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第四幕 愉比拿蛇
第九話
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秋桜館に向かう途中、向こうからやってくる人物を見て嬉しくなる。
「誠士郎さん、弥生さん」
「おや、冬さん。奇遇ですね」
「あんた、まだこんなところに居たの?」
「充実様に制御の宝玉をお借りしてきたところです」
「そうでしたか、頑張ってくださいね」
「はい」
「いやいや、のんきな事言ってないで、さっさと行きなさいよ。正午までに間に合わないわよ」
やれやれと言った感じで弥生さんがため息をつく。
そうだった、ゆっくりなんてしてられなかったんだわ。
「それじゃあわたし行きますね」
「お気をつけて」
ぺこりと頭を下げたわたしに誠士郎さんが軽く手を振ってくれた。
誠士郎さんに元気をもらったし、いざ霊嘩山へ!
『冬ー』
そう思ったわたしに遠くの方から幽霊のお姉さんの声が届く。
「ほえ?」
きょろきょろとあたりを見回してもお姉さんの姿はない。
うーん、気のせいかな?
「冬殿?どうなされたでござるか?」
「お姉さんの声が聞こえたんだけど、見当たらなくて…」
「お姉さん殿は確か、ずっと姿が見えぬと…」
「そうなんだよね。この二週間ずっと見てないんだよ」
「迦楼羅丸殿と同じでござるな」
宿祢の言う通りで、お姉さんと迦楼羅丸様はこの二週間姿を見ていない。
見ていないというか、顔を合わせていないというか…。
どこかにふらっと出かける後ろ姿だけを見るというのが、この二週間の二人。
二人にも手伝ってもらって冬の宝珠を制御できるようにしたかったんだけどなぁ。
宿祢は迦楼羅丸様に稽古をつけてもらいたかったらしいけど、わたしと同じでどこかに出かける後ろ姿だけしか見れなかったんだって。
『冬ー』
まただ。
声はさっきよりも近づいている。
一体どこにいるんだろう?
辺りを見回して、ようやく声が上から聞こえているのがわかった。
「お姉さん。今までどこに…」
『そんな事よりも、弥生に伝えてほしい事があるの』
「弥生さんに?」
『とても重要な事なのよ』
「わかったわ。…弥生さん、待って!」
わたしは小走りで弥生さんの元に駆け寄り、お姉さんの通訳をする。
『弥生、あなたは浮遊霊を使役する力に長けているのでしょう?もしも愉比拿蛇が復活するような事態になったなら、貴女は真っ先に狙われるわ』
「え?どういう事?」
『愉比拿蛇は霊体を取り込むの。捕食する、とでも表現するべきかしら』
「捕食…。つまり、あたしは『使役する霊を失って対抗手段を無くす』とでも言いたい訳かしら?」
『それだけじゃないわ。愉比拿蛇は肉体から魂魄…つまり魂を抜き取る事が出来るの。啼々鏡はその特性故、幽体離脱し易いと聞くわ。強制的に魂魄と肉体が切り離される可能性が一番高いの』
「そう、覚えておくわ」
お姉さんの説明を聞いた弥生さんは、驚くどころか平然と受け止めたみたいで、わたしが想像していたよりもあっさりとした返答だった。
わたしのように理解しきれていないなんて事はないはずだから、お姉さんの言いたいことぐらいわかるはずなのに…。
「弥生さん、参加するの?」
「当然よ。あたしは姫守なのよ、この日の為に頑張ってきたんだから」
「でも、危ないんでしょ?わたしバカだけど、弥生さんが真っ先に狙われるかもしれないって事はわかったよ。霊を操る弥生さんを狙えば、霊が食べ放題だもん」
「食べ放題って、どこのバイキングよ。忠告はちゃんと覚えておくわよ。それに、幽霊のお姉さんとやらも、あたしを止めるつもりはないと思うけど?」
「え?そうなの?」
『止めたところで、彼女は聞かないでしょうね』
「そんな…」
「いい?姫巫女ってのは命懸けの仕事なの。あんたも目指す以上、肝に銘じておきなさい」
じゃあね、といって弥生さんはさっさと歩き出してしまった。
「じゃあ、弥生さんがピンチになったらわたしが必ず助けに行くから!」
「はいはい」
