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第四幕 愉比拿蛇
第二〇話
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「我は願う、炎の守護からの解放を。我は願う、雷の呪縛からの解放を」
秋ちゃんの足元から風が吹き上がり、着物を揺らした。
風に遊ばれてポニーテールが逆立つ。
すると秋ちゃんの髪が若草色から新雪のような純白へと変わっていった。
男装していても直ぐに秋ちゃんだってわかったのに、白い秋ちゃんはなんだかわたしの知らない人のように見える。
「啼々識織に創られし四季を宿す宝珠よ、我が呼びかけに応えよ。我は『七草』の血を継ぎ、『啼々莽』の名を継ぐ者なり」
わたしや結依ちゃん、泰時様を包んでいた四季を象徴する結晶や光が、秋ちゃんの元に集まっていく。
秋ちゃんは胸の前で両手の平を合わせると、右手を握った。
そしてゆっくりと動かす。
まるで左の手の平から何かを抜こうとしているかのよう。
ううん、抜こうとしているんじゃない。
本当に抜いた。
光輝くそれは、雷を身にまとった一振りの刀。
すぐに霊具だとわかるその刀は一片の曇りもなく、誇り高く輝いている。
「我が力を使い謳歌せよ。四季彩讃歌・春夏秋冬!」
気高い刀が地面に突き刺さる。
秋ちゃんの掛け声と共に四季の象徴が秋ちゃんを中心として円形に吹き荒れた。
花びら、蛍、木の葉、雪。
本来ならば交わる事のないそれらが、次々と吹き荒れて霊魂を浄化していく。
吹き荒れているのにわたしには爽やかな優しい風に感じられた。
だって、勢いよく飛んでいるのに服や髪はほとんど乱れないんだもん。
浄化された霊魂は声らしき音を発してはいるけれど、苦しんでいる訳ではなさそう。
だって、その声はとても穏やかに聞こえたから。
心の底から浄化を喜んでいるような、そんな感じ。
すごく綺麗で、幻想的。
どんな言葉を並べればいいのかわからなくなるくらい素敵な四季の嵐は、長いようで短い間吹き荒れた。
後に残ったのはわたし達だけ。
あんなにたくさん溢れていた霊魂達はひとつ残らず浄化されたみたい。
「すごい…」
そう呟いたのはわたしだったのか、他の誰かだったのか。
幻想的な光景に心を奪われていたわたしは、その声で秋ちゃんへと視線を戻した。
何事もなく凛々しく立つその背中が、いつもよりも大きく逞しく思える。
秋ちゃんが誠士郎さんのような素敵な殿方に見えた。
「あき…」
声をかけようと一歩踏み出した時だった。
ぐらりと秋ちゃんの体が傾く。
そのまま前方に倒れこもうとした体を炎が包んだ。
炎はすぐに消え、代わりに霊嘩山で出会ったあの少年鬼が倒れた秋ちゃんを片膝ついて支える。
秋ちゃんの額あたりに手をかざして何やら呟くと、純白の髪がいつも通りの若草色に戻った。
「秋ちゃん!?」
慌てて駆け寄るけど、秋ちゃんは目を閉じたまま返事をしない。
「寝てるだけだ、心配ない」
少年鬼の言う通りで、秋ちゃんは静かに寝息を立てていた。
ほっと胸をなでおろすわたしをよそに、少年鬼はおデブさんに声をかける。
「七伏、変換してくれ」
「わぁってるよ。八彦、新左エ門、木虎、ぶっ倒れるまで寄越せ」
「もちろんっす」「当然」「当たり前でさぁ」
七伏と呼ばれたおデブさんは秋ちゃんの手を取ると、もう片方の手を三人に差し出した。
八彦達がその手に自分達の手を重ねる。
すると三人の体から微かにモヤのようなものが現れ、七伏さんを通して秋ちゃんに流れ込んでいく。
あれはもしかしたら三人の霊力なのかもしれない。
