四季の姫巫女(完結)

襟川竜

文字の大きさ
79 / 103
第四幕 愉比拿蛇

第十八話

しおりを挟む
里の南西に人が誰も住んでいなくて荒れてしまった屋敷があるんだけど、そこの庭が集合の場所だった。
そこにたどり着くとすでに誠士郎さんの言う『合図』に霊魂達がたくさん集まってきていた。
さっきまでの比じゃないくらいにたくさんの霊魂で埋め尽くされているといっても良いくらい。
そんな霊魂集団の一カ所が大きく切り裂かれた。
現れたのは、なんと八彦。
両手に変わった型の短刀を手にしている。
体を回転させて二本の短刀で群がった霊魂を切り裂いたみたい。
霊魂を斬れたってことは、あれって霊具なのかな?
いつものドジっ子感はカケラも感じない。
なんだか八彦がかっこよく見える。
そんな八彦の背後に迫った霊魂の一団を銃弾が消し去る。
群青色の長い髪が風に揺れた。
顔はイケメンなんだけど、衣装がなんだか遊び人風。
どこかで見たことがある気がするんだけど…。
うーん、名前が思い出せないよ。
青年というよりは中年に近づきつつある男性は誠士郎さんと同じ拳銃を使っている。
乱戦状態なのに混乱しているように見えないのは、きっと統率が取れているからかも。
目の前の敵を倒すことに専念しているように見えるものの、実際には互いにどこにいるのか把握しているみたいで、お互いの死角を補い合っている。
八彦の背中を男性が守っているように、男性の背中をまた別の男性が守っていた。
良く言えばお相撲さん、悪く言えば肥満体質、はっきり言えばおデブさん。
そんな見たことのない人が、なんと素手で霊魂を殴りつけていた。
倒せるってことは素手に見えてなにか仕掛けがあるのかも。
正直に言ってイケメンには程遠いおデブさんの背後を木虎様が軽々と舞いながら守っていた。
何かを投げているようで、時折キラリと反射して輝いている。
四人の動きは、はっきり言って姫巫女達とは全然違う。
冷静で、なんだか迦楼羅丸の戦い方に似てる。
戦い慣れている、と言えばいいのかな。
姫巫女達はパニックを起こしながら戦っていたみたいで、見ていてちょっと心配な感じだったもの。
隙があるように見えて隙がない。
見惚れちゃうくらいにカッコイイ。
なんていうか、わたし達が下手に手を出したらかえって足を引っ張りそう。
足を止めてしまったわたし達をよそに、誠士郎さんが銃口を向けた。
そしてためらいもなく引き金を引く。
銃弾は四人の隙間を抜け、その奥を露わにする。
消し飛んだ霊魂の先に人の姿が見えた。
座っている人達と立って刀で牽制している人。
どんなに遠く離れていても誰なのかすぐにわかって、わたしは弓を引き絞った。
お願い、冬の宝珠。
今のわたしに使える程度でいいから力を貸して!
「冬空に咲け」
わたしのその言葉に、霊具の弓がパキパキと凍り始めた。
周囲に雪の結晶が舞い始める。
これなら、できるわ!
「氷華流星弓!」
雪の結晶を引きつれ、矢が飛ぶ。
壁になりつつあった霊魂の一団に大きな穴をあけ、矢は一筋の軌跡を描いた。
矢と結晶に触れた霊魂は一瞬凍り、砕けると同時に浄化されていく。
突然現れた乱入者に驚いたのか霊魂達も八彦達も動きを止めた。
それをいい事にわたしは真っ直ぐに駆け寄る。
「秋ちゃん!」
「冬?」
勢いよく飛びつけば、不思議そうな声を出しつつもしっかりと受け止めて頭を撫でてくれた。
「どうしてここに?というか、よく僕だってわかったね」
「え?」
そういわれてまじまじと秋ちゃんを見る。
いつもの着物と違いなぜか男性用の着物を着ている。
いつもは首元でゆるく結んでいる髪も、高くポニーテールにしている。
確かにいつもと違うけど、わたしがあげた髪飾りはいつも通りついてるし、なによりわたしが秋ちゃんを間違えるはずがない!
「だって秋ちゃんは秋ちゃんだもん。それよりも、わたし達みんなを助けに来たんだよ」
「結界はどうしたの?維持はされているみたいだけれど…」
「秋ちゃんの知り合いだって言う鬼さんが代わってくれたんだよ」
「いつの間に…」
驚いたような呆れたような、なんだかよくわからない表情を浮かべたけど、秋ちゃんはすぐに背後を振り返る。
その視線を追ってわたしも目を向けた。
「結依ちゃん!?」
「冬…」
「え?え?何で結依ちゃんが?泰時様と虎丸様も何でここに?」
秋ちゃんの後ろには座り込んでいる結依ちゃんと、怪我をしているらしく肩を押さえている泰時様、その泰時様を心配そうに見ている虎丸様がいた。
「やっぱりボク達はついでか」
「そ、そういう訳じゃ…。だって、結依ちゃんはてっきり避難したんだと」
「そ、それは…」
わたしが聞けば結依ちゃんは俯いてしまった。
まさか、怪我をして動けないとか?
動けなくて逃げ遅れたとか?
見たところ怪我をしているようには見えないけど、足をくじいたって可能性も…。
「心配するな、こいつは避難誘導をしていただけだ」
「結依さんかっこよかったでやんすよ。勇敢にも霊魂に立ち向かったんでやすから」
ふん、と鼻を鳴らした泰時様とは対照的に虎丸様はまるで自分の手柄のように結依ちゃんを褒めてくれた。
だけど結依ちゃんは嬉しそうじゃない。
どちらかというと、申し訳なさそうな顔をしている。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

『segakiyui短編集』

segakiyui
ファンタジー
世界の片隅の小さなお話へようこそ。毎月10日と20日に連載。 メルマガ『Segakiyui’s World』連載終了話を含みます。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

処理中です...