その背に叫べばひらひらと手を振ってくれた。
「ご忠告、ありがとうございます。弥生は弥生なりに矜持を持っていますから、それに沿わない事は簡単には受け入れられないでしょう」
「誠士郎さん…」
「それでも、あの子の身を案じてくれた冬さん達にはお礼申し上げます。弥生は自分の仕事をちゃんとやる子です。冬さんも、あの子に負けないように自分の役割を果たしてください」
そういって誠士郎さんは軽く頭を下げた後に弥生さんの後を追って歩き出した。
「冬殿、誠士郎殿の言う通りでござる。拙者達が頑張らねば愉比拿蛇が復活する可能性は高まり、その分弥生殿が危機に晒される可能性も高くなるでござるよ」
「そっか…。そうだね。わたしはわたしに出来る事をまずはやらなくちゃいけないんだよね。お姉さんが弥生さんに忠告したように」
『今の私にはこれくらいしかできないから。冬、伝えてくれてありがとう』
「ううん。わたしこそ、改めて頑張らなくっちゃ!て思えたよ。行こう」
わたしは宿祢とお姉さんと共に歩き出す。
お姉さんが二週間何をしていたのかは聞かなかったけれど、もしかしたら弥生さんやみんなの事を案じて色々調べてくれていたのかもしれない。
秋桜館の門前には迦楼羅丸様がいてわたし達を待っていてくれた。
何かを決意したみたいで顔は険しい。
ただ一言「一緒に行く」とだけしか言ってくれなかったけど、それだけで嬉しかった。
わたし、今回は宿祢と二人だけなのかなって思ってたから。
もちろん宿祢の事は頼りにしているし、二人で二週間頑張って修行したおかげで連携とかとれるようにもなった。
けどやっぱり二人ともお姉さんと迦楼羅丸様がいないと少し不安でどうしようかなって思っていたんだよね。
わたし達の準備は整った。
後は霊嘩山の頂上にある石柱に制御石をはめて、正午になったら里全体に結界を張るだけ。
この結界が上手くいくかで今後が決まる。
愉比拿蛇が復活するのか否か、いすゞの里やみんなに危機が訪れるのかどうかはわたし達にかかってるんだ。
わたしは三人に向けて手を差し出して宣言する。
「わたしはわたしに出来る事を全力でやるってここに誓う。負けないし、挫けないし、諦めない。だからみんな、わたしに力を貸してください」
「もちろんでござる」
『当たり前じゃない』
「言うまでもない」
差し出した手に宿祢が、お姉さんが、迦楼羅丸様が、手を重ねてくれた。
「最後まで全力で頑張ろう!」
「御意!」『ええ!』「ああ!」
「誠士郎さん、弥生さん」
「おや、冬さん。奇遇ですね」
「あんた、まだこんなところに居たの?」
「充実様に制御の宝玉をお借りしてきたところです」
「そうでしたか、頑張ってくださいね」
「はい」
「いやいや、のんきな事言ってないで、さっさと行きなさいよ。正午までに間に合わないわよ」
やれやれと言った感じで弥生さんがため息をつく。
そうだった、ゆっくりなんてしてられなかったんだわ。
「それじゃあわたし行きますね」
「お気をつけて」
ぺこりと頭を下げたわたしに誠士郎さんが軽く手を振ってくれた。
誠士郎さんに元気をもらったし、いざ霊嘩山へ!
『冬ー』
そう思ったわたしに遠くの方から幽霊のお姉さんの声が届く。
「ほえ?」
きょろきょろとあたりを見回してもお姉さんの姿はない。
うーん、気のせいかな?
「冬殿?どうなされたでござるか?」
「お姉さんの声が聞こえたんだけど、見当たらなくて…」
「お姉さん殿は確か、ずっと姿が見えぬと…」
「そうなんだよね。この二週間ずっと見てないんだよ」
「迦楼羅丸殿と同じでござるな」
宿祢の言う通りで、お姉さんと迦楼羅丸様はこの二週間姿を見ていない。
見ていないというか、顔を合わせていないというか…。
どこかにふらっと出かける後ろ姿だけを見るというのが、この二週間の二人。
二人にも手伝ってもらって冬の宝珠を制御できるようにしたかったんだけどなぁ。
宿祢は迦楼羅丸様に稽古をつけてもらいたかったらしいけど、わたしと同じでどこかに出かける後ろ姿だけしか見れなかったんだって。
『冬ー』
まただ。
声はさっきよりも近づいている。
一体どこにいるんだろう?