なんとなくだけど、わたしの直感がそう告げている。
「冬さん、まだ動けますか?」
「は、はい」
「泰時君達も、できれば手を貸してください」
いつの間にか傍に来ていた誠士郎さんがわたし達へと声をかける。
「里に溢れた霊魂は今ので全て浄化できたはずです。ですが、浄化しきれなかった霊魂がまだ残っているかもしれません。私達で手分けして確認しましょう」
「本当に、すべて浄化したんでやすか?」
まだぽかんとした表情のままで虎丸様が尋ねる。
霊魂は見えないし嫌な気配もないけど、確かに全部浄化されたとはにわかには信じられない。
でもあの力を見ちゃうと本当に全部浄化されててもおかしくはないかも。
「確認すればわかるだろう」
そういって泰時様が立ち上がる。
やっぱり怪我をしていたみたいで、立ち上がる際に少し顔を歪めた。
「では私はこちらから調べます。泰時君は向こうを、冬さんはあちらをお願いします」
「ああ」「わかりました」
わたしと泰時様が頷くと、結依ちゃんが手を挙げた。
「あの、私は…?」
「危険があるかもしれません、ここに残っていてください」
「でも…」
「そうだよ結依ちゃん、霊魂の浄化は霊具じゃないとできないんだから」
「……」
わたしがそう言えば、結依ちゃんは少し悔しそうな顔になった。
それを見て虎丸様が遠慮がちに手を上げる。
「あ、あっしが一緒に行きやす。それなら問題ないでやすよね」
「…そうですね、虎丸君は霊具が使えますし」
「一応、だがな」
「う、うるさいでやす」
「猫の手も借りたいですからね、お願いします」
「はい、ありがとうございます」「ま、任せてくだせぇ」
嬉しそうにうなずいた結依ちゃんとは対照的に、虎丸様はがちがちに緊張していた。
それを見て泰時様がため息をつく。
「それでは、調べ終わったらまたここに戻って来てください」
「はい」「ああ」「わかりました」「は、はいっ」
誠士郎さんに返事をして、わたしは宿祢達と一緒にその場を離れた。
秋ちゃんの足元から風が吹き上がり、着物を揺らした。
風に遊ばれてポニーテールが逆立つ。
すると秋ちゃんの髪が若草色から新雪のような純白へと変わっていった。
男装していても直ぐに秋ちゃんだってわかったのに、白い秋ちゃんはなんだかわたしの知らない人のように見える。
「啼々識織に創られし四季を宿す宝珠よ、我が呼びかけに応えよ。我は『七草』の血を継ぎ、『啼々莽』の名を継ぐ者なり」
わたしや結依ちゃん、泰時様を包んでいた四季を象徴する結晶や光が、秋ちゃんの元に集まっていく。
秋ちゃんは胸の前で両手の平を合わせると、右手を握った。
そしてゆっくりと動かす。
まるで左の手の平から何かを抜こうとしているかのよう。
ううん、抜こうとしているんじゃない。
本当に抜いた。
光輝くそれは、雷を身にまとった一振りの刀。
すぐに霊具だとわかるその刀は一片の曇りもなく、誇り高く輝いている。
「我が力を使い謳歌せよ。四季彩讃歌・春夏秋冬!」
気高い刀が地面に突き刺さる。
秋ちゃんの掛け声と共に四季の象徴が秋ちゃんを中心として円形に吹き荒れた。
花びら、蛍、木の葉、雪。
本来ならば交わる事のないそれらが、次々と吹き荒れて霊魂を浄化していく。
吹き荒れているのにわたしには爽やかな優しい風に感じられた。
だって、勢いよく飛んでいるのに服や髪はほとんど乱れないんだもん。
浄化された霊魂は声らしき音を発してはいるけれど、苦しんでいる訳ではなさそう。
だって、その声はとても穏やかに聞こえたから。
心の底から浄化を喜んでいるような、そんな感じ。
すごく綺麗で、幻想的。
