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第三章 洞窟バトル

その2 今回の元凶、ついに発見

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 ほとんど真っ直ぐな通路を進む事、どれくらいだろう。途中、何度かカエル人間達との戦闘があったが、何とかなっている。
 ようやく、奥に通路よりは広い場所が見えてきた。ほんのりと明るい。ヒカリゴケでも生えているのかもしれないな。
ちょっとした小部屋のような場所。ここがどうやら洞窟の最奥のようだ。

「なんだ?お前達」
 俺達に声をかけたのは、どこからどう見ても研究者風の二人のお兄さん。
「それ、こっちのセリフなんだけど。お兄さん達こそ、ここで何をしているの?」
「俺達は大事な研究をしている最中だ」
「うむ」
「研究?こんな洞窟の中で?」
 研究といわれて、俺は周囲を見回した。けれども怪しい薬やフラスコの類は見当たらない。
 その代り、地面に大きく描かれた陣と、手に持っている本から、大体の想像はつく。
「お前達がカエル人間を呼び出した犯人だな!」
「犯人だなんて人聞きの悪い」
「そうだ!俺達はただ実験をしていただけだ」
「ただの実験で、あんな大量のカエル人間を呼び出されちゃ、たまったもんじゃないよ!」
「リニアの町に雨を降らせているのも、貴方達ですね?」
「そ、その陣が……ど、どういうものなのか……わ、わかっているんですか?」
 俺が詰め寄り、アルカディアさんが確信をもって問いかけ、ムーリトは涙目になりながらも睨みつける。
「ふん、愚問だな」
「わかってやっているに決まっている!」
「胸を張って言うな!」
 なんなんだこいつら……たちが悪い。
「ちっ」
 俺がツッコミを入れた時、後ろから微かに舌打ちが聞こえた気がした。こ、このタイミングって事は、まさかシャーナ…さん?
 振り返るのも怖いので、俺は話を続ける事にする。
「お前達のせいで、リニアの町がどうなっているかわかっているのか!?」
「何を言う!それこそが俺達の目的!」
「そうだ!」
「ひ、酷い…です」
 ムーリトの声が震える。
人間ひととして、やって良い事と悪い事がありますよ」
 アルカディアさんがやれやれと肩を竦めた。
「雨の降りにくい土地に雨を降らせる」
「その為には、少々 ことわりをいじる必要があるのだ」
 雨の降りにくい土地に雨を降らせる。二人の様子から、この言葉に嘘偽りはないみたいだ。
 この言葉だけを聞けば、二人のしようとしている事は、世の為人の為になりそうだ。
 けど、だからって、リニアの町が犠牲になっていい訳じゃない。
「どうしてここでやるのさ。研究室内でやればいいじゃないか!」
「ふん」
 俺が言うと、男の一人が鼻で笑った。
「ここじゃなければならんのだ」
「そうだ。ここだからこそ、記録的成果が出ているのだ」
「ここ?」
 この場所に、いったい何があるというのだろう。
 ムーリトを見ると、わからないらしく、首を横に振った。
「境界が薄いのですよ」
「きょうかい?」
「ええ。グレイス国、特にリニアの町は世界と世界の境界が薄いのです」
「その通り!」
「故に魔界の住人をこのように大量召喚する事が出来るのだ!」
「だからって本当にやるな!」
 思わずツッコミを入れてしまったのだが、二人は何とも思わないらしい。胸を張って話を続けた。
「わからんかね、研究者とは常に探求を続けるものであり」
「やるなと言われると、やりたくなる」
「……一発殴ってもいい?」
「いいと思うわ」
「い、いくら…その…悪人でも…」
「ええ、まずは話し合いにしましょう?」
「そこの二名、フォローのつもりか?」
「もっとうまくフォローしてくれ」
「あんた達ねぇ!」
「もう、ムーリトもアルカディアさんも甘すぎますわ。ここは一発ガツンと脳天をかち割らないと」
「ちょ、シャーナ!?」
 ああもう、このお姫様は恐ろしい事を笑顔で言ってくれちゃって…。図々しい研究者にシャーナまで、なんかもう、頭を抱えたくなってきた。
「…シャーナさんって、結構過激ですね」
「すみません」
「いえ」
 俺が謝ると、アルカディアさんは笑顔で答えた。
「私の知り合いにも似た考え方をする女性がいますから。彼女を思い出しましたよ」
「シャーナと同じような人がもう一人いるんですか?」
「に、似ている人は、世の中に三人いるって…その…」
「もう、今はそんな事言っている場合じゃないわ!」
 そうだった。シャーナの発言で、若干引いていた二人に視線を戻す。
「シャーナに脳天カチ割られたくなかったら、今すぐ止めるんだ!」
「そ、そうはいくか!」
「この実験が成功すれば、研究費がアップするのだ!」
「研究費!?まさか、そんな事の為にリニアの町民が危険な目にあってもいいと思っているの!?」
「そ、そんな事だってぇ!?」
 途中で声が裏返るほどに驚いたらしい。頬をカッと赤く染め、二人は力説を続ける。
「我々研究者にとって、研究費がどれほどの価値かわからんのか!?」
「わかんないよ、そんなの!」
「きー!!」
 いい歳した大人二人が地団太を踏み始めた。
 な、なんてやつらだ…。
「話し合いで何とかなりませんか?」
「今更話し合いだとぉ!?」
 アルカディアさんがやんわりと言うのだが、逆上した二人は……うん、話し合いは無理そう。
「ええい!邪魔をさせてたまるか!」
「これでもくらうがいい!」
 陣の上に二人は移動し、奇妙な呪文を唱えつつ、奇妙な踊りをし始めた。その滑稽さと突然さに、俺達は一瞬呆けてしまった。

