コスモガール

KMT

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第二章「オーバーロード」

第13話「空を自由に飛びたいな」

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「…伊織君」
「何?」
「私からもお礼をさせて」
「え?」

 何を言ってるんだ。お礼を言うのは僕の方なのに。

「一緒に来てほしいところがあるの。明日私の家に来て」
「え?うん…」

 その約束通り、翌日に僕はハルさんの家に向かった。





「綺麗だ…」

 遠くに七海町が一望できる広い草原。タンポポ、ナズナ、スミレ、春の野草が一面に咲き誇る天国のような華やかな場所に、僕とハルさんはやってきた。ハルさんの家から意外と近いところにあった。

「ハルさん…どうしてここに…」
「見てて」

 ハルさんは目を閉じ、気を集中させた。言われなくてもわかる。ハルさんがまた超能力を使おうとしている。

 スッ…

「わっ!」

 突然ハルさんの体がゆっくりと浮かび上がった。超能力で自分の体を浮かしているんだ。そのまま僕の身長を越え、周りの木々よりも高く舞い上がった。

「どう?」
「すごい!完全に能力を使いこなしてるね!」

 ハルさんは空中を泳ぐように飛ぶ。くねくねと体を回転させ、まるで蝶々になったかのように風と一体化し、軽やかに浮遊する。

 いや、蝶々というよりも天使のようだ。周りが草原であるため、空を舞うハルさんが天国で華麗に舞い踊る羽の生えた天使のように美しい。風に翻るスカートが天女の羽衣を思わせる。ハルさんは何度も空中を前回転、後回転し、ゆっくりと地上に降りてきた。

 パチパチパチパチ

「お見事!」

 サーカスのショーを見終えたかのような満足感に浸り、僕はハルさんに向けて拍手を送る。いいなぁ、羽を必要とせずに悠々と空を飛べるなんて。

「はい」
「え?」

 ハルさんは僕に手を差し伸べる。

「今度は勢いよく飛ぶよ」

 ハルさんの意図がよくわからなかったが、僕は彼女の差し伸べた手を握る。握った瞬間、ハルさんは中腰になる。

「せーのっ!」
「え?」

 ビュンッ
 ハルさんの合図が聞こえた時には、視界にはもう草原が写っておらず、白い雲をいつくか並べた青い空が眼下に広がっていた。何が起こったか一瞬把握できず、ハルさんの方へ顔を向けた瞬間、ものすごい勢いで腕を引っ張られていることに気づく。

「え?はわわわわっ!」

 僕はハルさんに腕を引っ張られ、一緒に空を飛んでいる。風が髪とメガネを揺らす。体を切る風の勢いですぐに目を閉じてしまう。これまでわずか1秒の出来事である。

 パッ

「…あっ」

 あまりの勢いに耐えきれず、思わず手を離してしまった。僕は重力に身を任せ、真っ逆さまに落ちていく。ハルさんの姿が視界の奥へと小さくなって消えていく。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ」

 バシッ

「痛っ!」

 強く背中を打ち付けた。幸いにも下は柔らかい草原で、飛んだのが8メートルぐらいだったから重傷にはならずにすんだ。骨も多分折れてはいないと思う。背中が殴られたように痛いけど…。

「伊織君、大丈夫?」

 ハルさんが地上に戻ってきて心配そうに僕を見つめる。

「だ、大丈夫だよ…」
「しっかり掴まってないと」
「いや勢いが強過ぎて無理だよ…」

 あんなロケットが飛び出るようなスピードを出されたら、思わず手を離してしまうのも無理はないと思う。生身で風を感じながら空を飛ぶ感覚なんて、今まで一度も経験したこがないからね。

「もう…」

 ハルさんは仕方なく両腕を左右に開けた。そのままぼーっと突っ立っている。何それ?タイタニックのポーズ?

