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第2章 異世界人なので非常識とか言わないでください

その6

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魔術の練習に集中しすぎたのか、あるいは慣れない荷馬車に酔ったのかはわからないけれど、気分が悪くなってきた。
荷馬車には布?かな、ファンタジー世界でよく見る形の布屋根がかかっている。
布の隙間からボーッと外を見ていると、ああ、異世界なんだなぁと実感する。
アスファルトの道路はどこにもなく、田舎の高速道路みたいに、見える景色は木ばかり。
道路標識もない。
空気が綺麗で、空も高い。
「お、オルレンシアさん!止めてください!」
「止めてちょうだい」
オルレンシアさんの号令で荷馬車が止まる。
「一体どう…ちょっと、ヤヤコ!?」
荷馬車が止まると、私は先ほど見えた影へと走る。
道の端にうずくまる人影が見えたの。
隣町まではまだかかるみたいだし、怪我や病気だったら大変だよ。
「あの、おじいさん、大丈夫ですか?」
「おお…すまないね、娘さん。少し、背中をさすってはもらえんかの?」
「こうですか?」
言われた通り、私はおじいさんの背中をさする。
そんな私の背にオルレンシアさんが声をかけた。
「何事ですの?」
「このおじいさんが苦しそうにしていて…」
「そのローブ、ベドハですわね」
「ベドハ?」
「ベドハなら、助ける必要なんてありませんわ。荷台に戻りなさい、先を急ぎますわよ」
「ちょっと待ってください!こんなにも苦しそうにしているじゃないですか!」
「だからどうしたというのです?ベドハですのよ」
はぁ、とため息をつきながら心底嫌そうにオルレンシアさんがいう。
おじいさんを見るその目はゴミかなにかを見るようなものだった。
ベドハが何かは知らないけれど、さすがにムカついてきたわ。
目の前で苦しんでいる人がいるのに見捨てるなんて、騎士としてどうなの?
「隣町まで乗せてあげられませんか?もう一人くらいなら荷台に乗れます」
「はぁ?冗談じゃありませんわ。ベドハを乗せるなんて、非常識にも程がありましてよ」
「私、異世界人ですから」
私が言い返したことが気に入らなかったのか、オルレンシアさんはあからさまにムッとした顔になる。
「でしたら貴女が町まで送ってさしあげたらよろしいですわ。さあ、出発しますわよ」
「な…!」
そう言うが早いか、オルレンシアさんは馬に跨り走り出してしまった。
「すみません、隊長の命令は絶対なので。頑張ってくださいね、ヤヤコ様」
そう言ってゾイドさんが杖をくれた。
「あ、この辺、夕刻になると山賊出るらしいんで、気をつけてくださいね」
「ええ!?あの…ちょっと…」
ゾイドさんも他の団員もオルレンシアさんに続いて行ってしまった。
てゆうか、なんでゾイドさん笑顔なの!?
パカラッパカラッという蹄の音がどんどん遠くなり…音も姿もさようなら。
まさかの置き去りって…。
アンジェラさん、私もう挫けそう…。
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