ちゃんは明らかに私の涙に気づいているようだった。気づかないふりをして森の出口へと足を運ぶ。私はいつまでも弱さを隠せないちっぽけな人間だった。







翌日の学校は再び多くの生徒が騒ぎ立てていた。生徒達はまたもや掲示板の前に群がっている。しかし、それは陽真君の行方不明の知らせのポスターに引き寄せられたからではなかった。

「また行方不明かよ」
「私この人見たことあるよ…」
「同じ学校で二人も出たのか」
「この人超目立ってたよね」
「なんかおかしな人だったよな~」

私と哀香ちゃん、蓮君は生徒の群れの間をかき分けながら進む。掲示板のポスターが近くなるに連れて、生徒達の話の内容がより鮮明に聞こえてくる。

「この人俺のことすごく詳しく知ってたから、最初気があるのかと思ったよ」
「毎朝めちゃくちゃ大きな声で校門前で演説してたよな…」
「どうすんの?生徒会長選挙、この子負け確定じゃん」

演説…生徒会長…選挙…まさか!私は陽真君の行方不明のポスターの隣にもう一枚別のポスターがあるのを見た。その顔写真ははっきりと見覚えのあるものだった。

「副会長…さん…」

貼られていたのは生徒会副会長の村井花音さんの行方不明を知らせるポスターだった。生徒会長にふさわしい人間となるために生徒達の情報を網羅し、朝早くから校門前に来てビラを配り、大きな声で選挙演説をしていた彼女。学校の中でもひときわ目立っていた大きな存在の彼女が、陽真君と同様に何の前触れもなく突然失踪した。

「なんで…副会長が…」
「どういうことよ…」

哀香ちゃんと蓮君も困惑していた。短期間で同じ学校の生徒が二人も集中して行方不明になるという異例の事態に驚きを隠せないでいた。

「…」

私は副会長さんの顔写真の下に記載されている文章を読んだ。どうやら彼女は失踪当時、プチクラ山にキャンプに行っていたという。プチクラ山…陽真君と同じ場所だ。やはりプチクラ山には何かあるのだ。私は生徒の群れの中で決意をより固めた。



「二人ともプチクラ山で行方不明になったらしいね。これは偶然とは思えないな」
「最近噂になってるやつ、あれもしかして本当なんじゃね?」
「だいたいプチクラ山って怪しすぎなのよ。この間友達に聞いてみたんだけどね、一ヶ月前くらいのことだったかな?一時期山に入ろうとしたら、入り口が封鎖されてるわけでもないのに入れなくなるっていう変なことがあったらしいの。足がすくんで入れなくなるんですって」

再び聞き込みを始めた私達。すると、生徒達は口を揃えてプチクラ山のことについて話す。同じ場所で行方不明になったのだから驚くのは当たり前だろう。私は真実のしっぽを掴むのに一歩全身したような気がした。今日も部活が終わったら山に行こう。

「凛奈…」
「あ、万里ちゃん。どうしたの?」

6時限目の授業が終わり、帰りのショートホームルームも済んだのでノートや教科書を学校鞄に入れていると、万里ちゃんが話しかけてきた手にはジャージの入った袋が握られている。あれ?今日の部活って万里ちゃんマネージャー担当だっけ?

「行きなよ、部活は私がやっとくから」
「え?」
「聞いたよ、毎日放課後に浅野君を捜しに行ってるって。今日は私が代わりに部活やっとくから、凛奈は浅野君を捜しに行きなよ」
「万里ちゃん…ありがとう!」

万里ちゃんの手を握って、私は深く感謝する。学校鞄を抱えて教室を出る。

「…私みたいにはならないでよね、凛奈」

万里ちゃんの顔が暗い何かを心に抱えているように見えたのは気のせいなのかな。とにかく私は早急にプチクラ山に向かう。しかし、その日は結局午後7時まで探し続けたが、陽真君は見つからなかった。



あれだけ強かった確信が崩れ始めた。ここまでしても陽真君は見つからないのはなぜか。そもそも陽真君がプチクラ山の森の中でさ迷っているなんて想像できない。私みたいな人でもハイキングコースから道を外れて森の中を少々歩き回っても、迷うことなく元の道に戻って来られている。なのに警察ですら未だに捜索が難行している。もはや普通の方法では無意味な気がしてくる。陽真君は何か、私達の常識の範疇を越えた異次元の力によって姿を消してしまったのではないか。

「…」

自室のベッドに仰向けになり、天井を眺めながら陽真君を想う。陽真君…あなたは一体どこにいるの…?どうすればあなたに会えるの…?誰もいない場所にいる陽真君に問い詰める。











「…あっ」

突如、私は一つ可能性のある案を思いついた。霊媒師に依頼してみるのはどうだろうか。私達の常識を越えた何かによって陽真君が消された(という前提)のであれば、頼れるのはオカルトチックな力だ。過去にテレビで霊媒師に身内が行方不明になった人達が透視を依頼していた番組を見たことがある。

ちなみに透視とは、通常肉眼では確認できない地上世界の存在物や風景などを見る現象のこと。物質の壁を突き抜けて対象を認識するのが透視現象だ。遠方にいる人間や何百キロも離れた場所の様子を見る現象で、これを「遠隔透視」と言う。その他にも様々な種類の透視能力が存在し、それらが行方不明者の捜索に役立ったこともある。

透視に関する事例の中にはこんなものもある。ある霊媒師が女児殺害事件の犯人の特徴の透視を依頼され、犯人の年齢層、身体的特徴、犯行当時の犯人の行動から犯人が幼少期から呼ばれていたあだ名までピタリと言い当てたという。物的証拠が残っておらず、迷宮入りすると思われた事件が、霊媒師の協力によって見事犯人を突き止めることに成功し、解決したのだ。当時はそのようなオカルトチックな力は真に受けなかったが、今となるととても頼もしく思える。目に見えない力は時として大きな救いになるのだ。

「…よし!」

かみさまのお告げのように降ってきた一つの考え。私はスマフォを手に取り、藁にすがる思いで透視を依頼できるサイトを探した。この際何でもいい。かみさまのいない日常を、味のないガムを延々と噛ませられるような日常を、私は今すぐ変えたい。



私は、あなたのとなりにいたい。



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