「ハルさん?」
「後ろから腰に抱きついて」
「えぇ!?」

 ますますハルさんの意図が読めない。何を言い出すのかと思えば、腰に抱きつけだって!?まさか忘れてるわけじゃないよね、僕が男だってこと…。

「どういうこと…?」
「両腕で腰に抱きついてしっかり掴まってて。さっきよりは安定すると思うから」
「いやいやいや…だって僕…」

 男に体を触られるのは恥ずかしくないのか。そう訴えかけようとするも、ハルさんはジト目で僕を睨み付け、圧をかける(睨み付ける顔ですら可愛い)。早くしろというメッセージが苦しいくらいに伝わる。もう…わかったよ…。

 ギュッ
 ハルさんの後ろから腕を回し、腰に巻き付くように抱き締める。腕以外はなるべくハルさんの体に触れさせまいとしているため、前屈みに近い体勢になる。しかし、目の前にはハルさんの着ているシャツがある。ハルさんの甘い匂いが伝わってきて…



 いやいや、考えるな!無心になれ!

「飛ぶよ!」
「うん…」
「せーのっ!」

 ビュンッ
 体が勢いよく浮かび上がる。ハルさんの腰に必死にしがみつき、強い風の衝撃に耐えた。風の勢いが収まってきた時、ゆっくり目を開けた。

「見てみて」
「わぁぁぁぁ」

 そこはすでに七海町の上空だった。約100メートル程上空だろうか。住宅地や学校、商店街や駅前広場など、七海町の建造物が360°一望できる。米粒くらいの大きさで動き回る街の人々は見ててなんだか面白おかしい。後ろを振り返れば先程僕らが立っていたプチクラ山の全貌をこの目で拝むことができる。皿に乗っかったオムレツのようだ。

 まるで雲の上から世界を見下ろす神様になった気分だった。これが空を飛ぶという感覚…うまく言葉にできない心地よさだ。人は衝撃を受けると、本当に言葉で表す余裕が無くなるのだ。

「どう?」
「うん!すごくいい景色だよ!」

 ヘリコプターや飛行機に乗らず、生身で空に浮かびながら街を一望するなんて、こんな体験は滅多に味わえない。よくアーティストが「今なら空も飛べそうな気分だ」とか「空を飛んで君に会いにいきたい」とかいう歌詞を歌っているけど、今僕はリアルでそれを感じている。この感覚…新たな詩のインスピレーションが湧きそうだ。そのためにハルさんはこんな体験をさせてくれたのかもしれない。

「ありがとうハルさん!だけど…」

 僕の額から汗が垂れ下がる。そして腕がプルプルと震える。

「そろそろ…腕が限界…」

 さっきから僕は腕の力だけでしがみついている。超能力を使えない僕の体は重力に柔順なため、耐久力が限界を迎え、腕が段々下へとずれていく。ていうかハルさんは大丈夫なのか…さっきからしがみついている僕を支えているというのに。

 あぁっ…ダメだ。もう腕が…

 フニッ

「やっ…///」
「…」

 顔面がハルさんのお尻にくっついてしまった。さっきまで後ろからしがみついていたからだ。本当にごめん!わずかな力を振り絞り、手だけでハルさんの腰に掴まってぶら下がると、丁度顔の位置にハルさんのお尻が来てしまうんだ。

「い、伊織君…///」
「ご、ごめん!…って、うわぁ!!!」

 ハルさんのお尻から何とか顔を遠ざけようとした途端、ついに指先の力が限界を迎え、滑り落ちた。そのまま何の支えもなく、僕は真っ逆さまに落ちる。

 ガシッ

「痛っ!」

 僕は落っこちまいととっさに右手でハルさんの左足を強く掴む。僕の体重にハルさんの体は引っ張られる。本当の本当にごめん!でもこのままじゃ落っこちちゃうよ。今はハルさんの足が命綱だ。

