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第四幕 愉比拿蛇
第四〇話
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「わたし、迦楼羅丸にはお姉さんと一緒に居てほしい。でもこの魂達を浄化する為にはお姉さんの力が必要だって事も、ちゃんとわかってる。だから…」
「冬、それはつまり、迦楼羅に…」
「最低な事言ってるって、わかってる。人としてどうかとも思う。でも、せっかく会えたのに、またお別れなんて…。これから先、迦楼羅丸がどれくらい生きるのかわからないけれど、どんなに楽しい事があっても、きっとずっと、寂しいは、無くならないと思うから。だから、だったら、お姉さんと一緒に、逝ってほしい…」
俯き、着物の裾をぎゅっと握りしめた冬の頭を迦楼羅丸が撫でた。
「確かに、お前の言っている事は人道的とは言えない。だが、俺はその言葉がありがたい」
「わたし、お姉さんが大好き。迦楼羅丸が大好き。だから、二人とも居なくなっちゃうのは嫌だけど、二人が悲しいのも嫌だから…。でも、これしか、思いつかないから…」
ぼろぼろと涙を流し始めた冬と視線を合わせるように、迦楼羅丸は腰を折った。
「紫と七草だけじゃ、導くなんて無理だ。だから俺も手伝う、それだけだ。お前が泣く事なんてない」
「うっく…ひっく…」
「ありがとう、冬」
初めて名前を呼ばれ、冬は顔を上げた。
視線の先には、とても穏やかな笑みを浮かべた迦楼羅丸がいた。
「そうだ、弥生の魂を見つけないと。一緒に成仏させたら大変だ」
「うん」
『この子じゃないかな。一番新しい子よ』
そういうと七草は冬に一つの魂を差し出した。
それは、間違いなく弥生の魂。
「弥生ちゃん、もう少し待っててね」
冬の言葉に、魂が軽く浮き上がる。
「冬」
迦楼羅丸は小指を冬に差し出す。
「必ず、一つの漏れもなく全ての魂を冥界に連れて行くと約束する」
「わたしも…」
その小指に自分の指を絡ませながら冬も言った。
「必ず、みんなを守る姫巫女になる。宿祢と一緒に。約束するよ」
その答えに満足したのか、迦楼羅丸は頷き紫の隣に立った。
「冬。私、貴女に合えて本当に良かったわ」
「わたしも。お姉さんの事、大好きだよ」
「しかしながら、このように沢山の霊魂、一体どのようにして浄化するのでござるか?」
「この国には『火葬』という習わしがある。炎と共に送り出せばいい。天景」
笑顔で送り出そうとしている冬に申し訳なさそうにしながらも宿祢が口を挟む。その質問には秋が答えた。
袖から四季の宝珠がはめ込まれた板状の首飾りを取り出す。
そこから茜色の秋の宝珠を外して手のひらに乗せると、その手を天景に差し出した。
「弥生の魂、巻き込まれないようにしっかり持ってろよ」
そう冬に忠告し、天景は宝珠に手を重ねる。
「「秋風に舞え」」
その言葉に反応し、宝珠が輝きを増した。天景の体が炎と化し、秋を飲み込む。
炎が晴れた後には、男性が一人、目を瞑って立っていた。額からは天景と同じような二本の角。高く結い上げられた髪の結び目には、秋がつけている子供向けの髪飾り。髪は白く、毛先に行くほどに赤く色づいている。服も、二人の着物が合わさったかのような物を身につけている。
ゆっくりと開かれた双眸は、左右で色が違っていた。
秋の金と、天景の茜。
二人が融合し、一つの存在となった。そう考えるのが妥当だろう。
その口は、二人の声音で言葉を発する。
『葬炎、高らかに』
掲げられた両手から炎が走る。優しさと温かさを備えた炎が燃え広がり、全ての霊魂を飲み込んでいく。
『謳え』
それを合図に七草が愉比拿蛇を連れて浮かび上がった。道を示すように天へと昇っていく。
次々と霊魂が続き、最後に紫と迦楼羅丸が続く。
「宿祢」
迦楼羅丸が何かを宿祢に投げた。同じように紫も石のようなものを冬に手渡す。
それは二人の瞳と同じ色をした勾玉だった。
「これは?」
「『絆の勾玉』よ。私と迦楼羅が契約をした時に『一緒に頑張っていきましょう』記念で作ったの。貴方達にあげるわ」
「そのような思い出の品、頂いてもよいのでござるか?」
「お前達だからこそ、持っていてほしい」
「これから大変だと思うけど、頑張ってね。冥界から応援しているわ」
そういうと、二人は微笑みながら天へと昇って行った。
少々乱暴に涙を拭くと、冬はその姿が見えなくなるまで笑顔で大きく手を振った。
