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第2章 異世界人なので非常識とか言わないでください

その8

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「体力無いのぅ…。異世界人はみんなそうなのか?」
「い、いえ…私が運動不足なだけかと…」
どれくらい走ったのかわからない。
どの辺りにいるのかもわからない。
草や木の根元に何度も足を取られながらも全速力で走った私は息も切れ切れ。
荒い呼吸を繰り返してばかりで、一向に落ち着かない。
対するゼロさんは呼吸一つ乱れず、曲がっていた腰はシャキッと伸びている。
「ぜ、ゼロさん…病気じゃ…」
「すまん、嘘じゃ」
「へ?…あの、それって」
「しっ」
言われた意味がわからず聞こうとしたら、ゼロさんは静かにしろと口元に指を立てた。
私は慌てて両手で口をふさぐ。
あのポーズ、異世界でも同じ意味なのね。
「くそ!あのガキどこ行きやがった!」
「舐めた真似しやがって!」
山賊達がものすごい形相で私達を探している。
手にはナイフのような物まで持ってる。
ゼロさんが見つからないようにと私を引き寄せる。
シャキッと背が伸びていると私よりも頭一つ分大きい。
やせ細っていたはずの身体もなんだか逞しくなっている。
そういえば、声も老人よりもなんだか若かったような…。
「初心者用の杖で騙されたぜ。ありゃ素人どころか玄人じゃねぇか」
「玄人のさらに上までいってそうだぜ」
「玄人の上って、なんだ?」
「さあ?達人とか超人じゃないか?」
「まあいい。あっちの方探してみるぞ」
「おう」
そう言って山賊達は林の奥に消えていった。
「もう大丈夫そうじゃな」
「はぁ…怖かった…」
「そう言うわりに、見事なファイヤーボールじゃったぞ」
真っ白で長い眉毛と口髭のお陰で表情はよくわからないけれど、なぜかニヤリと意地悪く笑ったのだけはわかった。
「もう、からかわないでくださいよ。そりゃ火は火炎放射器ばりに出ましたけど、魔術から見れば明らかに失敗じゃないですか」
「確かに球ではなかったが、ヤヤコくんの世界ではファイヤーは火の事なんじゃから、あながち失敗でもなかろう」
「そりゃそうですけど…」
水が出なきゃおかしい世界で火が出ている以上、やっぱり失敗に分類されると思うのよね。
確かに私の常識から考えれば失敗じゃない……あれ?
「あの、なんでファイヤーは火だって知ってるんですか?」
「なんでって、それは……はて?なんでじゃろ?」
ゼロさんは首を傾げながら考えたが、結局わからなかったらしい。
私達は些細な事は後回しにして街道に戻ることにした。
大方、3000年前に魔王を封印したのは異世界から来た人らしいし、その異世界の勇者が私と似た世界の出身で、文献に残っていたとかそういうオチなんじゃないかしら。
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