辺りを見回して、ようやく声が上から聞こえているのがわかった。
「お姉さん。今までどこに…」
『そんな事よりも、弥生に伝えてほしい事があるの』
「弥生さんに?」
『とても重要な事なのよ』
「わかったわ。…弥生さん、待って!」
わたしは小走りで弥生さんの元に駆け寄り、お姉さんの通訳をする。
『弥生、あなたは浮遊霊を使役する力に長けているのでしょう?もしも愉比拿蛇が復活するような事態になったなら、貴女は真っ先に狙われるわ』
「え?どういう事?」
『愉比拿蛇は霊体を取り込むの。捕食する、とでも表現するべきかしら』
「捕食…。つまり、あたしは『使役する霊を失って対抗手段を無くす』とでも言いたい訳かしら?」
『それだけじゃないわ。愉比拿蛇は肉体から魂魄…つまり魂を抜き取る事が出来るの。啼々鏡はその特性故、幽体離脱し易いと聞くわ。強制的に魂魄と肉体が切り離される可能性が一番高いの』
「そう、覚えておくわ」
お姉さんの説明を聞いた弥生さんは、驚くどころか平然と受け止めたみたいで、わたしが想像していたよりもあっさりとした返答だった。
わたしのように理解しきれていないなんて事はないはずだから、お姉さんの言いたいことぐらいわかるはずなのに…。
「弥生さん、参加するの?」
「当然よ。あたしは姫守なのよ、この日の為に頑張ってきたんだから」
「でも、危ないんでしょ?わたしバカだけど、弥生さんが真っ先に狙われるかもしれないって事はわかったよ。霊を操る弥生さんを狙えば、霊が食べ放題だもん」
「食べ放題って、どこのバイキングよ。忠告はちゃんと覚えておくわよ。それに、幽霊のお姉さんとやらも、あたしを止めるつもりはないと思うけど?」
「え?そうなの?」
『止めたところで、彼女は聞かないでしょうね』
「そんな…」
「いい?姫巫女ってのは命懸けの仕事なの。あんたも目指す以上、肝に銘じておきなさい」
じゃあね、といって弥生さんはさっさと歩き出してしまった。
「じゃあ、弥生さんがピンチになったらわたしが必ず助けに行くから!」
「はいはい」
その背に叫べばひらひらと手を振ってくれた。
「ご忠告、ありがとうございます。弥生は弥生なりに矜持を持っていますから、それに沿わない事は簡単には受け入れられないでしょう」
「誠士郎さん…」
「それでも、あの子の身を案じてくれた冬さん達にはお礼申し上げます。弥生は自分の仕事をちゃんとやる子です。冬さんも、あの子に負けないように自分の役割を果たしてください」
そういって誠士郎さんは軽く頭を下げた後に弥生さんの後を追って歩き出した。
「冬殿、誠士郎殿の言う通りでござる。拙者達が頑張らねば愉比拿蛇が復活する可能性は高まり、その分弥生殿が危機に晒される可能性も高くなるでござるよ」
「そっか…。そうだね。わたしはわたしに出来る事をまずはやらなくちゃいけないんだよね。お姉さんが弥生さんに忠告したように」
『今の私にはこれくらいしかできないから。冬、伝えてくれてありがとう』
「ううん。わたしこそ、改めて頑張らなくっちゃ!て思えたよ。行こう」
わたしは宿祢とお姉さんと共に歩き出す。
お姉さんが二週間何をしていたのかは聞かなかったけれど、もしかしたら弥生さんやみんなの事を案じて色々調べてくれていたのかもしれない。
秋桜館の門前には迦楼羅丸様がいてわたし達を待っていてくれた。
何かを決意したみたいで顔は険しい。
ただ一言「一緒に行く」とだけしか言ってくれなかったけど、それだけで嬉しかった。
わたし、今回は宿祢と二人だけなのかなって思ってたから。
もちろん宿祢の事は頼りにしているし、二人で二週間頑張って修行したおかげで連携とかとれるようにもなった。
けどやっぱり二人ともお姉さんと迦楼羅丸様がいないと少し不安でどうしようかなって思っていたんだよね。
わたし達の準備は整った。
後は霊嘩山の頂上にある石柱に制御石をはめて、正午になったら里全体に結界を張るだけ。
この結界が上手くいくかで今後が決まる。
愉比拿蛇が復活するのか否か、いすゞの里やみんなに危機が訪れるのかどうかはわたし達にかかってるんだ。
わたしは三人に向けて手を差し出して宣言する。
「わたしはわたしに出来る事を全力でやるってここに誓う。負けないし、挫けないし、諦めない。だからみんな、わたしに力を貸してください」
「もちろんでござる」
『当たり前じゃない』
「言うまでもない」
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「最後まで全力で頑張ろう!」
「御意!」『ええ!』「ああ!」
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