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第四幕 愉比拿蛇
第三一話
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「ごめんなさい…。僕…僕…。止められなかった…」
ようやく意識を取り戻した秋の耳に、か細い声が届いた。
ゆっくりと目を開けて視線を彷徨わせると、すぐそこに俯いて正座している誠士郎を見つけた。
時折鼻をすする音が聞こえる事から、彼が泣いているという事がわかる。
重い体に鞭を打ち、秋は上体を起こした。
「誠士郎?どうしたの?」
「あ、秋君…。う、うう…うわぁぁぁぁぁん」
秋が目を覚ました事に気づくと、誠士郎は顔を思い切り歪めて抱きついた。
そしてそのまま泣きじゃくる。
何がどうしてこうなっているのかさっぱりわからなかったが、秋は誠士郎をなだめる事にした。
よしよしと頭を撫でてみたり、安心させようとぽんぽんと背中を叩いてみる。
だが効果はなく、誠士郎はわんわんと泣き続けている。
その声が聞こえたのか、襖が開けられた。
眠いのかあくびを噛み殺しながら新左エ門が入ってくる。
「あ、秋ちゃん起きたんだね。おはよ」
「おはよう。えっと、状況がさっぱり…」
「だろうねぇ。四時間くらい寝てたしね」
そう言って新左エ門は背中越しに廊下を示す。
そこには七伏の体に寄りかかるようにして八彦と木虎が眠っていた。
寄りかかられている七伏は重いのかうなされている。
「結構変換したからね、もうみんなバテバテ。秋ちゃん、浸食進んでるんじゃないの?」
「自分じゃよくわからなくて…。それよりも、誠士郎どうしたの?こんなに泣くなんて十年ぶりだよね?」
その質問に、新左エ門は眉を寄せた。
あー、と低く唸うなった後、言いにくそうに口を開く。
「弥生ちゃんが、さ。その…。愉比拿蛇に喰われてね。亡くなったのよ」
「…え?亡く…なった?」
誠士郎が号泣している意味を理解し、秋は力強く誠士郎を抱きしめた。
自分が冬を大事に思っているように、誠士郎も弥生を大事にしている事を知っているから。
眠っていた間に誠士郎が大切な人を失っていた事に悔しくなる。
誰も死なせない為に倒れるまで力を解放したというのに、なんという様だろう。
「ごめ…ね、秋く…」
「何言ってるんだよ、謝るのは僕の方だ。弥生ちゃんを…」
「そうじゃ…ない」
ゆっくりと、誠士郎は秋から離れる。
申し訳なさそうに自分を見つめる誠士郎がわからなくて、秋はただ次の言葉を待った。
「冬ちゃんが…冬ちゃんが…」
「深冬が、どうかしたの?」
「弥生を助けるって…。里を守るって…。愉比拿蛇のところに行っちゃった…」
「え?」
「ごめん…。僕、止められなかった…。ごめん、ごめんなさい…。ごめんなさい…」
またぼろぼろと泣き出した誠士郎に、秋は何も言えなかった。
どういう事なのか理解できず、ただ冬が愉比拿蛇に向かって行ったという事実だけが、頭の中に残る。
今の冬に愉比拿蛇と戦って勝てる見込みなどない。
それはすなわち、冬の死を意味する。
どくん、と心臓が跳ねあがり、鼓動が早くなる。
動機のする胸元を握りしめ、秋は震えた。
次にどうしたらいいのか、何の策も浮かばない。
泣きながら謝り続ける誠士郎の声も、どこか遠い。
「神鬼が二体行けば問題ない」
そんな彼等の耳に掠れた声が届いた。
視線を向ければ、足元もおぼつかず今にも倒れそうな天景がこちらへと向かってきていた。
顔はやつれ、生気は殆ど感じられない。
それもそのはず、今の天景は起きているのも辛いほど消耗していた。
冬の代わりに石柱に妖力を注ぎ、冬達を里まで短時間で移動させる為の通路を作り、力を使い果たした秋の元まで一瞬で駆けつけ、弥生を治し、冬達の疲労を取り、力を分け与えた。
いくら神鬼が神のような力を使えるといっても、代償がない訳がない。
力を使った反動は尋常じゃなかった。
「天景、起きて大丈夫なのか?」
「ああ」
