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「あー、本当にユウリって可愛い! 私ならこんな弟がいたら絶対に可愛がるのに!」
ベッドで横になりながら優里亜は読んでいた本を抱きしめて声をあげる。
「ほらほらそんなに興奮しないの」
私は苦笑いしながらまたかと娘の優里亜に布団をかけて寝かせる。
ここは総合病院、娘優里亜は幼い頃から体が弱く病院にかかりきりだった。
小学校に上がる前に合併症を引き起こしそれからずっと病院暮らし、高い入院費にギリギリの生活に嫌気がさしたのか夫は早々に若い女と家を出ていった。
「お母さんだってユウリを見たら可愛がるに決まってるよ!」
「はいはい、可愛いわね。でも私の一番はあなたよ」
私は優里亜の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「知ってるよ、だからユウリにもこんな優しいお母さんがいるんだよって教えてあげたいの...」
優里亜は切なそうな顔で本を見つめていた。
病院生活で退屈させないようにと色々買ってあげたかったがお金が足らず困っていたところ優里亜から本が欲しいと頼まれてそれくらいならと買ってあげたのがこの本だった。
優里亜によると今どき流行りらしく転生した女性が本の物語に入りなんやかんやあって幸せになる話のようだ。
数冊買ってあげたが優里亜はこの本がお気に入りだ、主人公の男の子が好きなのかと思いきや悪役で出てくる子が好きなのだ。
きっかけは自分の名前に似ていた事で悪役になるきっかけが幼い頃に受けた待遇など可哀想になる話に胸を打たれたようだ。
「お母さんユウリってね手作りのご飯食べたことないんだよ!」
「はいはい、それに一人で寝てて偉いんでしょ」
「な、なんで知ってるの!」
娘の驚いた顔に思わず吹き出してしまう。
「そりゃ優里亜が何回もお母さんに説明するからでしょ。お母さん本は読んでないけど優里亜から聞いてるから内容わかるわよ」
「お母さんすごい!」
優里亜は喜んでその後も私にユウリの事を説明してくれていたが...
「うっ...」
楽しく話していたと思ったら急に胸を抑えて苦しみ出した。
「優里亜! 誰かー!看護師さん!」
私は何度もナースコールを押して大声をあげる。
看護師さんが飛び込んで来ると場所を代わり手を握りしめて祈る。
目の前の最愛の娘が苦しんでいるのに私には祈ることしか出来なかった。
「先生呼んで!」
看護師さんの声に私はビクッと肩を跳ねる。
「お母さんは少し休んでて下さい」
看護師さんに肩を優しく撫でられ、私はその時初めて震えている事に気がついた。
優里亜はそのまま手術室へと運ばれる。私はその後を涙を堪えながらついて行く。
優里亜が大変な時に泣いていられない!
