タイム・ラブ

KMT

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第一章「近づく二人」

第5話「時をかける少女with両親」

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キーンコーンカーンコーン
ショートホームルームの終わりを告げる鐘が鳴り、クラスのみんなが一斉に帰宅し始めた。今日は夏休み最後の土日を控えた、金曜日の登校日である。まだお昼前だが、今日の授業はここまでらしい。いや、正確には授業ではないのだが...。せっかく早めに帰れるのだからと、クラスのみんなは帰る足を早める。残り少ない夏休みを隅々まで満喫したいらしい。僕も一応帰るが...

「よし!じゃあこの後2時半に山の時計広場の前に集合!」

この後、裕介君達と一緒にプチクラ山で写生の宿題をしに行く約束をしている。すると

「ね~男3人だけで何話してるわけ~?」

会話に入ってきたのは、クラスメイトの「空野綾葉(そらの あやは)」だ。その後ろにはやはり...

「仲間はずれ、いじめ、カッコ悪い」

同じくクラスメイトの「谷口美咲(たにぐち みさき)」がいた。

「違ぇよ!お前らも誘おうと思ってたけど忘れちまってただけだよ!」
「え~?私達のこと忘れてたの~?それはそれで酷くない?」
「酷い」
「お前、空野達誘うの忘れてたのか?確かに酷ぇな」
「広樹まで乗ってくるんじゃねぇ!」

彼女達も、裕介君や広樹君と同じくらい仲がいい。僕達5人は学校ではほぼと言っていいほど、一緒に行動している。休日も5人で食事だったり、カラオケだったり、楽しく過ごしている。親友というのは本当にいいものだ。

「まぁそれは置いといて、アンタ達どっか行くの?」
「ああ、写生の宿題まだ終わってなくてよ。この後プチクラ山にでも行って何か描こうと思ってな」
「満君も行くの?」
「うん、こんな時期に写生終わってないなんて本当は大問題だけどね...(笑)」
「ちょうどいいわね!実は私も写生の宿題終わってなくてね、下書きもまだなのよ~」
「私も...」
「お前らもか、それじゃあ決まりだな。みんなで行こうぜ!」

綾葉ちゃんと美咲ちゃんの2人も行くことになった。

「ちなみに、おやつはいくらまで?」
「300円までだ」
「いや、だからギャグ古過ぎだろ!」

案外似た者同士の僕達はこんな感じでいつも過ごしているのだ。





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じー。
私とパパは物陰から、洗濯物を畳んでいるママを伺っている。ママは私達には気づいていない。

「何やってるの?二人とも...」

いや、バレていた。ていうか、私達なんでこんなことしてたんだっけ?

「よし!試してみよう」

パパはそう言うと、冷蔵庫に向かっていき、扉を開けた。そして、棚からプリンを取り出した。しかもただのプリンではない。スペシャルゴールデンプレミアムプリンだ。ちょっと言いにくいわね...。とにかく普通のプリンより滑らかで甘く、大きくて高い高級なプリンだ。我が家のような大金持ちだから買えるのだ。ふふふ♪

でもそれ、ママのでしょ?だってフタに「神野あい(ママの名前)」って書かれた紙が貼ってあるし。パパはそれをどうするのかしら?まさか...

「いただきま~す♪」

パパはフタを開けて、スプーンで豪快にすくい、大きな口でほおばった。何やってんのよパパ!!!!!

「アナタ...そのプリン...」

あぁ...やっぱり。案の定、ママは背中に灼熱の炎を燃やして一歩ずつ、ゆっくりとパパに近づいていった。ママ、あのプリン食べるの楽しみにしてたものね...。

「ふぅ~美味しかった♪」

さっさと食べ終えてしまったパパ。これからママに血祭りにあげられるとも知らず、のほほんとしている。一体どういうつもりなの?

「よし、じゃあ真紀!しっかり見ててね」

え?
そう言うと、パパはポケットからさっきのメモリーキューブを取り出した。横のダイヤルのようなものをチリチリと回している。ってパパ!!!!ママがすぐそこまで来てるわよ⁉︎

「歯を食いしばりなさい...いや、食いしばるな」

あぁ...パパ...。今までありがとう...。忘れるまで忘れないわ...。私は合掌する。目をつぶり、天を仰ぐ。
 
「できた!」

シュッ!
パパはメモリーキューブをママの頭上めがけて投げた。すると、ママの頭上でメモリーキューブは止まった。すごい、空中に浮いてるわ!近未来的ね...。立て続けにメモリーキューブは黄色く光りながら変形してみせた。カタカタと形を変えたそれは、黄色い光をママに放った。かなり眩しい。

「な、何これ⁉︎あっ」

すると、ママは急に動きを止め、口をポカンと開けたまま突っ立った。ママの目まで黄色く光っている。メモリーキューブは光るのをやめ、パパの手元へと飛んでいった。何これ?