心配する新左エ門に軽く返事をし、天景は秋の傍そばに膝をついた。
「落ち着かないのはわかるが落ち着け」
そういうと天景は今までの経緯をざっと説明した。
秋が倒れた後に何が起きたのか。
何故弥生が死んだのか。
どうして冬が向かったのか。
「弥生ちゃん、助けられるんだね?」
「ああ。お前が力をくれるなら」
「なら、早く誠士郎と繋げてあげないと」
「秋君…ごめん…」
「謝らないでよ。少しでも可能性があるなら、僕だって賭けるさ。さすがは僕の妹だよ」
誠士郎の頭を撫で、秋は微笑みかけた。
その顔を見て誠士郎はようやく落ち着き始めた。
「新さん、もう少しだけ、無理してもらってもいい?」
秋のその言葉に、新左エ門は意図を理解しやれやれと肩を竦すくめた。
そして眠っている三人を蹴り起こす。
「七伏、変換しろぉ。秋ちゃん復活させて天景を復活させるぞ」
「んご!?」
「八彦、木虎ぁ。いつまで寝ていやがるんだ。命差し出せぇ」
「な、何事っすか!?」
「どういう事でやす!?」
「天景、秋ちゃんの血はどれくらい必要なんだ?」
「一二〇パーセント分くらい」
「…よくわかんねぇなぁ。仕方ない、三日は眠りこける覚悟でやるか」
「はあ!?意味わかんねぇ…。なんでそんな事…」
「七伏ぅ。いいからやれぇい!」
「ぬぐぐ…。秋!てめぇ後でたらふく飯おごれよなっ」
そういうと七伏は立ち上がり、まだ状況を理解していない八彦と木虎の襟首を掴み秋の元へと放り投げた。
そして自分は偉そうに胡座をかいて座る。
天景は他者の体液を喰らい、己を回復させる。
血や汗、涙など、体液ならばなんでもいい。
樹液でも微かに回復できるらしい。
そんな天景の最も効率の良い回復方法は、吸血鬼よろしく秋の血を飲む事だ。
かなり消耗している為、今回は大量の血を必要とする。
だが、今の弱った秋から血をもらえば、今度は秋の体力が持たない。
そこで秋が倒れないように七伏の力を使い、新左エ門、七伏、八彦、木虎の生命力を秋に注ぎ込む事で、二人を同時に回復させようというのだ。
「いいか?これはお前ら二人への貸しだからな?ちゃんと返せよ」
「愉比拿蛇何とかするから、それでチャラにしてよね」
頷き、差し出された手に秋は自分の手を重ねた。
ようやく意識を取り戻した秋の耳に、か細い声が届いた。
ゆっくりと目を開けて視線を彷徨わせると、すぐそこに俯いて正座している誠士郎を見つけた。
時折鼻をすする音が聞こえる事から、彼が泣いているという事がわかる。
重い体に鞭を打ち、秋は上体を起こした。
「誠士郎?どうしたの?」
「あ、秋君…。う、うう…うわぁぁぁぁぁん」
秋が目を覚ました事に気づくと、誠士郎は顔を思い切り歪めて抱きついた。
そしてそのまま泣きじゃくる。
何がどうしてこうなっているのかさっぱりわからなかったが、秋は誠士郎をなだめる事にした。
よしよしと頭を撫でてみたり、安心させようとぽんぽんと背中を叩いてみる。
だが効果はなく、誠士郎はわんわんと泣き続けている。
その声が聞こえたのか、襖が開けられた。
眠いのかあくびを噛み殺しながら新左エ門が入ってくる。
「あ、秋ちゃん起きたんだね。おはよ」
「おはよう。えっと、状況がさっぱり…」
「だろうねぇ。四時間くらい寝てたしね」
そう言って新左エ門は背中越しに廊下を示す。
そこには七伏の体に寄りかかるようにして八彦と木虎が眠っていた。
寄りかかられている七伏は重いのかうなされている。
「結構変換したからね、もうみんなバテバテ。秋ちゃん、浸食進んでるんじゃないの?」
「自分じゃよくわからなくて…。それよりも、誠士郎どうしたの?こんなに泣くなんて十年ぶりだよね?」
その質問に、新左エ門は眉を寄せた。
あー、と低く唸うなった後、言いにくそうに口を開く。
「弥生ちゃんが、さ。その…。愉比拿蛇に喰われてね。亡くなったのよ」
「…え?亡く…なった?」
誠士郎が号泣している意味を理解し、秋は力強く誠士郎を抱きしめた。
自分が冬を大事に思っているように、誠士郎も弥生を大事にしている事を知っているから。