 それがまずかったんだ。

 陣から青い光が溢れ出し、瞬く間にカエル人間達が呼び出されてしまった。
「あ……だ、だめ!」
「それ以上召喚してはいけません!」
 ムーリトが叫んだ。アルカディアさんも何かに気づいたらしく、慌てて制止をかける。
 確かに、これ以上カエル人間が増えたら困るな。なんて俺が思っていると、それどころじゃ済まされない事態になってきた。
 陣から放たれている光が、輝きを増し始めた。
「ゲロ…」
「グゲェ…」
「う、うわぁ!」
「な、なんだ!?」
 陣から洪水のように溢れてきたカエル人間達が、どんどん逆流していく。
「え!?なに、これ…」
「多分、容量越えね」
「う、うん。間違いないと思う。周囲の微弱粒子が逆流しているもの」
 意味は分からないけれど、二人の様子からして、相当やばい事態なのだろう。いくら術関係に疎い俺でも、これくらいは察せられる。
「早く陣内から出なさい!」
 アルカディアさんの切羽詰まったような声が響いた。陣の中心にいる二人も異変を察したようで、素直に陣から出ようとする。
 しかし、足元から溢れた光が帯状となり、二人の足に絡みついた。
「うおぁ!?」「な、なんだ!?」
 予想外の展開に、二人は慌てふためく。
 まさかとは思うけど、陣が研究者二人を取り込もうとしているのか?
「まずい…」
 アルカディアさんは弓を構えて、矢を二人の足元――帯めがけて放つ。
 どこか光を纏っているように見えた矢だが、陣から伸びた帯に絡め取られ、あっさりと飲み込まれてしまった。
「ここの領域、やはり魔界側か。だとすると、相当まずいですね」
「こ、このままだと…ま、巻き込まれて……」
「そうですね。皆さん、早く避難しましょう!」
 ここにいるのは、いくら俺でもやばいってわかる。でも、
「アルカディアさん、あの二人は?」
 研究者二人はカエル人間達に埋もれてしまい、俺の位置からは確認できない。声すら聞こえてこないよ。
 まさか、大量のカエル人間達に潰されているとか、そんな事ないよね?
「今の私達に、彼等を救う手立てはありません。今は一刻も早くこの場から退却するべきです」
「そんな…」
「ソルト君、急いで!」
 光の帯がカエル人間達の合間を縫い、俺達の方へと向かってくる。
 これに捕まったら二人の二の舞か…。悔しいけど、今は逃げるしかない。
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