「パパ、今何したの?」
「ママからプリンを食べられたという記憶を奪ったのさ」

なるほど、今の光景を見て納得した。
へー。やっぱりすごいわね、その機械。

「まぁ、これはこうやって使うんだ。わかった?」
「わかった~」

ダイヤルを回して、相手の頭上に投げればいいのね?OK~OK~♪

「あれ?私、何してたのかしら?」

ママはさっきまでのことを完全に忘れてる様子だった。機械の力は本物のようね。

「洗濯物畳んでたんでしょ?」
「あぁ、そうだったわね。でもちょっと疲れたわね、休憩しようかしら。確か冷蔵庫にプリンがあったはず...」

あっ...。









ガチャッ
ガレージの裏口を開けると、中に青と白の色をした中型の自動車があった。いや...

「これが時空間転移装置、タイムマシンだよ♪」

プリンを食べたのがバレて血祭りにあげられたパパ。頭から血を流して緑髪が茶色くなっている。でも、正直に自分が食べたと告白しただけまだ許される方か。それにしても、明らかに重傷なのに、なんでそんなにピンピンしてるのかしら?

「これでいろんな時代に行けるのよね~?」
「ああ。ワームホールっていう時空のトンネルみたいなものを検出して、そこを通っていくんだ」
「なんか、普通の自動車と見た目はそんなに変わらないわね」
「中は色々違うけどね」

あぁ!もうすっごく楽しみ♪
タイムマシンに乗るの初めてだもん♪

「それで?タイムマシンで何しに行くわけ?」

ママが間に入ってきた。組んだ腕の先の手には、パパの返り血が付いている。

「過去の時代の植物を採りに行くのよ~♪」
「『採る』じゃなくて『撮る』ね?持って帰っちゃうのはダメだって。写真でも資料にはなるだろう?」
「え~( ´Д`)y」
「行くのは今週の土曜でいいね?僕も色々準備したいことあるし」
「はーい」
「私も行こうかしら」
「え?ママも行くの?」
「アンタ達だけじゃちょっと心配だし」

何が心配なのよ...。

「まぁいいけど...じゃあ2人とも、準備しといてね」
「はーい」

ママと一緒に生乾きの返事をした。
でも、内心みんなはすごく楽しみにしていた。








あっという間に土曜日になった。小説の世界はタイムマシンを使わなくても簡単に時間を飛べるからいいわね♪でも、時間を飛ぶならやっぱりタイムマシンに乗りたいわよね~♪早速行くわよ!

「真紀...何?その格好...。これからステージで歌うって感じのアイドルみたいじゃないか」
「冒険に行くからと言ってオシャレをしないわけにはいかないでしょう?」
「もうちょっと動きやすい服装にしたらどうなのよ?」
「大丈夫よ~。これ結構動きやすいのよ?」
「はぁ...まぁいいや。行くか」
「レッツゴー!!!!!」

私はタイムマシンのドアを豪快に開けて、後部座席に座った。後部座席辺りは普通の自動車とそんなに変わらなかった。しかし、運転席の周りには複雑そうな機械が肩を並べている。見たこともないメーターやスイッチがたくさんあって心が踊った。後ろの荷物置き場には大きな黒いバッグが2,3個積み重なっていた。ママは私の隣に座り、パパは運転席に座った。私はドアを閉め、シートベルトを締めた。

「シートベルト締めたかい?」
「締めた~」
「よし、じゃあ最初の行き先は?」
「ちょっと待ってて」

私は自分のリュックのチャックを開けた。中には市立図書館で借りた植物図鑑、パパの書斎にあった消滅遺産図録、パパの一眼レフカメラ、自由研究の計画表、ノート、財布、ハンカチ、ティッシュ、その他色々入っている。

「アンタ、その消滅遺産図録パパのでしょ?」
「あ?これ?えへへ...パパの書斎から持ってきちゃった♪この目でその遺産の数々が生きている姿をこの目で確かめたいのよ!」
「ふーん」

そのためにも、これは必須かなと思った。
それより、私はリュックから植物図鑑を取り出す。ページをめくってあのキノコを探す。

「あった!クックソニアは...シルル紀中期!」
「シルル紀となると...約4億4370万年前か...。中期とはこれまた微妙だな...。少し後の約4億1800万年前ぐらいにしておくか」
「何?真紀、そんな大昔に行くわけ?」
「だって図鑑にそう書いてあるんだもん」
「図鑑が正しいかどうかはわからないが...とりあえずそれを頼りに行ってみるしかないなぁ」

パパはハンドルの隣にある大きなタブレットのようなものにキーボードを表示させ、数字を入力し始めた。あれはタイムマシン版のカーナビみたいなものなのかしら?

