上 下
4 / 42
第1章 数値化されなくても運の悪さは知っていました

その3

しおりを挟む
国王様の話を聞けば聞くほど、せっかく解けかけていた緊張が戻ってくる。
「わわわ…わた…私の国では、魔法とか使えなくてですね、魔獣もいなくてですね、剣とかそういうの持って戦う事もなくてですね、えっと、だからその、お役には…」
「落ち着いてください、ヤヤコ様。私どもの言葉がわかるのですよね」
「は、はい」
「我々も貴女様の言葉がわかります」
「えと…さっきも聞きましたけど…」
「つまり、貴女様はこの世界への適正をお持ちという事です」
「適正…ですか?」
「ええ。別の世界の人間ならば容姿以前に言語が通じるはずがない」
「あ、そう言われれば…」
「言葉が通じるという事は、この世界への適性があるという事の証明に他なりません」
「でも、言葉がたまたま通じただけかもしれませんし…」
「突然召喚されたヤヤコ様が戸惑うのも無理はありません。ですので、今から適性検査を受けていただきたいのです」
「適性検査、ですか?」
「ええ。我が国では6歳の洗礼式に全ての国民が受けます。なに、心配はいりません。水晶玉に手をかざし、その人物が持つ一番高い能力を映し出すのです」
「自分の能力が数値化される、という事ですか?」
「その通りです。その数値によって将来の職業を決めています」
「あの、その場合、国王様も…」
「ええ、私は西の方にある漁村の出身です」
「そうなんですね」
異世界だから違うところはあると思っていたけれど、まさか国王様が一般市民出身だなんて思わなかった。
こういうのはてっきり世襲制かと。
能力値が近い人は何人かいるだろうし、大統領みたいに選挙制度なのかしら。
「思うところがあるとは思いますが、適性検査をお願いいたします」
「期待に応えられるかわかりませんが、やってみます」
「ありがとうございます。メイド長、ヤヤコ様の準備を。侍従長は検査の準備だ」
「「かしこまりました」」
入り口に控えていた数人のメイドさんと執事さんが胸に片手を当てる。
というか、緊張しすぎて居た事に全然気がつかなかった。
そうだよね、お茶がベストなタイミングで出てきている以上、そういう世話役さんがいてもおかしくないよね。
お茶入れてくれたの誰だったんだろう、お礼、言いそびれちゃったわ。
「ヤヤコ様、どうぞこちらへ」
「は、はい。あ、えと、失礼します」
国王様達に頭を下げ、メイドさんについていく。
長く赤い髪に背筋の伸びた姿勢、凛とした顔立ち。
女性ながらにカッコいいと思わせてしまう雰囲気。
どこかの乙女ゲームにでてきた戦うメイド長さんみたい。
「洗礼および適性検査は教会で行われます。洗礼の前にはみそぎを行う決まりとなっております。ヤヤコ様にはまず、お手数ですが教会までご足労願います。馬車をご用意しておりますのでそちらにお乗りいただきます。道中のお世話はメイド長のわたくしローザが責任を持って担当いたします。質問等には答えられる範囲で可能な限りお答えいたします」
「は、はい。よろしくお願いします」
矢継ぎ早でもないし、愛想笑いかもしれないけれど笑顔だし、悪い印象はなにもないけれど…。
この雰囲気、キャリアウーマンの上司を思い出す。
いかにも仕事のできる女性って感じ。
階級とかよくわからないけれど、メイド長というからにはやっぱり部長や課長クラスなんだろうなぁ。
私、どんくさいから迷惑かけないように気をつけなくちゃ。


※ ※ ※


「随分と頼りなかったですな」
「うむ」
夜々子が去った会議室でマギス公がポツリと呟いた。
それに返事をしたのは一体誰だったか。
「召喚されたばかりで戸惑っているのだろう。我らとて同じ立場なら戸惑うはずよ」
「そうだな」
「まずは様子を見てみよう。適性検査をすれば分かる事よ」
「それもそうじゃの」
「どの道、我々にはもう、これ以外に手は無い。エルデ公が四年かけてやっと成功したのだ。信じるしかあるまいて」
公爵達の意見を聞き、バロッサ5世は髭をひと撫でした後、エルデ公に告げた。
「エルデ公、念の為、今一度召喚可能か調べてくれ」
「かしこまりました」

「ヤヤコが外れならば、次の勇者を呼ぶまでよ」
しおりを挟む

処理中です...