「ごめん!ハルさ…」

 僕は視線を真上に向けた。その瞬間、僕は見てしまった。そう、ハルさんは今スカートを履いている。

「あ…///」
「え?いやぁ!見ないでぇ!///」

 ハルさんは下着を見られた恥ずかしさに囚われ、左足をぶらぶらと揺らす。当然僕の体も揺らされる。ハルさんが履いていたのは見られても平気そうな短パンとかではなく、ショーツというか…その…ガチガチのパンツだった。

「待ってハルさん、揺らさないで!落ちちゃうよ!」
「見ないでぇ~!!!」

 僕の訴えも無視し、ハルさんは僕を振り落とそうと必死に足を動かす。やめてハルさん!確かにパンツ見たのは悪かったけど、今揺らしたら僕が落ちるから!この高さから落ちたら即死だから!本当に止めて!洒落にならないよ!



 ズルッ

「あ…」

 手汗で右手が滑り落ちた。一緒にハルさんの足からスニーカーも脱ぎ落ちる。もう僕の体を支えているものは何もない。僕は重力に従って真っ逆さまに落ちていった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 パラシュート無しのスカイダイビングだ。僕はものすごい勢いで落下する。風の勢いで髪が逆立つ。かろうじてメガネは顔に留まっているが、眼下で地面が恐ろしいスピードで近づいてくる。もうダメだ…空から落ちて僕は死ぬ。父さん…母さん…早くそっちに行っちゃってごめんなさい…。

 そしてハルさん、今までありがとう…。白は清潔でいい色だよ。










「…ん?」

 僕はそっと目を開ける。僕は地上から3メートル程の高さに浮かんでいた。力を抜いてても、風船のようにふわふわと浮かんでいられる。これはまさか…

「わっ!」

 僕の体はそのままプチクラ山へと飛んでいく。抵抗する間もなく見えない力に引っ張られる。先程までいた草原まで近づいてくると、ハルさんがその上空でこちらに向けた手をかざしていた。

「ハルさん…」

 ハルさんが超能力で僕が地面に打ち付けられるギリギリで助けてくれたのだ。死ななくてよかった…ハルさんありがとう…。

 僕とハルさんは草原の上に降り立つ。空を飛んでまだ5分も経っていないが、重力を感じる地上が久しぶりに感じられる。僕はその場に崩れ落ちる。

「はぁ…はぁ…」
「伊織君…大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「ごめんね…」
「ううん、僕の方こそごめん」

 ハルさんのおかげでなんとか地上に戻ってこられた。空を飛ぶ感覚は確かに感動するけど、今みたいに何かしら命の危険があるのは怖いなぁ。あと、ハルさんのために下着の色は忘れることにしよう。

「ハルさん、思ったんだけどさ…」
「何?」
「ハルさんに掴まるよりかはさ、今みたいに僕も超能力で浮かしてくれたらよかったんじゃ…」
「…」

 ハルさんは黙り込む。まさか思い付かなかったのだろうか。

「…えっと、できるよね?」
「あっ…うん、できるはできるんだけど…」
「けど?」
「その…疲れるというか…体力が持たないというか…」

 僕はハルさんの額から汗が垂れていることに気がついた。もしかすると、ハルさんの超能力は体力をかなり消費するのかもしれない。そういえばハルさんは最初の頃学校を休んでいた。今もたまに休むことがあるけど、それは超能力を使って体調不良を起こしていたということか。

「もしかして、超能力を使い過ぎると体力が無くなっちゃうとか?」
「え?あぁ…うん!そうなの!」

 だとしたら、ハルさんが超能力のこと隠してきたのは、体調不良を懸念してのことなのかもしれない。超能力の存在を知れば、周りの人は興味本位で披露してくれと彼女に頼むことだろう。むやみやたらに使い、病気になってしまったらたまったものじゃない。

「だったら使わない方がいいよ!確かに部屋掃除してくれたのは嬉しいし、空を飛ばせてくれたのはすごく楽しかった。でもハルさんの体が…」
「大丈夫、私も無理しない程度に使うことにしてるから」

 ハルさんはこちらを振り向き、満面の笑みを見せる。体の疲れをものともしない様子で。

「それにね、友達のためになるためなら私は使いたい。伊織君が私の超能力を見て詩のアイデアを思い浮かぶなら、私は喜んで使うよ」
「ハルさん…」
「ごめんね、無理やり結び付けたみたいな感じで。とにかく私は伊織君の役に立ちたいの。伊織君の詩が好きだから…」

 ハルさんは自分の体に負担をかけてでも僕の助けになろうとしている。無理をしない程度に支えてくれるのならとても嬉しい。ならばハルさんの応援に応えるべき僕の行動は…

「わかった、僕頑張って書くよ!ハルさんに気に入ってもらえるような素敵な詩を!」
「うん!頑張って!」

 ハルさんがこうして僕のために何かしてくれることは本当に嬉しい。彼女の期待に応えるためにも、これから執筆に励まなくてはいけないな。

「それじゃあ次の作品、一週間以内に完成させてね」
「えぇ!?何その編集者みたいなの…」
「冗談だよ。楽しみに待ってるね♪」

 こうして、ハルさんが超能力で僕を支え、そのお礼として僕が詩を書くという、謎の等価交換的な関係が出来上がった。本当に無理やり結び付けたような感じだけど、これが僕とハルさんだけの特別な関係だと思うと、とても誇らしく感じる。詩を書いて恩を返すなんて、僕にしかできないことだ。僕の作詩の才能で、ハルさんの人生を彩ってあげよう。



 私がここに来て約3週間。今まで人の役に立てたことなんて一度もなかった。役に立たないまま動き続ける自分の心臓が、自分の命がとても腹立たしかった。そんな私に彼は秘密を教えてくれた。彼にとってはとても後ろめたい秘密らしいけど、私にはそれがとても眩しく、星のように輝いて見えた。とても不思議な気持ちだ。楽しくて、面白くて、美しく思えた。だから私は彼の生み出すものに大変興味を示した。

 彼の感性で紡がれる言葉の数々は、私をどこか正しい道へと導いてくれくれるような、私の人生のコンパスになってくれるような気がした。そして、彼は詩が書けるのは私のおかげだと言う。私の存在そのものが彼の創造性を掻き立てる。なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。こうして私の存在が誰かの役に立てるなんて、まるで千年に一度しか起きない奇跡をこの身で実感しているような誇らしい気分だ。

 あぁ、そうか。私はやっと見つけたんだ。君は私に生きる意味を示してくれた。青く美しいこの星で。







 私の生きる意味、それは彼にこれからも尽くすことだ。



「…」

 目が覚めた。私は布団から起き上がる。伊織君と超能力浮遊を楽しんだ後、謎の腹痛に襲われて寝込んでしまった。伊織君が帰った後でよかった。彼がいる前でお腹を抱えたりしたら、きっと罪悪感に苛《さいな》まれるだろう。

「起きた?お腹はもう大丈夫?」
「うん…もう平気」

 地下から天音さんが顔を出し、私の体調を確認しに近づいてきた。

「ねぇハル、あなた…」
「大丈夫!使ってないってば~」

 無理に笑ってごまかす。天音さんは私の体調と同時に超能力を使っていないかどうかを怪しんでいる。“あの事情”を知っている天音さんには知られるわけにはいかない。これは私と伊織君だけの特別な関係だ。私は超能力を使っていることを意地でも隠し通すことに決めた。

「そう…お風呂沸かしといたから。先入っていいわよ」
「ありがとう」

 詮索を止めた天音さんは地下の研究室へと戻って行った。私はパジャマを抱えて脱衣場へ入った。





 シャカシャカ…
 私は入浴も夕食も全て終え、洗面台の前で歯を磨く。伊織君との超能力浮遊の疲れがまだ残っており、眠気が私を夢の中に誘ってくる。口をゆすぎ、水を吐いて口元を拭う。

 そして洗面台の鏡に顔を向ける。



「久しぶりね」
「…!?」

 目の前には“私”がいた。しかし、目の前にいる鏡の中の私は、私ではない。私の意思とは関係なく言葉を発し、不適な笑みでこちらを見つめてくる。アイツだ…アイツが目覚めてしまった。

「ジア…」
「なかなか楽しい毎日を過ごしてるみたいじゃない。友達も何人もできちゃって」

 鏡の中にいる彼女はどこからどう見ても私だ。発する声も、髪の色も形も、体のパーツが全て私を形作っている。唯一、闇を飲み込んだような恐ろしく赤黒い瞳を除いて。

「やっと最近能力を使い始めたけど、やっぱりそういうこと?」
「違う!あれは伊織君のために…」
「伊織…あのメガネ男のどこがいいわけ?メガネなんかしてるの超陰気臭いし、人に気遣っておいて内心他人を見下してそうだし。ネガティブな奴かと思いきやヘラヘラしてて意味わかんないし。それに詩を書くのが好きって…頭の中お花畑かっての」

 伊織君の悪口を羅列する彼女。心の底から怒りが込み上げる。

「伊織君のことを悪く言わないで!」

 私は声を荒げる。伊織君はとても優しくて、私のことを誰よりも思ってくれている大切な人だ。彼のことを悪く言うのは許さない。

「なんであの男のことをそんなに慕うわけ?」
「え?」

 彼女は笑顔を一瞬にして消し去り、鋭い眼光で私を睨み付けてくる。

「まさかアンタ、忘れたわけじゃないわよね?アンタにはもう彼がいるのよ」
「あ、あんな奴のことなんか知らない!」
「彼を悪く言うのは許さないわよ」

 さっき私が言ったことをそのまま言い返された。あの男のことは死んでも口に出してほしくない。かつて私を陥れようとしたあの男のことなんて。私の怒りは頂点に達した。彼女は再び不気味な笑みを浮かべて続ける。

「まぁ何にせよ、アンタは幸せになっちゃいけないのよ」
「…うるさい」
「アンタの人生、徹底的にぶっ壊してやる。あのメガネ男も、周りの友達も、もちろんアマンダも」
「…うるさい!」
「そして、最後はアンタの存在も私が…」
「うるさいうるさいうるさい!!!」

 ガシャン!
 私は洗面台に置いてあったヘアブラシを掴み、目を閉じてがむしゃらに彼女の方へ投げつけた。耳をつんざくガラスの割れる音。私は恐る恐る目を開いた。彼女の姿は跡形も無くなっており、ヒビの入った鏡だけがそこに残っていた。

「何?何の音?」

 鏡の割れる音を聞きつけ、天音さんが洗面台までやって来た。その場で崩れ落ちる私を発見する。

「ハル、大丈夫?」

 天音さんが私の肩に手を乗せる。小刻みに私の肩が震えていて、私の中に起きている変化に感づいてしまう。

「ねぇ、ハル…」
「ごめんなさい、虫が出てきたと思って。びっくりしてつい投げちゃった。でも見間違いだったみたい」
「…本当にそれだけ?」

 天音さんの詮索が始まった。私は立ち上がって呟く。

「うん、そうだよ。心配しないで。本当に大丈夫だから…」
「…」
「私、もう寝るね」

 天音さんをその場に残し、私は布団へと逃げるように向かう。嘘に嘘を塗り重ねて自分の心を落ち着かせる。偽りの安心を立てる。

「うぅぅ…」

 布団の中で人知れず涙を流す。やっと平和な生活が実現すると思ってたのに。結局私は何かに縛られ、脅かされる人生を歩むことしか許されないのか。誰かに生きることを否定されなければならないのか。

 閉じた瞳の中に写るのは、超能力で空を飛ぶ私を憧れの目で見つめる伊織君。超能力が使える私を羨ましそうに見ていた。





 ほんと、空を飛ぶ鳥のように、私も自由になれたらよかったのに…。

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