コスモガール

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序章「愛のうた」

第1話「愛のうた」

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 愛のうた / 星名意織


愛だけが僕を呼べる
君がそばにいなくてもほら

僕が作り上げてきたものを今
見せてと言われても困るだけさ
だって 僕だけじゃできないものだから
君がいないとできないものだから
少しずつ育てていくんだ

答えのない迷路に迷った時
鍵を落としてくれたのは誰
きっと 一番遠くにいたんだから
この距離が教えてくれたのかな
もう 何でもいいよって

ほどけた糸を今たぐり寄せて
この地に足を踏み入れる
最初の一歩だけしくじって
君を笑わせるよ

あぁ 愛だけが僕を呼べる
両想いなど待ってられない
だから 僕の方から好きになるんだ
僕からこの気持ち伝えるんだ
君の答えを聞かせてよ

ねぇ 愛だけが僕を包む
君が来るのはまだ先だけど
遠い未来のことなんかにさせないよ
今すぐこの気持ち伝えるよ
愛が何か知ることができたから
この気持ち ほら伝えよう
愛が何なのかを教えよう


色褪せてくことが不安になったら
その心配ももう最後にしよう
僕らに最後なんて来ないよ
作り方すら全部忘れたよ
ほら 手を繋いでよ 僕と

今まで僕が紡いだ愛の言葉
天秤に乗せて量れるの?
分かりきったことだってするよ
本当に分かり合えるまでは

そうさ 愛だけが僕らの道
足場を作らなきゃ歩けない
だから 二人しか作れない道を
二人しか歩めない道を
僕ら二人だけで描こう

ねぇ 愛だけじゃ足りなくない?
いつか言われるかもしれない
だけど 抱えられるほどのものだから
まだ歩き始めたばかりだから
僕らに今あるのはこれだけで
道はまだまだ続くけど
いつかいっぱいの夢にしまおう


君だけが僕のことを
分かってくれる気がしてるのは
世界でたった一人しかいない君を
ほかの誰でもない そう 君を
一番に愛してるから

あぁ 君だけが僕を呼べる
こうなることを待ってたんだよ
少し大げさなのかもしれないけれど
もう抱えきれなくなったから
でも これはまだ捨てない

だから まだ始まったばかりの人生
軽々しい言葉に終わらせない
ここで誓うよ 本気の愛を
君と僕で共に過ごし
二人で共に日々を過ごし合って
育て作り上げた愛が
今僕らを輝かせてるから



   * * * * * * *



 僕は家のベランダから星の輝く夜空を見上げていた。どこまでも広く続く宇宙が自分の頭上に広がっている。そこには数多くの星が浮かんでいる。それらの輝きは何十年と進まなければたどり着けない場所から降り注いでいる。それ程遠くにいるとしても、こうやって自らの存在を輝きながら主張しているのがわかる。

「ダメだなぁ…」

 それに比べて僕はどうだ。どれだけ自分らしさをアピールしたって、それに応えてくれる者はいない。



 いきなり何だと言われるかもしれないから、ここでとりあえず自己紹介をしておく。僕の名前は保科伊織(ほしな いおり)。高校二年生だ。いや、もうすぐ三年生になるのだけども。趣味で詩を書いているだけのごく普通の青年だ。今は見とれてしまうほど美しい星空を眺め、プチクラ山からやってくる心地よい夜風に吹かれながら物思いにふけている。

「伊織く~ん!晩ごはんだよ~!下りといで~」

 一階から奈月さんが呼んでいる。僕は「はーい」と返事してベランダから出る。

「…あっ」

 自室の扉を開ける前に、勉強机に置かれた一枚のメモを見つめる。6年前に僕が書いた詩、まだ誰からも称賛の声をもらっていない子どもだ。自分なりの愛を語ったその一文一文を改めて読み返してみる。書き終えた当時は何度も読み、その度に我ながら感心した。初めて完成させた作品のあまりのクオリティに恐れ入った。あの時は完全に自惚れていたんだ。

「はぁ…」

 部屋の空気だけで凍りつきそうなため息を溢す。今読んでみればどうだろう。ただの綺麗事の羅列だ。言っていることが心底気持ち悪い。そう思える。それは僕以外の誰もこの詩を読んで特別な感情を抱かなかったからだ。誰からも称賛を浴びず、ひっそりと葬られつつある愛のうた。僕は紙を机の上に戻し、横に立て掛けてある両親の写真を手に取る。