「もっと、強くならなきゃ。今みたいに、誰かを犠牲にしないと解決できないなんて、そんな事が、ないように」
桃色の勾玉を握りしめ、冬は決意を新たにした。
「冬、それはつまり、迦楼羅に…」
「最低な事言ってるって、わかってる。人としてどうかとも思う。でも、せっかく会えたのに、またお別れなんて…。これから先、迦楼羅丸がどれくらい生きるのかわからないけれど、どんなに楽しい事があっても、きっとずっと、寂しいは、無くならないと思うから。だから、だったら、お姉さんと一緒に、逝ってほしい…」
俯き、着物の裾をぎゅっと握りしめた冬の頭を迦楼羅丸が撫でた。
「確かに、お前の言っている事は人道的とは言えない。だが、俺はその言葉がありがたい」
「わたし、お姉さんが大好き。迦楼羅丸が大好き。だから、二人とも居なくなっちゃうのは嫌だけど、二人が悲しいのも嫌だから…。でも、これしか、思いつかないから…」
ぼろぼろと涙を流し始めた冬と視線を合わせるように、迦楼羅丸は腰を折った。
「紫と七草だけじゃ、導くなんて無理だ。だから俺も手伝う、それだけだ。お前が泣く事なんてない」
「うっく…ひっく…」
「ありがとう、冬」
初めて名前を呼ばれ、冬は顔を上げた。
視線の先には、とても穏やかな笑みを浮かべた迦楼羅丸がいた。
「そうだ、弥生の魂を見つけないと。一緒に成仏させたら大変だ」
「うん」
『この子じゃないかな。一番新しい子よ』
そういうと七草は冬に一つの魂を差し出した。
それは、間違いなく弥生の魂。
「弥生ちゃん、もう少し待っててね」
冬の言葉に、魂が軽く浮き上がる。
「冬」
迦楼羅丸は小指を冬に差し出す。
「必ず、一つの漏れもなく全ての魂を冥界に連れて行くと約束する」
「わたしも…」
その小指に自分の指を絡ませながら冬も言った。
「必ず、みんなを守る姫巫女になる。宿祢と一緒に。約束するよ」
その答えに満足したのか、迦楼羅丸は頷き紫の隣に立った。
「冬。私、貴女に合えて本当に良かったわ」
「わたしも。お姉さんの事、大好きだよ」
「しかしながら、このように沢山の霊魂、一体どのようにして浄化するのでござるか?」
「この国には『火葬』という習わしがある。炎と共に送り出せばいい。天景」
笑顔で送り出そうとしている冬に申し訳なさそうにしながらも宿祢が口を挟む。その質問には秋が答えた。
袖から四季の宝珠がはめ込まれた板状の首飾りを取り出す。
そこから茜色の秋の宝珠を外して手のひらに乗せると、その手を天景に差し出した。
「弥生の魂、巻き込まれないようにしっかり持ってろよ」
そう冬に忠告し、天景は宝珠に手を重ねる。
「「秋風に舞え」」
その言葉に反応し、宝珠が輝きを増した。天景の体が炎と化し、秋を飲み込む。
炎が晴れた後には、男性が一人、目を瞑って立っていた。額からは天景と同じような二本の角。高く結い上げられた髪の結び目には、秋がつけている子供向けの髪飾り。髪は白く、毛先に行くほどに赤く色づいている。服も、二人の着物が合わさったかのような物を身につけている。
ゆっくりと開かれた双眸は、左右で色が違っていた。
秋の金と、天景の茜。
二人が融合し、一つの存在となった。そう考えるのが妥当だろう。
その口は、二人の声音で言葉を発する。
『葬炎、高らかに』
掲げられた両手から炎が走る。優しさと温かさを備えた炎が燃え広がり、全ての霊魂を飲み込んでいく。
『謳え』
それを合図に七草が愉比拿蛇を連れて浮かび上がった。道を示すように天へと昇っていく。
次々と霊魂が続き、最後に紫と迦楼羅丸が続く。
「宿祢」
迦楼羅丸が何かを宿祢に投げた。同じように紫も石のようなものを冬に手渡す。
それは二人の瞳と同じ色をした勾玉だった。
「これは?」
「『絆の勾玉』よ。私と迦楼羅が契約をした時に『一緒に頑張っていきましょう』記念で作ったの。貴方達にあげるわ」
「そのような思い出の品、頂いてもよいのでござるか?」
「お前達だからこそ、持っていてほしい」
「これから大変だと思うけど、頑張ってね。冥界から応援しているわ」
そういうと、二人は微笑みながら天へと昇って行った。
少々乱暴に涙を拭くと、冬はその姿が見えなくなるまで笑顔で大きく手を振った。
「もっと、強くならなきゃ。今みたいに、誰かを犠牲にしないと解決できないなんて、そんな事が、ないように」
桃色の勾玉を握りしめ、冬は決意を新たにした。
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