そして彼等は旅に出る2(完結)

襟川竜

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第二章 怪しい洞窟にはご注意を

その1 魂捕縛(ソウル・カトゥラ)の洞窟

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 俺達は今、例の洞窟の前にいる。雨の原因を突き止めないといけないし、ターキーさんが中にいるかもしれないし、アルカディアさんも助けないといけない。
 アルカディアさんはターキーさんを探す為に、先に洞窟の中に入っている。ソウルなんとかって言う、入ったら出られなくなる術がかかっている以上、迂闊に中に入る訳にはいかない。だから俺とシャーナ、ムーリトは外で待っている状態だ。
 余談だけれど、暴風雨はいまだに続いている。だからムーリトは俺達を包み込む結界を張ってくれた。大きなシャボン玉の中に入っていると思ってくれればいい。暴風雨の中じゃ傘をさしても意味がないし、濡れたまま動きまわっては風邪を引いてしまう。体調は万全じゃないと、咄嗟の対応ができなくなっちゃうからね。

 程なくして洞窟の奥かが誰かが来た。アルカディアさんだ。
 洞窟の暗闇の中でも、アルカディアさんの髪はほとんど溶け込んでいない。髪の白さが浮きあがっているように見えて、ちょっとだけ不気味だ。
 アルカディアさんは「明りの術」を小石に掛け、松明代わりにしている。その後ろにはもう一人、濃いめの青い髪の青年がいた。この人がターキーさんだろうか。
「ターキーさん。ここにいたんですね」
 ムーリトが青年の名前を呼んだ。
「あ、ムーリトちゃん……うわっ」
 ターキーさんがムーリトを見てこちらに駆け寄ってくる。だけど洞窟の出口で見えない壁にぶつかって尻餅をついてしまった。
「だから先程申し上げたではありませんか」
「うう…そうだった」
 アルカディアさんがやれやれといった感じで肩を竦める。ターキーさんは立ち上がると恥ずかしそうにしながら頭をかいた。
「アルカディアさん、中の様子はどうでした?」
「奥までは行きませんでしたから、詳しい事はまだ判分かりません」
 俺の質問にアルカディアさんは首を振って答えた。
「ただ、中には結構な数の水棲魔物 イドゥ・アクアがいます」
「いどぅ・あくあ?」
「水に属する魔物の総称よ」
 俺の質問にシャーナが教えてくれた。
「カエル人間がたくさんいるんだよ。10とか20ならまだしも、50ぐらいはいると思うぞ」
 ターキーさんがぶるりと体を震わせる。カエル人間って何なんだよ。
 俺は思わずカエルのマスクを被った人間を想像してしまった。…なんか、気持ち悪そう。ムーリトも眉をしかめている。
水棲魔物 イドゥ・アクアが洞窟の中で、一体何をしているのかしら」
「そこまでは分かりません」
 シャーナの質問にアルカディアさんは首を横に振って答える。シャーナの顔色は全然変わらない。相変わらず図太い神経の持ち主だ。
「とりあえず、水棲魔物 イドゥ・アクアをどうにかしない限り、ここからは出られないでしょうね」
「そうですね。でも、アルカディアさんお一人では…」
 シャーナはそこで言葉を濁した。
 確かにアルカディアさん一人で50匹近い魔物を倒すのは大変だ。魔物の強さがどれくらいなのかはわからないけど、無謀だって事ぐらいはわかる。
 それにアルカディアさんの武器は弓矢だ。狙いを定めたり、弓を引き絞ったりしている間、魔物が大人しくしてくれているとは限らない。普通は大人しくなんてしていないだろう。
 カエル人間かぁ…。なんか気持ち悪そうだけど、ちょっと見てみたいかも。
 不謹慎だとは思ったけれど、俺は好奇心に駆られてしまう。

「俺も一緒に行きます」
「え?」
「アルカディアさん一人じゃ、絶対に大変だと思います。一人より二人っていうじゃないですか。俺、時間稼ぎくらいの役には立ちますよ」
「ソルト君が行くのなら、もちろん私も行きます」
「よろしいのですか?最悪の場合、ここから出られなくなってしまうのですよ?」
「大丈夫、きっと何とかなります!」
 俺がウインクをしたら、アルカディアさんは「でも…」と口では渋るものの、ほっとしたような表情を浮かべた。やっぱり一人じゃ不安だったんだろうな。
「あ…えと…」
 俺達を交互に見てから、ムーリトはおずおずと手を挙げた。
「わ、私も…」
「ムーリト、無理しなくていいんだよ?」
「で、でも…これは、町の問題でもあるし…。わ、私だって…その…あんまり役に立たないけど……というか、役立たずだけど…で、でも…何か出来る事があると…その…お、思う…から…」
「ムーリトさんも来てくださるというなら、とても心強いです」
 にこり、とアルカディアさんは微笑みかけた。
 ムーリトって気が弱いだけかと思っていたけど、ちゃんと芯が通っているみたいだ。
「よし!それじゃあ、さっさと問題を解決させて、リニアの町に平和を取り戻そう!」
「ええ」「はい」「う、うん」
 俺達三人は、覚悟を決めて洞窟へと足を踏み入れた。
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