お題:薬事局のお仕事で……一万字?

razor777

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第1話(何故か脱線していく?)

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「おはようございます!」

薬事局の工房棟の事務所に、ひとりの女性が……いや、少女?が入ってきた。

事前に今日、新人が来ることは聞いていたので、やってきた当人と思われる人物に確認する。

「おう、おはようさん。お前さんが新人の薬師か?」

「は、ひゃぁいっ! し、しんじんのりりあーな、です」

「大丈夫か?」

新人のリリアーナは噛んだ。彼女は俯いてプルプルしている。心配して声をかけたが、耳が真っ赤になっているので、噛んだ痛みより、羞恥のダメージの方が深刻なようだ。

「は、はい。大丈夫です」

彼女は顔を上げた。ただ、目尻にわずかな涙が見えるが、そう伝えてきた。俺は、一応舌に傷ができないか心配になり、彼女の前に屈んで言った。

「ちょい、口開けてみろ、リリアーナ」

「えっ?」

「ああ、舌噛んだろ?」

硬直して動かないリリアーナの顎に手を当てた。

「はい、あーんして」

「あーー」

「じゃあ、次はえーって舌を出して」

「えーー」

「よし、ギズはないな。痛みとかはあるか?」

「えっと、ないです」

「わかった。ヒリヒリするなら、この草を舐めておきな」

「うっ、ありがとうございます」

俺は、レイルームという植物の葉をリリアーナに渡した。彼女も新人とはいえ薬師の端くれ。差し出されたものの意味を理解して受け取った。そして、口元を隠しながら後ろを向いて、その草を口に含んだ。

「んっ」

レイルームは、鎮痛効果のある成分を多く含む植物の一種だ。葉の裏側に人間の唾液が付くとそこから分泌される成分と結合してヌルヌルとした状態になり、患部に密着する性質を持つ。

「……や、やっぱり、にがい~」

「はは、最初だけだろ、我慢しろ」

に言うなら、切手みたいに貼れる絆創膏みたいなものだ。こっちのは唾液にしか反応しないがな。ただ、舐めると苦い。薬事局うちでは、準薬草の6番と呼ばれて、重宝されている。

「ああ、そうだ。薬事局、2番工房抽出部主任補佐のイェーガ・シィスロウだ。

…………?」

俺が差し出した右手を、リリアーナは自然な動作で握り返してきた。そして、当たり前の挨拶を返そうとして、止まった。

「なんで?」

の名前は知らないが、リリアーナが困惑するのも頷ける。この世界で日本語が聞けるとは思ってなかったのだろう。

普通なら疑うし、警戒する。しかし、俺相手にそれはない。少なくとも、過去何人も、こいつらみたいなとは、会っているが、誰もが同じ反応をする。

そして、リリアーナも驚愕しているが、その奥にあるのは、安堵と親近感だ。彼女は、何度も俺の手をぎゅっと握ったり、緩めたりを繰り返す。空いてる方の手では自分のほっぺを抓ってみたりと忙しい。

「……あの、あのっ!」

「別に逃げないから、落ち着け。これからは仕事仲間だ、まずは、職場を案内するぜ」

「は、はい」

落ち着かせようとしたのだが、すごくしょんぼりされている。たしかに、十数年振に同郷の人間を見れば、大騒ぎもするか。を話し、顔の人間が現れたら。

「と、思ったが、急ぐ必要もないだろう。?」

「はいっ!」

二人連れ立って、食堂に向かうことにした。

「じ~~」

食堂に向かう間も、リリアーナは俺の顔をジッと見てきた。

「そこまで、熱心に見るものか?」

「見ます。見れば見る程、日本人ですよ。倭国の人が、もうパチモノにしか思えなくなりました」

「パチモノって、ひどいな」

倭国はかつて、勇者の一部が移住して作った国らしい。だから、顔つきが似ている。しかし、言語は伝わっておらず、テルニア語を話す。

「正直、イェーガさんも倭国の人と思いました。顔で期待させておいて、口からはテルニア語を吐き出すんですよ」

なにやら、ヤサグレ気味に文句を言う。その後も、ぶちぶち小声で愚痴っていたが、止まった。視線が再び俺にロックされる。

「イェーガさん? イェーガ・シィスロウさん? ……なんで、なんですか?」

リリアーナは、の瞳をパチパチさせて俺を見つめる。首を少し傾げるとまで綺麗な金髪が一緒に揺れた。

陳腐な言い方になるが、服装をゴシック的なものにして、表情がもっとキリッとしてたら、ビスクドールと呼んでも遜色無い少女だった。
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