眠っていた間に誠士郎が大切な人を失っていた事に悔しくなる。
誰も死なせない為に倒れるまで力を解放したというのに、なんという様だろう。
「ごめ…ね、秋く…」
「何言ってるんだよ、謝るのは僕の方だ。弥生ちゃんを…」
「そうじゃ…ない」
ゆっくりと、誠士郎は秋から離れる。
申し訳なさそうに自分を見つめる誠士郎がわからなくて、秋はただ次の言葉を待った。
「冬ちゃんが…冬ちゃんが…」
「深冬が、どうかしたの?」
「弥生を助けるって…。里を守るって…。愉比拿蛇のところに行っちゃった…」
「え?」
「ごめん…。僕、止められなかった…。ごめん、ごめんなさい…。ごめんなさい…」
またぼろぼろと泣き出した誠士郎に、秋は何も言えなかった。
どういう事なのか理解できず、ただ冬が愉比拿蛇に向かって行ったという事実だけが、頭の中に残る。
今の冬に愉比拿蛇と戦って勝てる見込みなどない。
それはすなわち、冬の死を意味する。
どくん、と心臓が跳ねあがり、鼓動が早くなる。
動機のする胸元を握りしめ、秋は震えた。
次にどうしたらいいのか、何の策も浮かばない。
泣きながら謝り続ける誠士郎の声も、どこか遠い。
「神鬼が二体行けば問題ない」
そんな彼等の耳に掠れた声が届いた。
視線を向ければ、足元もおぼつかず今にも倒れそうな天景がこちらへと向かってきていた。
顔はやつれ、生気は殆ど感じられない。
それもそのはず、今の天景は起きているのも辛いほど消耗していた。
冬の代わりに石柱に妖力を注ぎ、冬達を里まで短時間で移動させる為の通路を作り、力を使い果たした秋の元まで一瞬で駆けつけ、弥生を治し、冬達の疲労を取り、力を分け与えた。
いくら神鬼が神のような力を使えるといっても、代償がない訳がない。
力を使った反動は尋常じゃなかった。
「天景、起きて大丈夫なのか?」
「ああ」
心配する新左エ門に軽く返事をし、天景は秋の傍そばに膝をついた。
「落ち着かないのはわかるが落ち着け」
そういうと天景は今までの経緯をざっと説明した。
秋が倒れた後に何が起きたのか。
何故弥生が死んだのか。
どうして冬が向かったのか。
「弥生ちゃん、助けられるんだね?」
「ああ。お前が力をくれるなら」
「なら、早く誠士郎と繋げてあげないと」
「秋君…ごめん…」
「謝らないでよ。少しでも可能性があるなら、僕だって賭けるさ。さすがは僕の妹だよ」
誠士郎の頭を撫で、秋は微笑みかけた。
その顔を見て誠士郎はようやく落ち着き始めた。
「新さん、もう少しだけ、無理してもらってもいい?」
秋のその言葉に、新左エ門は意図を理解しやれやれと肩を竦すくめた。
そして眠っている三人を蹴り起こす。
「七伏、変換しろぉ。秋ちゃん復活させて天景を復活させるぞ」
「んご!?」
「八彦、木虎ぁ。いつまで寝ていやがるんだ。命差し出せぇ」
「な、何事っすか!?」
「どういう事でやす!?」
「天景、秋ちゃんの血はどれくらい必要なんだ?」
「一二〇パーセント分くらい」
「…よくわかんねぇなぁ。仕方ない、三日は眠りこける覚悟でやるか」
「はあ!?意味わかんねぇ…。なんでそんな事…」
「七伏ぅ。いいからやれぇい!」
「ぬぐぐ…。秋!てめぇ後でたらふく飯おごれよなっ」
そういうと七伏は立ち上がり、まだ状況を理解していない八彦と木虎の襟首を掴み秋の元へと放り投げた。
そして自分は偉そうに胡座をかいて座る。
天景は他者の体液を喰らい、己を回復させる。
血や汗、涙など、体液ならばなんでもいい。
樹液でも微かに回復できるらしい。
そんな天景の最も効率の良い回復方法は、吸血鬼よろしく秋の血を飲む事だ。
かなり消耗している為、今回は大量の血を必要とする。
だが、今の弱った秋から血をもらえば、今度は秋の体力が持たない。
そこで秋が倒れないように七伏の力を使い、新左エ門、七伏、八彦、木虎の生命力を秋に注ぎ込む事で、二人を同時に回復させようというのだ。
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