四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第弐幕 宿祢

第十三話

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『どこへ行くつもりなの?』
「わかんない!」
道なき道をひたすら走る。
今日も相変わらず濃い霧で先なんて全く見えない。
それでも足を止める訳にはいかない。
だって、捕まったら宿祢が殺されちゃう。
そんなの、絶対に嫌!
「逃がすな、追え!」
遠くから天狗達の声が聞こえる。
視界の悪さは一緒だもの、どこかに隠れてやり過ごせれば…。
「冬殿は拙者を置いて…」
「絶対に嫌!」
「どうしてっ」
「どうしても!」
時々止まりそうになる宿祢を無理やり引っ張って走る。
これはもうお節介を通り越しているかもしれない。
通り越しているどころか、ただのわがまま。
そう、これはわたしのわがまま。
宿祢に死んでほしくないっていう、わたしのわがままだ。
「わたしはっ、何でかわからないけれど、宿祢に死んでほしくない」
「しかし、このままでは冬殿も殺されてしまうかも…」
「それでも!それでも、わたしは…」
握る手に力を込めた。
なんて言えばいいのかよくわからなくて。
自分の気持ちなのに、全然わからなくて。
このほうが、伝わる気がしたから。
「わたしは、宿祢に生きていてほしい」
「冬殿…」
「だって宿祢は、七草冬になってから、初めて仲良くなった人だから」
七草冬として初めて出会った人で、初めて仲良くなった人。
あ、人じゃなくて天狗か。
わたしが女中の『冬』から『七草冬』になって、初めて出会った知らない人。
初めて仲良くなって、助けたいって、力になりたいって、心から思った人。
今のわたしには、こうやって宿祢の手を引っ張って逃げる事しかできないけれど。
それでも、わたしに出来る精一杯で宿祢を守りたい。

どれくらい走ったかわからないけれど、ついでに言うならばここがどこかもわからないけれど、いつの間にか回り込まれていたらしく、木々の間から天狗の姿がちらほら見える。
「冬殿、向こうはダメだ」
『こっちも駄目よ』
「じゃあこっち!」
限られた選択肢の中で走っていると、突然視界が開けた。
勢いよく飛び出したわたし達は、慌てて足を止める。
目の前に道はなく、というか地面がない。
どうやら崖に出てしまったみたい。
霧のせいで高さは分からないけれど、たぶん落ちたら一貫の終わりだと思う。
来た道を戻ろうと振り返ると、天狗達が木々の間から現れた。
もしかして、誘導されたのかな?
「宿祢、大人しくこちらに来い。そうすれば娘は見逃してやろう」
「…どうやら、ここまでのようだな」
「諦めちゃだめだよ!」
わたしを庇うように宿祢が前に出た。
どうしよう、このままじゃ宿祢が…。
『わたしに戦う力があれば…』
幽霊のお姉さんが悔しそうに爪を噛んだ。
お姉さんにはたくさん助言をしてもらった。
迦楼羅丸様にも助けてもらっている。
宿祢はわたしを守ろうとして捕まろうとしている。
わたし、みんなに助けてもらってばかりだよ。
せめて、宿祢だけは、わたしの手で守りたい。
なにかないかと周囲を見回すと、崖下のわりと低い位置に気が生えているのが見えた。
あの木に飛び移れれば、天狗達の目をごまかせないかな?
霧も濃いし、うまくいくかわからないけれど。
「宿祢、その羽は、飾りじゃないよね」
「う、うむ。ちゃんと空は飛べる」
気づかれないように小声で確認する。
怪我をしている宿祢には酷かもしれないけれど、この際そんな事言っていられないよ。
「投降しないというのなら、こちらから行くぞ!」
天狗の一人が、刀を抜いて迫ってきた。
もう時間がない!
一か八かだぁぁぁぁ!!!
「てりゃぁぁぁぁ!!」
「へ?…うわぁぁぁぁ!!」
『冬!?』
「何!?」
わたしは宿祢を引っ張って崖から飛び降りた。
宿祢は絶対に、殺させないんだから!
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