私は頬を叩くと扉の前まで見送った。
待ってる時間は何時間にも感じた、実際何時間かかっていたのかもしれないが本来よりも長く感じていた。
手術室の明かりが消えると扉が開く、中から先生と看護師さんが出てきて私に気がついた。
「先生!」
「優里亜ちゃんのお母さん」
先生の顔が一瞬曇る、嫌な予感でその先が聞けなかった。
「優里亜ちゃん、一命は取り留めました」
「よ、よかっ」
ホッとしたのもつかの間、被せるように先生が話し出す。
「しかしもう長くはありません。最後になるかもしれませんからそばにいてあげて下さい」
「え?」
その言葉の意味を理解するのにしばらくかかった。
気がつくといつもの部屋に優里亜が寝かされていて私はその前に座っていた。
優里亜にはたくさんの管が付いており、電子音がシンとした部屋に鳴り響いている。
この音が優里亜の鼓動かと思うとそれも愛おしい。
まだ麻酔が聞いているのか優里亜は眠っている、穏やかに見えるが顔色は悪く青白かった。
このまま目覚めなかったらどうしよう。
私はそっと優里亜の手を掴むと優しく握り返される。
「優里亜!」
顔を見るとぼーっと目の前を見つめていた。
「優里亜、わかる? お母さんよ!」
「おかあ、さん...」
「そうお母さん!」
力なく聞こえる声は確かにお母さんといった。
「待ってて!今先生呼んでくるから!」
私が立ち上がろうとすると優里亜がギュッと私の手を掴む。もう力が入らないのかそれは本当に微かだった。
「まって...そばにいて」
優里亜の言葉に私は立ち止まりナースコールを呼ぶと優里亜の手を握り返した。
「いるよ!ここにいる、ずっとそばにいるから優里亜頑張って!」
「はは、ごめん。けっこう...がんばったけど...疲れちゃった」
優里亜が力なく笑う。
「そうよね、うん!優里亜はがんばった!でももう少し、もう少しがんばって......お母さんを置いてかないで...」
優里亜の前では泣かないと決めていたのに無理だった。
もう今にも消えそうな娘を前に涙で視界がぼやける。
こんなこと言うつもりなかったのに止められない。
「ごめん、本当にごめんなさい。丈夫に産んであげられなくて、幸せにしてあげられなくて」
謝罪すると優里亜はそっと目をつぶる。
「ううん、わたしはしあわせだった...おかあさんのこにうまれてしあわせ」
その言葉に私は何も言えなくなる。病室には私の嗚咽だけ聞こえていた。
「またおかあさんの子にうまれたいな、それでねユウリにもうちのおかあさんのすてきなところ感じてほしい」
薬でぼーっとしているのか、優里亜は天井に向かって誰かに話しかけるように呟いている。
するとまた苦しげに顔が歪んた。
「待って優里亜!」
先生はまだかと廊下を見るとバタバタと足音が近づいてきた。
「優里亜! 先生が来るから!」
優里亜を見ると先程とは違い穏やかな顔で笑っている。
「うん、だいじょうぶさきにいってるね。お母さん大好きだよ」
「優里亜!優里亜!」
優里亜は微笑みながらその短すぎる生涯に幕を閉じた。
ベッドで横になりながら優里亜は読んでいた本を抱きしめて声をあげる。
「ほらほらそんなに興奮しないの」
私は苦笑いしながらまたかと娘の優里亜に布団をかけて寝かせる。
ここは総合病院、娘優里亜は幼い頃から体が弱く病院にかかりきりだった。
小学校に上がる前に合併症を引き起こしそれからずっと病院暮らし、高い入院費にギリギリの生活に嫌気がさしたのか夫は早々に若い女と家を出ていった。
「お母さんだってユウリを見たら可愛がるに決まってるよ!」
「はいはい、可愛いわね。でも私の一番はあなたよ」
私は優里亜の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「知ってるよ、だからユウリにもこんな優しいお母さんがいるんだよって教えてあげたいの...」
優里亜は切なそうな顔で本を見つめていた。
病院生活で退屈させないようにと色々買ってあげたかったがお金が足らず困っていたところ優里亜から本が欲しいと頼まれてそれくらいならと買ってあげたのがこの本だった。
優里亜によると今どき流行りらしく転生した女性が本の物語に入りなんやかんやあって幸せになる話のようだ。
数冊買ってあげたが優里亜はこの本がお気に入りだ、主人公の男の子が好きなのかと思いきや悪役で出てくる子が好きなのだ。
きっかけは自分の名前に似ていた事で悪役になるきっかけが幼い頃に受けた待遇など可哀想になる話に胸を打たれたようだ。
「お母さんユウリってね手作りのご飯食べたことないんだよ!」
「はいはい、それに一人で寝てて偉いんでしょ」
「な、なんで知ってるの!」
娘の驚いた顔に思わず吹き出してしまう。
「そりゃ優里亜が何回もお母さんに説明するからでしょ。お母さん本は読んでないけど優里亜から聞いてるから内容わかるわよ」
「お母さんすごい!」
優里亜は喜んでその後も私にユウリの事を説明してくれていたが...
「うっ...」
楽しく話していたと思ったら急に胸を抑えて苦しみ出した。
「優里亜! 誰かー!看護師さん!」
私は何度もナースコールを押して大声をあげる。
看護師さんが飛び込んで来ると場所を代わり手を握りしめて祈る。
目の前の最愛の娘が苦しんでいるのに私には祈ることしか出来なかった。
「先生呼んで!」
看護師さんの声に私はビクッと肩を跳ねる。
「お母さんは少し休んでて下さい」
看護師さんに肩を優しく撫でられ、私はその時初めて震えている事に気がついた。
優里亜はそのまま手術室へと運ばれる。私はその後を涙を堪えながらついて行く。
優里亜が大変な時に泣いていられない!
私は頬を叩くと扉の前まで見送った。
待ってる時間は何時間にも感じた、実際何時間かかっていたのかもしれないが本来よりも長く感じていた。
手術室の明かりが消えると扉が開く、中から先生と看護師さんが出てきて私に気がついた。
「先生!」
「優里亜ちゃんのお母さん」
先生の顔が一瞬曇る、嫌な予感でその先が聞けなかった。
「優里亜ちゃん、一命は取り留めました」
「よ、よかっ」
ホッとしたのもつかの間、被せるように先生が話し出す。
「しかしもう長くはありません。最後になるかもしれませんからそばにいてあげて下さい」
「え?」
その言葉の意味を理解するのにしばらくかかった。
気がつくといつもの部屋に優里亜が寝かされていて私はその前に座っていた。
優里亜にはたくさんの管が付いており、電子音がシンとした部屋に鳴り響いている。
この音が優里亜の鼓動かと思うとそれも愛おしい。
まだ麻酔が聞いているのか優里亜は眠っている、穏やかに見えるが顔色は悪く青白かった。
このまま目覚めなかったらどうしよう。
私はそっと優里亜の手を掴むと優しく握り返される。
「優里亜!」
顔を見るとぼーっと目の前を見つめていた。
「優里亜、わかる? お母さんよ!」
「おかあ、さん...」
「そうお母さん!」
力なく聞こえる声は確かにお母さんといった。
「待ってて!今先生呼んでくるから!」
私が立ち上がろうとすると優里亜がギュッと私の手を掴む。もう力が入らないのかそれは本当に微かだった。
「まって...そばにいて」
優里亜の言葉に私は立ち止まりナースコールを呼ぶと優里亜の手を握り返した。
「いるよ!ここにいる、ずっとそばにいるから優里亜頑張って!」
「はは、ごめん。けっこう...がんばったけど...疲れちゃった」
優里亜が力なく笑う。
「そうよね、うん!優里亜はがんばった!でももう少し、もう少しがんばって......お母さんを置いてかないで...」
優里亜の前では泣かないと決めていたのに無理だった。
もう今にも消えそうな娘を前に涙で視界がぼやける。
こんなこと言うつもりなかったのに止められない。
「ごめん、本当にごめんなさい。丈夫に産んであげられなくて、幸せにしてあげられなくて」
謝罪すると優里亜はそっと目をつぶる。
「ううん、わたしはしあわせだった...おかあさんのこにうまれてしあわせ」
その言葉に私は何も言えなくなる。病室には私の嗚咽だけ聞こえていた。
「またおかあさんの子にうまれたいな、それでねユウリにもうちのおかあさんのすてきなところ感じてほしい」
薬でぼーっとしているのか、優里亜は天井に向かって誰かに話しかけるように呟いている。
するとまた苦しげに顔が歪んた。
「待って優里亜!」
先生はまだかと廊下を見るとバタバタと足音が近づいてきた。
「優里亜! 先生が来るから!」
優里亜を見ると先程とは違い穏やかな顔で笑っている。
「うん、だいじょうぶさきにいってるね。お母さん大好きだよ」
「優里亜!優里亜!」
優里亜は微笑みながらその短すぎる生涯に幕を閉じた。
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