「よーし!入力完了!」

パパはカーナビの赤いスイッチを押した。すると、タイムマシンはブロロロロと音を立てて揺れだした。

「お~!ついに行くのね!」

タイムマシンはガレージから庭へと進んだ。
次にカーナビからキンッと金属音に似たような音がした。

「ワームホールの周期確認!2人とも捕まっててよ~?」

私は身構えた。

「わ⁉︎ちょっ!ど、どうなってるのこれ?」

ママが驚くのも無理はない。タイムマシンはヒューと音を立てて、宙に浮き始めた。この感覚、たまらない。過去の人間にわかりやすく言うと、遊園地のアトラクションに乗ってるような感じね。

「わぁ~♪すご~い!」
「出発するぞ~?行き先は古生代シルル紀中期!」

パパは思いっきりアクセルを踏んだ。ビューン!
タイムマシンは猛スピードで発進し、空中で消えた。

「あらあら♪神野さんのお宅。一体どこに行ったのかしら、ふふふ」

その一連を見ていた隣の家のおばさんが、微笑ましく空を見上げていたらしい。未来人にとってこの光景はもはや日常的。タイムマシンの存在を知っている人だけだけどね...。






ワームホールは黄色かった。本当にトンネルみたいだ。そのトンネルを私達を乗せたタイムマシンは静かに走っていく。

「不思議な光景ね~」

ママもタイムマシンに乗るのは初めてなので、外の景色に見入っている。確かに、結構綺麗だ。
すると、トンネルの向こうから、大きな黒い塊が流れてきた。よく見ると電気のようなものを帯びている。

「え?何あれ?」
「タイムボールトだよ。ワームホールの中をいくつか流れてね、ワームホールのバランスを保つためにあるんだ」

よくわからないけど、わかった。
それにしても本当に不思議な空間だ。私達が過ごしている場所とは完全に違う、別世界、別次元だ。これが時空というものなのか。

「ねーねーパパ、どれくらいで着くの?」
「4億年も遡るからな~。1時間20分といったところかな」
「え~⁉︎そんなにかかるの~⁉︎退屈しちゃうじゃん...」

ワームホールは見たところ、どれだけ進んでも同じ景色ばかり。たまにタイムボールトが流れてくるだけ。黄色いトンネルと黒い塊を眺めるだけでは、退屈しのぎにはなりそうにない。

「そう言うと思ったよ。後ろ、見てみな」

ん?後ろ?
後ろに積んである黒いバッグ。私は身を乗り出して、一番上に積んであるバッグのチャックを開けた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

中にはお菓子やらジュースやらパンやら、いろんな食べ物や飲み物が詰まっていた。美味しそう。

「ちょっと早いけど、お腹に何か入れときな」
「いっただっきまぁ~す💕」

私とママはすぐさまご馳走の山にありついた。





もぐもぐもぐ。私はパンをほおばりながら、消滅遺産図録を読んでいる。これも暇つぶしのために持ってきたようなものだ。
もぐもぐもぐ。ん~💕美味しいわね~♪このチョココロネ♪未来でもいくつか甘いものが残っててよかったわ。でも...はぁ...
私は消滅遺産図録の食べ物のページを見てため息をついた。

「このクレープっていうの、一度食べてみたいなぁ...」

私の時代にはクレープは無い。レシピはここに書いてあるのに、何故か誰も作らない。私の時代のスイーツ店のメニューなどにもクレープの名前は無い。必要な材料が私の時代では枯渇しているというわけでもない。それなのに何故か消滅したという扱いになっており、消滅遺産図録に載っている。作り方と共に。実におかしな話である。

他にも、遊園地。私の時代には遊園地は無い。さっき遊園地のアトラクションみたいな感覚がどうのこうの言っていたが、そもそも私は遊園地というものに行ったことがない。消滅した理由は、遊園地のページを見れば書いてあるが、何故か読む気になれない。


私は消滅したモノの数々に想いを馳せる。もしそれらがまだ存在する時代に行くことがあったら、実際に目で見てみたい。触れて、感じて、楽しみたい。

私は、「知らない」を知りたい。








白い光が辺りを覆い、私達は目を細める。光は一瞬にしてタイムマシン全体を覆い尽くす。不思議な音が私の耳の鼓膜を揺らす。

「着いたぞ。約4億1800万年前、古生代シルル紀だ」

私とママは、窓から外の景色を眺める。どこまでも、永遠と続く広大な大地が広がっていた。


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