「せめて、父さんと母さんには読んでほしかったな…」

 写真の中で笑う僕の父さんと母さん。愛のうたを読んでくれたら、この写真のような明るい笑顔で褒めてくれるだろうか。「さすが父さんの息子だ」とか「曲にしたくなるくらい素敵よ」と称賛してくれるだろうか。

「しないよなぁ…」

 後ろ向きな考えに挟まれる僕。実は僕の両親はYouTubeで結構有名な歌い手で、趣味でオリジナル曲を作って投稿していた。動画はいつも100万回再生を越える程の人気を得ていた。僕は特に二人の紡ぐ歌詞が好きだった。親に憧れて自分も素敵な歌詞を書きたいと考えていた。作曲についての知識は無いため、僕には作詞しかできなかった。いや、付けるメロディーも何も考えずに書いたものであるため、実質「詞」ではなく「詩」だろう。それでも僕は二人の勇姿を追いかけながら、2ヶ月近くかけて「愛のうた」を完成させた。

 完成した時の達成感は本当にすごかったなぁ…。初めて自分が何かを受け取るのではなく、生み出す立場になったのだから。せっかく作った作品だ。僕は両親に曲を付けてもらうことを決めた。ついに「詩」が「詞」になる。僕は二人の結婚記念日に詩を見せようと考えた。僕が生まれてから両親は歌い手としての活動を休み休みになっていたが、1ヶ月に2回のペースで動画の投稿はしていた。結婚記念日の当日、二人は初めて出会った場所に行き、二人だけの時間を楽しんだ。そして夜は家族三人でレストランに行く予定だった。



 しかし、帰り道に赤信号を無視したトラックにはねられて二人は亡くなった。僕が中学一年生になった頃のことだ。

「…」

 僕は胸の中で暴れだす感情を必死に抑えた。あの日のことは鮮明に覚えている。YouTube界ではかなり衝撃が走っていた。しかし、一番悲しみたいのは一人取り残された息子の僕だ。決して失いたくなかった大切なものがこうもあっさりと失われるなんて…。僕は自分の行く先が見えなくなった。

 母さんの姉の浦山奈月さんに引き取られることになったが、僕は新しい生活の中でも生きている心地がしなかった。今までずっと両親の後を追って生きてきたようなものだったから。

 それでも詩のことだけは諦め切れず、両親の意思を受け継いで書き続けた。ただの歌い手の息子というだけで、才能など一欠片も持ち合わせてなどいない。それでも親子という関係だけが僕の筆を動かしたんだ。自分の腕に誇りを持て、そう自分に言い聞かせて僕は作詩を続けた。たとえ誰にも才能を認められなくても、詩を書くことで自分はちゃんと自分でいられる気がする。

「そう思ってたのに…」

 作詩までにも自信を持てなくなり、いつの間にか生きる理由を見失った。

「誰か…」

 僕は誰もいない自室で一人呟く。

「誰か教えてよ…僕は一体何のために生きてるの?」

 誰かが自分の詩の価値を認めてくれたら。そうしたらきっと自分は生きる希望を見つけられる。自分が何のために生きているのかが理解できる。そんな気がする。この世界に自分の価値を認めてくれる人物がいればの話だが。

「…行くか」

 僕は自室のドアを開けて一階へと下りていった。決して腹を満たせば悲しみは失くなるわけではないが、今はとにかく何か口に入れて落ち着きたい。



 夜空の星はまだ輝きを忘れてはいなかった。







「着いた…」

 私は地球の大地へと降り立った。出迎えているのか、それとも立ち入ることを拒んでいるのか、冷たい夜風が私の柔らかい肌を刺す。私は暗い山の森林地帯で星空を見上げる。あそこからここまでだいぶかかったけど、難なくたどり着けた。今日からここが私の生きる場所…。

“ここでなら見つかるかな…私の生きる理由…”

 星が答えてくれるはずがない。それでも私はどこかの誰かに聞かずにはいられない。私は自分の生きる理由を探して旅をしてきたのだ。この場所で、私は生きていいんだと言ってくれる人は果たして見つかるのだろうか。私の肩に乗せられた多くの重荷を共に背負い、私の命に意味を与えてくれる人は…。





 これは僕と彼女が互いに生きる理由を求めた末に出会い、広い宇宙の中心で愛を育む物語だ。

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