どんな言葉を並べればいいのかわからなくなるくらい素敵な四季の嵐は、長いようで短い間吹き荒れた。
後に残ったのはわたし達だけ。
あんなにたくさん溢れていた霊魂達はひとつ残らず浄化されたみたい。
「すごい…」
そう呟いたのはわたしだったのか、他の誰かだったのか。
幻想的な光景に心を奪われていたわたしは、その声で秋ちゃんへと視線を戻した。
何事もなく凛々しく立つその背中が、いつもよりも大きく逞しく思える。
秋ちゃんが誠士郎さんのような素敵な殿方に見えた。
「あき…」
声をかけようと一歩踏み出した時だった。
ぐらりと秋ちゃんの体が傾く。
そのまま前方に倒れこもうとした体を炎が包んだ。
炎はすぐに消え、代わりに霊嘩山で出会ったあの少年鬼が倒れた秋ちゃんを片膝ついて支える。
秋ちゃんの額あたりに手をかざして何やら呟くと、純白の髪がいつも通りの若草色に戻った。
「秋ちゃん!?」
慌てて駆け寄るけど、秋ちゃんは目を閉じたまま返事をしない。
「寝てるだけだ、心配ない」
少年鬼の言う通りで、秋ちゃんは静かに寝息を立てていた。
ほっと胸をなでおろすわたしをよそに、少年鬼はおデブさんに声をかける。
「七伏、変換してくれ」
「わぁってるよ。八彦、新左エ門、木虎、ぶっ倒れるまで寄越せ」
「もちろんっす」「当然」「当たり前でさぁ」
七伏と呼ばれたおデブさんは秋ちゃんの手を取ると、もう片方の手を三人に差し出した。
八彦達がその手に自分達の手を重ねる。
すると三人の体から微かにモヤのようなものが現れ、七伏さんを通して秋ちゃんに流れ込んでいく。
あれはもしかしたら三人の霊力なのかもしれない。
なんとなくだけど、わたしの直感がそう告げている。
「冬さん、まだ動けますか?」
「は、はい」
「泰時君達も、できれば手を貸してください」
いつの間にか傍に来ていた誠士郎さんがわたし達へと声をかける。
「里に溢れた霊魂は今ので全て浄化できたはずです。ですが、浄化しきれなかった霊魂がまだ残っているかもしれません。私達で手分けして確認しましょう」
「本当に、すべて浄化したんでやすか?」
まだぽかんとした表情のままで虎丸様が尋ねる。
霊魂は見えないし嫌な気配もないけど、確かに全部浄化されたとはにわかには信じられない。
でもあの力を見ちゃうと本当に全部浄化されててもおかしくはないかも。
「確認すればわかるだろう」
そういって泰時様が立ち上がる。
やっぱり怪我をしていたみたいで、立ち上がる際に少し顔を歪めた。
「では私はこちらから調べます。泰時君は向こうを、冬さんはあちらをお願いします」
「ああ」「わかりました」
わたしと泰時様が頷くと、結依ちゃんが手を挙げた。
「あの、私は…?」
「危険があるかもしれません、ここに残っていてください」
「でも…」
「そうだよ結依ちゃん、霊魂の浄化は霊具じゃないとできないんだから」
「……」
わたしがそう言えば、結依ちゃんは少し悔しそうな顔になった。
それを見て虎丸様が遠慮がちに手を上げる。
「あ、あっしが一緒に行きやす。それなら問題ないでやすよね」
「…そうですね、虎丸君は霊具が使えますし」
「一応、だがな」
「う、うるさいでやす」
「猫の手も借りたいですからね、お願いします」
「はい、ありがとうございます」「ま、任せてくだせぇ」
嬉しそうにうなずいた結依ちゃんとは対照的に、虎丸様はがちがちに緊張していた。
それを見て泰時様がため息をつく。
「それでは、調べ終わったらまたここに戻って来てください」
「はい」「ああ」「わかりました」「は、はいっ」
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