35 / 103
第弐幕 宿祢
第十九話
しおりを挟む
しっかりと地面を踏みしめている感触がある。
目を開けば、目の前には宿祢が倒れていて、傍には光を失った珠が転がっていた。
どこも痛くない。
宿祢が、命と引き換えに助けてくれたから。
幽霊のお姉さんが、迦楼羅丸様が、ただわたしを、わたしと宿祢を見ている。
宿祢はわたしに姫巫女になる夢を叶えてと言った。
ならわたしは、宿祢の為にも絶対に姫巫女になる。
その為に今やらなければいけない事は、听穣達と戦う事じゃない。
わたしは転がっていた珠を手に取り、听穣の元へ歩く。
「これが、探していた落魂珠ですよね」
「あ、ああ…」
「これがあれば、わざわざ宿祢の首を持っていかなくてもいいですよね。だって宿祢は、この落魂珠で命を繋いでいたのだから」
「…どういう意味だ?」
「そのままの意味です。落魂珠を失った宿祢はもう、助かりません。助けたくても、助けられないんです」
「……」
「詳しい事が知りたければ、当主さんに聞いてください。わたしはただ『視た』だけだから」
「…わかった」
納得はしていないようだったけれど、听穣はそれ以上追及してこなかった。
刀を収め、わたしから落魂珠を受け取る。
「戻るぞ、洛穣」
「あ、ああ…」
わたしと宿祢を交互に見た後、洛穣は頷いた。
「捕まえたほかの天狗達は、ここから西の洞窟にいます」
「わかった。じゃあな、嬢ちゃん。二度と会わない事を願うぜ」
そういうと、听穣は洛穣を連れて去って行った。
「小娘…」
『冬…』
迦楼羅丸様と幽霊のお姉さんが同時に声をかけてきた。
泣かないようにと気を張っていたけれど、二人の前なら泣いてもいいかな。
「宿祢がね、わたしを、助けてくれたの。でもね、そのせいで宿祢が死んじゃった」
不思議な空間から目覚める時、不思議な光景が見えた。
それは幼い宿祢だった。
大勢の天狗達に囲まれた小さな宿祢は、傷だらけになりながら必死に逃げていた。
逃げ込んだ先にいた女性天狗に宿祢は刺されて、わたしを庇った時と同じように大量に血が出ていた。
着物は真っ赤に染まり、もう助からないのが一目でわかった。
女性は嬉々としてその場を去り、入れ違いにやってきた男性天狗は絶望の表情を浮かべていた。
宿祢を抱きしめて、何度もその名を呼ぶ。
どこか宿祢に似ていたからきっとその人は宿祢のお父様なのだろう。
男性は宿祢を床に寝かせると、何やら唱え始めた。
海のように青く輝く光の珠が現れ、宿祢の体に吸い込まれるように消えていく。
するとあんなにもたくさんあった傷が、すべて綺麗に治ってしまった。
ゆっくりと目を開けた宿祢に手にしていた錫杖を渡し、男性は里から逃がした。
宿祢の過去を、わたしは垣間見たらしい。
過去のはずなのに、男性と目が合った。
『拙者の落魂珠であの子の命を繋いだ。どうか、あの子を助けてあげてほしい』
はっきりと、そう聞こえた。
過去に干渉したわけじゃないのに、確かに聞こえた。
それはきっと、夢でも幻でも嘘でもない。
確かに宿祢は、あの落魂珠で命を繋いでいた。
そしてその力を、わたしに使ってくれた。
自分が死んでしまうのも構わずに。
「わたし、結局宿祢を助けてあげられなかった…」
今までずっと堪こらえていた涙が、ついに零こぼれた。
宿祢のそばに座る。
揺さぶっても、反応はない。
わたしが、宿祢を殺したんだ。
「ごめんね、宿祢…。ごめんね」
次から次へと溢れてくる涙を抑える事が出来ない。
ありがとうって言わなければいけない事はわかってる。
助けてくれてありがとうって。
でも、でも…。
『諦めるのはまだ早いわ』
「諦めるのはまだ早いぞ」
二人が同時に言う。
その言葉にハッとなって顔を上げた。
「どういう事?」
「微かだが、まだ妖力を感じる。今ならまだ間に合う」
『宿祢に霊力を注ぐのよ』
「こいつの失われた妖力の代わりに、お前の霊力で満たしてやるんだ」
『そうすれば助かる確率がぐんと上がるわ』
「霊力を注げば、宿祢を助けられるの!?」
「やらないで後悔するよりも」
『やってから後悔したいのでしょう』
「うん!」
宿祢を助けられるなら、少しでも可能性があるのなら、やらない価値はない!
