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第壱幕 神託
第十話
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「はぁ…」
「聞いたよ、冬。姫巫女になるんだってね」
「ま、まだ決まった訳じゃ…」
充実様達による話し合いは場所を代えて継続された。
わたしは一度下がってもいいと言われたので、こうして使用人長屋に戻ってくる事ができた。
プレッシャーやその他諸々からようやく解放されて、ホッと一息…つけるかと思ったんだけど、どうやらわたしが迦楼羅丸様を解放した話は使用人の間に広まっていたみたい。
「よくやったぞ、冬」
「大出世ね、冬」
「だ、だから…違うのぉ」
皆の間では、わたしが姫巫女になるのだと決定しているみたい。
わたしには絶対に無理だし、そもそも女中なんだからなれるわけがない。
「お、おめでとうございます。あ、秋さん、喜んでましたですよね」
「おめでとうなんて言わないでよ、八彦」
頭を撫でられたり、肩を叩かれたり…。
皆が喜んで祝ってくれるのは嬉しいけれど、わたしは姫巫女になんてなるつもりないのに…。
どうしたらいいのかと視線をさまよわせれば、隙間から結依ちゃんの姿が見えた。
「あ、結依ちゃ…」
「…っ」
声をかければ、結依ちゃんはわたしから顔をそむけ、どこかに行ってしまった。
……結依ちゃん、怒ってるんだ。
あんなに神託を見たがっていた結依ちゃんが参加できなくて、興味のなかったわたしが神託に参加して、あまつさえ姫巫女になるかもしれないなんて事態になったんだもの。
よく考えなくても、結依ちゃんに悪い事したのは分かるはずなのに…。
わたしって、本当に馬鹿だ。謝ったら、許してくれるかな?
「仕事をサボって何をしているのですか」
やれやれと肩を竦めつつ、女中頭の紅椿さんが歩いてくる。
女中頭という肩書ではあるものの、紅椿さんは使用人全員を束ねる人。
下男の監督もしているの。
下男下女という言い方を嫌う人だからみんな女中頭と呼んでいるの。
好き好んで自分を貶めるような言葉は、誰だって使いたくないしね。
「まだ今日の仕事は終わっていませんよ。皆さん持ち場に戻りなさい」
ぴしゃりと言い放つ紅椿さんに返事をし、皆そそくさと自分の持ち場に戻る。
「冬」
「はい」
「協議の結果が出るまで、貴女は自室で待機です」
「わかりました」
それだけ言って紅椿さんも行ってしまった。
仕事をしている方が、気が紛れてよかったのになぁ。
ここにいても仕方がないので、言われたとおり自室へと向かう。
「待機かぁ」
『余計に緊張しちゃうわよね』
「うん」
『もし、姫巫女になりなさいって言われたらどうする?』
「えー、嫌よ。わたしにできるわけないもの」
『あら、どうして?迦楼羅を目覚めさせたじゃない』
「あれは偶然だよ。お姉さんが傍で教えてくれたからだもん」
『教えられたからって、誰もが出来る事じゃないのよ』
「それは……そうだろうけど」
『女中のままじゃ体験できない事、沢山出来るわ』
「わたしは、秋ちゃんとずっと一緒にいられたらそれでいいよ」
『もったいないわね。なりたくてもなれない人がいるのに』
「……」
『何事も挑戦よ、冬』
「だってわたし、秋ちゃんがいないと何もできないもん」
『…いつまでも、秋と一緒にいられるわけじゃないのよ』
「わかってるけど…。だって、突然こんな…」
『そうね。ごめんなさい、冬。こんな事になって混乱しているのよね』
「…ごめんね、お姉さん」
『謝るのは私の方よ。とにかく、紅椿に言われた通り、部屋で休ませてもらいましょう』
「うん」
「聞いたよ、冬。姫巫女になるんだってね」
「ま、まだ決まった訳じゃ…」
充実様達による話し合いは場所を代えて継続された。
わたしは一度下がってもいいと言われたので、こうして使用人長屋に戻ってくる事ができた。
プレッシャーやその他諸々からようやく解放されて、ホッと一息…つけるかと思ったんだけど、どうやらわたしが迦楼羅丸様を解放した話は使用人の間に広まっていたみたい。
「よくやったぞ、冬」
「大出世ね、冬」
「だ、だから…違うのぉ」
皆の間では、わたしが姫巫女になるのだと決定しているみたい。
わたしには絶対に無理だし、そもそも女中なんだからなれるわけがない。
「お、おめでとうございます。あ、秋さん、喜んでましたですよね」
「おめでとうなんて言わないでよ、八彦」
頭を撫でられたり、肩を叩かれたり…。
皆が喜んで祝ってくれるのは嬉しいけれど、わたしは姫巫女になんてなるつもりないのに…。
どうしたらいいのかと視線をさまよわせれば、隙間から結依ちゃんの姿が見えた。
「あ、結依ちゃ…」
「…っ」
声をかければ、結依ちゃんはわたしから顔をそむけ、どこかに行ってしまった。
……結依ちゃん、怒ってるんだ。
あんなに神託を見たがっていた結依ちゃんが参加できなくて、興味のなかったわたしが神託に参加して、あまつさえ姫巫女になるかもしれないなんて事態になったんだもの。
よく考えなくても、結依ちゃんに悪い事したのは分かるはずなのに…。
わたしって、本当に馬鹿だ。謝ったら、許してくれるかな?
「仕事をサボって何をしているのですか」
やれやれと肩を竦めつつ、女中頭の紅椿さんが歩いてくる。
女中頭という肩書ではあるものの、紅椿さんは使用人全員を束ねる人。
下男の監督もしているの。
下男下女という言い方を嫌う人だからみんな女中頭と呼んでいるの。
好き好んで自分を貶めるような言葉は、誰だって使いたくないしね。
「まだ今日の仕事は終わっていませんよ。皆さん持ち場に戻りなさい」
ぴしゃりと言い放つ紅椿さんに返事をし、皆そそくさと自分の持ち場に戻る。
「冬」
「はい」
「協議の結果が出るまで、貴女は自室で待機です」
「わかりました」
それだけ言って紅椿さんも行ってしまった。
仕事をしている方が、気が紛れてよかったのになぁ。
ここにいても仕方がないので、言われたとおり自室へと向かう。
「待機かぁ」
『余計に緊張しちゃうわよね』
「うん」
『もし、姫巫女になりなさいって言われたらどうする?』
「えー、嫌よ。わたしにできるわけないもの」
『あら、どうして?迦楼羅を目覚めさせたじゃない』
「あれは偶然だよ。お姉さんが傍で教えてくれたからだもん」
『教えられたからって、誰もが出来る事じゃないのよ』
「それは……そうだろうけど」
『女中のままじゃ体験できない事、沢山出来るわ』
「わたしは、秋ちゃんとずっと一緒にいられたらそれでいいよ」
『もったいないわね。なりたくてもなれない人がいるのに』
「……」
『何事も挑戦よ、冬』
「だってわたし、秋ちゃんがいないと何もできないもん」
『…いつまでも、秋と一緒にいられるわけじゃないのよ』
「わかってるけど…。だって、突然こんな…」
『そうね。ごめんなさい、冬。こんな事になって混乱しているのよね』
「…ごめんね、お姉さん」
『謝るのは私の方よ。とにかく、紅椿に言われた通り、部屋で休ませてもらいましょう』
「うん」
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