大きく息を吸って深呼吸をする。
気持ちを落ち着けて、ゆっくりと体を水が流れているイメージ。
そしてその水を注ぐイメージ。
神託の時と同じように、今度は落ち着いて。
ちゃんと宿祢に届くように。
ゆっくりとだけど、わたしの中から何かが宿祢に流れていくのを感じた。
これがわたしの霊力なのかどうかわからないけれど、なんでもいい。
宿祢、わたしね、もう一度宿祢の笑顔が見たいよ。
目を開けば、目の前には宿祢が倒れていて、傍には光を失った珠が転がっていた。
どこも痛くない。
宿祢が、命と引き換えに助けてくれたから。
幽霊のお姉さんが、迦楼羅丸様が、ただわたしを、わたしと宿祢を見ている。
宿祢はわたしに姫巫女になる夢を叶えてと言った。
ならわたしは、宿祢の為にも絶対に姫巫女になる。
その為に今やらなければいけない事は、听穣達と戦う事じゃない。
わたしは転がっていた珠を手に取り、听穣の元へ歩く。
「これが、探していた落魂珠ですよね」
「あ、ああ…」
「これがあれば、わざわざ宿祢の首を持っていかなくてもいいですよね。だって宿祢は、この落魂珠で命を繋いでいたのだから」
「…どういう意味だ?」
「そのままの意味です。落魂珠を失った宿祢はもう、助かりません。助けたくても、助けられないんです」
「……」
「詳しい事が知りたければ、当主さんに聞いてください。わたしはただ『視た』だけだから」
「…わかった」
納得はしていないようだったけれど、听穣はそれ以上追及してこなかった。
刀を収め、わたしから落魂珠を受け取る。
「戻るぞ、洛穣」
「あ、ああ…」
わたしと宿祢を交互に見た後、洛穣は頷いた。
「捕まえたほかの天狗達は、ここから西の洞窟にいます」
「わかった。じゃあな、嬢ちゃん。二度と会わない事を願うぜ」
そういうと、听穣は洛穣を連れて去って行った。
「小娘…」
『冬…』
迦楼羅丸様と幽霊のお姉さんが同時に声をかけてきた。
泣かないようにと気を張っていたけれど、二人の前なら泣いてもいいかな。
「宿祢がね、わたしを、助けてくれたの。でもね、そのせいで宿祢が死んじゃった」
不思議な空間から目覚める時、不思議な光景が見えた。
それは幼い宿祢だった。
大勢の天狗達に囲まれた小さな宿祢は、傷だらけになりながら必死に逃げていた。
逃げ込んだ先にいた女性天狗に宿祢は刺されて、わたしを庇った時と同じように大量に血が出ていた。
着物は真っ赤に染まり、もう助からないのが一目でわかった。
女性は嬉々としてその場を去り、入れ違いにやってきた男性天狗は絶望の表情を浮かべていた。
宿祢を抱きしめて、何度もその名を呼ぶ。
どこか宿祢に似ていたからきっとその人は宿祢のお父様なのだろう。
男性は宿祢を床に寝かせると、何やら唱え始めた。
海のように青く輝く光の珠が現れ、宿祢の体に吸い込まれるように消えていく。
するとあんなにもたくさんあった傷が、すべて綺麗に治ってしまった。
ゆっくりと目を開けた宿祢に手にしていた錫杖を渡し、男性は里から逃がした。
宿祢の過去を、わたしは垣間見たらしい。
過去のはずなのに、男性と目が合った。
『拙者の落魂珠であの子の命を繋いだ。どうか、あの子を助けてあげてほしい』
はっきりと、そう聞こえた。
過去に干渉したわけじゃないのに、確かに聞こえた。
それはきっと、夢でも幻でも嘘でもない。
確かに宿祢は、あの落魂珠で命を繋いでいた。
そしてその力を、わたしに使ってくれた。
自分が死んでしまうのも構わずに。
「わたし、結局宿祢を助けてあげられなかった…」
今までずっと堪こらえていた涙が、ついに零こぼれた。
宿祢のそばに座る。
揺さぶっても、反応はない。
わたしが、宿祢を殺したんだ。
「ごめんね、宿祢…。ごめんね」
次から次へと溢れてくる涙を抑える事が出来ない。
ありがとうって言わなければいけない事はわかってる。
助けてくれてありがとうって。
でも、でも…。
『諦めるのはまだ早いわ』
「諦めるのはまだ早いぞ」
二人が同時に言う。
その言葉にハッとなって顔を上げた。
「どういう事?」
「微かだが、まだ妖力を感じる。今ならまだ間に合う」
『宿祢に霊力を注ぐのよ』
「こいつの失われた妖力の代わりに、お前の霊力で満たしてやるんだ」
『そうすれば助かる確率がぐんと上がるわ』
「霊力を注げば、宿祢を助けられるの!?」
「やらないで後悔するよりも」
『やってから後悔したいのでしょう』
「うん!」
宿祢を助けられるなら、少しでも可能性があるのなら、やらない価値はない!
大きく息を吸って深呼吸をする。
気持ちを落ち着けて、ゆっくりと体を水が流れているイメージ。
そしてその水を注ぐイメージ。
神託の時と同じように、今度は落ち着いて。
ちゃんと宿祢に届くように。
ゆっくりとだけど、わたしの中から何かが宿祢に流れていくのを感じた。
これがわたしの霊力なのかどうかわからないけれど、なんでもいい。
宿祢、わたしね、もう一度宿祢の笑顔が見たいよ。
0
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる